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6-9(未来)

 皆、顔を殴らなかったのはさすがだなぁと思いながら、クリフは腹をさすった。

「大丈夫か?」

「平気です」

 クリフは苦笑して、イアナザールに返した。髪をかきあげかけて気づき、手で撫でつける。少し茶色に染めた、王子と同じ髪型だ。苦笑する口元も、髭を剃ってすっきりしている。クラーヴァ王家の絢爛豪華な盛装をすると、そこには鏡があるのかと思えるほどだった。

 遠目には。

 やはり日焼けした肌や、微妙に違う体つきや表情、目の強さなどが別人を物語っている。しかし2人と長く付き合いのある者しか分からないだろう違いだ。イアナザールの腹心ノイエは、座するイアナザールをいたわりながら、少年のような目をした青年を見つめたのだった。

「間に合って良かった」

 ノイエはクリフに礼をした。深々と頭を下げられて、クリフが慌てた。何しろ一昨日の夜までは放棄を決めこんでいたのだ。

 昨日の朝とて、実はまだ少し悩んでいた。ラウリーのことはきちんと記憶にあった。彼女がクリフに、イアナザールの代理を頼みに来たのだということも理解していた。ラウリーのことは好きだし、イアナザールとて嫌いなわけではない。だが、それとこれとは話が違う。

 そう思っていたところ、再び“ピニッツ”にラウリーが訪れたのだった。

 皆のいる前だと会いにくいなぁと思っていたクリフに、ちょうど良くラウリーが「乗って」と馬車を示したので、何の疑問もなく城から来た馬車に乗りこんでしまった。そして、あっけなく城に連れて来られたのである。

 ラウリーの自室に通された時間もあったので、2人きりになった時には「押し倒したろか、こいつ」と思い抱きしめようとしたのに、キスすらも拒まれてしまった。クリフの唇に指を当ててさえぎったラウリーは、にっこり笑って言ったのである。

「明日の婚儀が無事に済んだらね」

 まったく女はしたたかだ。

 しかも部屋の中には喋る鳥が飛んでいて、クリフをアホ呼ばわりしたものだった。

「情けねーっ。それでも男か」

「男だ」

 同レベルで言いかえしながら、クリフはこんな鳥嫌いだと思ったものだった。何しろエノアの鳥でもある。どこかに似たような性質を感じてならない。

 そして予行演習でみっちり絞られて“ピニッツ”に返され、今朝は早朝から頭を整えたり服を着替えたりと忙しい。せっかく出立までの時間を濃く甘く過ごしてやると決意した瞬間にこれだ。似合わないことはするなと言われている気がする。

 クリフは多少不機嫌な面持ちになりながら、本番に臨んだ。

 儀式は港に近い丘に建っている神殿でおこなわれた。

 そこで夫婦の誓いをして馬車に乗り、城のバルコニーから国民に挨拶をする。簡単に言えば、そういう式典になっている。その後、大広間に移って宴が催されるらしいのだが、こうなってくると近しい者に別人と見破られる恐れがあるので、ここで交代するという段取りになった。

 実際ただ立っているだけというのは、ずいぶん疲れる。杯を干したり行進したりで実に午後までかかったのだ。王族貴族の必要最低限と神官連中しかいない簡略化された式だからとはいえ、イアナザールの容体でこれはかなり辛いだろうなとクリフは思った。常に神官が側について指示を与えてくれているとはいえ、いつ失敗するかと思うと緊張を解くわけに行かない。

 イアナザールのために、精いっぱい威厳ある顔をして胸を張る。

 隣りに立つリュセスはそんなクリフをいたわるような気配をまとって、静かにしとやかに立っている。長くふんわりとしたヴェールで顔を覆っているのでよく見えないが、妻となる者の色気を感じる。クリフは俺なんかが相手で申し訳ないなぁと思ったものだった。

 ようやく式典は終わりかけていた。2人の前には大神官が立ち、神へ捧げる言葉を朗々と告げている。これで簡略化されているというなら、正式は一体何日かかるものやら。

 真実を誓うという意味合いから、女性は白、男性は黒を基調とした衣装を身につけている。

 他の神々の色も取り入れてある。向上の意味を込めてクリフが赤いマントを着ている。優しさと安らぎを示す色として、リュセスの服には青と緑の小さな魔石があしらわれている。幸運の水色もある。豊穣の茶色は男性の衣装に入っている。

 そして小さな紫の石が裏側にはめ込まれている金の指輪を、互いの指へ与える。

 死が2人を分かつまで。

 ダナは死を司ると共に、生を見守る役目を持つ。それが本来の、ダナの姿なのだ。誰もかれもを殺すことがダナじゃない。ダナじゃなかったはずだった。

 クリフは神妙な面持ちになりながら、リュセスの指に指輪をはめた。周囲は『王子』の一挙一投足を見つめている。緊張しすぎたり楽になりすぎても駄目だ。クリフは自分が王族でなくて良かったと内心、苦笑した。

 一通りの形式が終わって、これで退場かなと思った頃、側の神官がクリフに言いはなった。

「では殿下、誓いの証に口づけを」

「は?!」

 という一言が、喉まで出かかった。言葉を飲みこんで喉に詰まらせ、むせそうになってしまった。

 ロマラール国では皆の前でキスをするなど、恥知らずも良いところである。肩を並べることすら、まれだ。村中で賑わって、男は男、女は女ではしゃぎ、やっと会えるのが次の日というのも珍しくない。何しろ、女性は足首を見つめられただけで恥ずかしがるようなお国柄である。

 これがあると知ってたら俺が逃げると思って言わなかったな、あの野郎……とクリフは腹中で思いきりイアナザールを恨んだ。病人だろうが王子様だろうが関係ない。出立前に、一発殴る。

 だが取りあえず、この場を切り抜けなければならない。貴族連中の視線からするとイアナザールの立場も難しいらしいなぁと分かる。クリフは、リュセスには申し訳ないが、いっそ彼女はラウリーだと思うことにして、花嫁に体を向けた。ゆっくり一つ深呼吸をして、彼女のヴェールに手をかける。

「へ?」

 今度はさすがに呟いてしまった。

 黒いおかっぱ頭を結った娘。ヴェールを上げた中から出てきた瞳は紫色だった。

「しっ」

 ラウリーが小さくクリフを制す。もう少しで叫びそうになったが、とり乱すわけには行かない。

 あ、あ、あの野郎ーっ! とクリフの沸点が100度を超えた。

 最初から隣りに立っていたのはラウリーだったのだ。髪を切り黒く染め、リュセスになりすましていた。背格好は同じくらいである。ヴェールがあるので、遠目にはまったく分からない。いたずらが過ぎる。

 クリフは観念の笑みを洩らした。

 まったく、勝てないったらありゃしない。

 力では勝てても、精神的に、心の強さで勝てた試しがないということをラウリーは自覚しているのだろうか? とクリフは思う。どんなにへこたれても落ちこんでも、ラウリーはかならず前を向いていた。

 クリフはラウリーの頬に手をそえた。壊れ物のように綺麗で生き生きとした瞳を持つ、美しい花嫁である。抱きしめそうになる腕に我慢を強いて、クリフは指の腹でラウリーの頬を撫でた。その唇に乗る笑みも、今日は一層この上なく優しい。

 ようやくクリフの方から、唇を合わせることができた。


          ◇


 退場したら、神殿の小部屋に入る。そこで身なりを整えてから馬車に乗りこみ、パレードを経て入城する。王都中の皆が待っている。バルコニーに立って国民へ顔見せをすれば終了だ。

 ところが小部屋にはすでにイアナザールとリュセスが待っていて、「早く」と2人の着替えを即したのだ。事情を知る侍女団も皆がめいめいの配置について、わくわくしながら待っている。ラウリーは知っていたらしく、さっさとヴェールを取りながら、ついたての向こうに隠れてしまった。

「予定を変えたんだ」

 おろおろするクリフにイアナザールが言い、直後、侍女が取りまいた。イアナザールは窓際の長椅子にゆったりと座って体をいたわっている。朝に会った時と変わらない、良い顔色をしている。

「バルコニーに出るのを止めてね。馬車をゆっくり走らせることにした。パレードの馬車には屋根がない。どうせなら近い場所から直接、皆の顔を見たくてな」

 何やらうまく言い訳されている気がする。クリフのぼろが出ないうちに退散させようというところだろうか。馬車にゆっくり走られては、確かに見破られるかも知れない。特にリュセスは庶民にもしっかり顔を憶えられているので、まずいだろう。

「リュセスはラウリーと交代する必要なかったじゃないか」

 気づいたクリフが多少、声を荒げた。思いだすだに恥である。だがリュセスも負けていない。彼女はラウリーの衣装を身につけるべく、ついたての裏に隠れながら「あら」と微笑んだ。

「略式とはいえ、ご本人様と誓いを立てとうございます。それともクリフォードさん、私と口づけしたかったですか?」

「とっ」

 飛んでもないと言いかけて、それも失礼になるかと思ったクリフは、げほげほとむせた。ラウリーのしたたかぶりが発生した先が分かるというものだ。

 ラウリーは紫に戻り、クリフは黒く染めた。なぜか油性の強力な染め粉が使用された。雨でも降りそうだったかなぁと思うが、窓から見える天気は良い。

 今日は祭だからこれを着けていても大丈夫と手渡されたのは、目だけを隠す仮面だった。照れくさかったが、

「髭の代わりに」

 と言われれば着けざるを得ない。

 酒場で皆が待っているらしい。ルイサが踊るというのだ。かつてラウリーがマシャと再会したパブだそうである。2人はその店にふさわしい、下町の盛装になった。庶民が一生懸命に着飾ったという風体の服装が、自分には馴染んでいる気がした。王家の服など、もうごめんだ。

「じゃあ、また」

 と別れて街へ出たクリフは、イアナザールのパレードを眺めて、つくづく思ったのだった。

 あの格好はやはり王子のものだ。馬車もこれまた豪華に飾られていて、そこに納まって民に手を振る王太子と王太子妃は別世界の人間に見えた。自分にはできない表情だ。2人ともおだやかな顔をしている。馬車が低くて遅いので、とても近しい者に感じるが、同時にとても厳かなものをも感じる。バルコニーの高さより、ここにいたかったのかも知れないとクリフはイアナザールに対して思った。高いところから人々を見おろす姿が似合わない。彼は良い王になることだろう。

 見ながら彼の体調が気になったが、そこはぬかりがない。馬車を囲んで歩く騎士の中に一人、違和感のある魔法師がゴーナを操っていたのだ。極力印象を薄くしている、目立たない絶世の美男子というのもおかしなものだったが、イアナザールらの馬車に沿って歩くエノアに気づく者は少なそうである。もっとも黒マントを脱いでいれば、どうなるものか分からないが。

 エノアの発する『気』がイアナザールとその周囲を、優しく包みこんでいる。あの男から出ていると思えないほど柔らかな気配だなと、クリフは顔をほころばせた。

「早く」

 迎えに来てくれたマシャが2人を急かす。彼女も今日は“女の子”になっている。

「行こう」

 ラウリーに腕をからめ取られて、うろたえながらクリフも走った。王都中どこもかしこも歓声に包まれていて、皆が幸せを味わっている。このような日々がいつも、いつまでも続けば良いのにと願わずにいられない光景だった。

 人々の間を縫うようにして店に入ると、ここにも人が溢れていた。すでに盛りあがっていて誰もクリフらに気づかないのではと思われたのだが、マシャが叫んだので全員に注目されてしまった。“ピニッツ”の者もいるが一般の客も多い。今日は皆、めいめいに散っているようだ。

「お待たせっ!」

 甲高く透明なマシャの声が、店内をさらに明るくする。かき鳴らされていた音楽が曲調を変えて、速い、リズムの良いものになった。どこからともなくジョッキがもたらされて、押し流され、2人は店の真ん中に立たされた。

 一斉に乾杯の声が上がり、クリフにだけ、一斉に麦酒がぶっかけられた。

「どわあっ?!」

「この野郎、お前ばっかり良い目を見やがってっ」

 ギムに全身を締めあげられて大慌てをする。トートもいて、思いきりよく頭を引っぱたかれた。知らない者たちにまで散々にいじめられている横で、ラウリーは驚きながら、マシャは困りながらも結局2人とも大爆笑している。途中で仮面が落ちたが、髪が黒いままだし情けない姿だったので、誰もイアナザールだとは思わないらしい。それはそれで失礼な話だったが、今はそれで良かったなと思う。

「男は辛いねぇ」

 とか何とか聞こえたが、だったら助けやがれと思っても今日は味方が一人もいない。手荒い歓迎を受けながら、クリフは幸せを噛みしめた。どんな時にも辛さが潜んでいる代わりに、どんな場所にも幸せを見つけられるものなのかも知れない。

 ほどなくルイサを含む何人もの踊り子が舞台に上がって踊りだしたが、歓声に包まれているうちに皆も歌い、踊りはじめた。店中が騒然となっている。歌声が一つになっていく。

 紡ぎだされる歌が『世界歌』に変わり、男も女も、皆がジョッキを掲げて歌った。その隙間を踊り子が舞っていく。ラウリーの可愛らしいソプラノ声とルイサの低く落ちついた美声が混ざりあって一つの声であるかのように響き、横に立つクリフに鳥肌を立たせた。

 手を差しのべられて、つなぎ、一緒に歌う。

 クリフは強くラウリーの手を握りしめた。


  天の与えたもう光を心にともし

  水に湧きいでる命をそそげ

  地から吹き出る力を握りしめ

  今 風をつれて 旅立たん


 その頃イアナザールたちも馬車から手を振りつつ、空いている互いの手はしっかりと握りあっていた。

 小声でイアナザールが呟いた。

「夫婦両方に身代わりを立てて儀式をおこなった王族は、そうそういないだろうな」

 声は本当に小さくて、リュセスにしか聞こえなかった。通りに王都中の者が集まっているのではと思える人数がひしめき合い、満面の笑みで王子たちを祝福している。馬車を守って一緒に歩く騎士らも、いかつい顔をしながらも、どこかほころんで見える。

 それらを一緒に味わいながら、リュセスは王子に微笑んだ。

「あなただけかも」

 耳たぶを噛みそうな間近でそっと言って、リュセスは包みこんでいた彼の手を少しつねった。一瞬イアナザールは驚いた顔をしたが、すぐにリュセスの笑顔に溶けた。

「改めて誓いましょうね」

「ああ」

 すでに誓いなおす必要もなさそうな熱愛ぶりを振りまきながら、馬車はゆっくりと城へ向かう。“ケッサ・ギュステ”にそびえ立つ数本の塔を、光りかがやく空が覆っていた。


  秘めたる力を開け 解き放て

  そしてためらわず 走り出せ

  それができる人間なのだから

  誰しもが 走り つまづき 転び

  起き上がり また走る


 ユノライニ王女たちは、ソラムレア国に帰っていった。その顔は今ひとつ晴れない。

 交渉が失敗に終わったからだ。

 本当は和解してアムナ・ハーツら正規軍と反乱軍を統合したかった。アムナも貴族の称号を持つが爵位は低い。平民ともうまくやれる男ではないかと評議会は見こんでいた。それもユノライニたちはアムナに伝えたが、アムナら以下700人の正規軍は条件を呑まなかった。

 国内に入れば元正規軍は敗者扱いとなる。今までの所業も罪となる。弱者に甘んじるより、新しい地での地位を見いだすことを選ぶと言ったのである。

「停戦条約は結びましょう。ですが今後、互いを侵略することがあれば、その時点で条約は無効となりますゆえ」

 つまりアムナは、ユノライニたちが国へ帰るのを邪魔したりはしないが、こちらにも手を出すなと言ったのである。かかわれば彼は今度こそ自害の覚悟でむかえ撃つだろう。それならそれで正規軍を完膚無きまでに叩きつぶしてやる……と血を沸きたたせた者も反乱軍内にいたが、いかんせん今は双方が傷つきすぎてしまった。犠牲を出さないためにも、ユノライニたちは身を退くしかなかったのだ。

「イアナの英雄がいれば、話の流れが変わったのでしょうか」

 思わず呟いてしまった反乱軍リーダーの言葉を、ユノライニは無視した。船の舳先に立って潮風にあおられながら海を見つめる。彼女は背後に立つシーガに聞こえないほど小さくささやいて、きりと奥歯を噛んだ。

「あの男、いつか私にひざまずかせてやる」

 数週間を経て変化した王女の心境を知る者は、まだ誰もいない。


  風をつれて行け

  水をつれて行け

  地を供に

  炎をかかげよ

  天に仰げ


 まったくどこだかが分からない部屋は、異国情緒に満ちている。貝殻を埋めこんだ生成り色の壁には、潮の匂いが染みついている。近くに聞こえる波の音はおだやかで、壁の奥に住まう者らの様子もやっぱりおだやかで、とても、この者たちが人間すべてを滅ぼさんとする魔力の使い手だとは思えない。

 外には夏の強い日ざしが溢れているが、屋内の空気はひんやりとしている。魔の気を感じさせないのに魔法を使うことができる、これはオルセイの力だ。彼らの住む家は島の離れにあり、島も小さなもので大陸と離れていて、世の動乱を知らない者だけが住んでいる。

 魔法のことは忘れたが、敬虔に神を敬う者たちだけが住んでいる。

「生き残れると思うかね?」

 それは声なき声だった。老婆はまるで縫い物でもしているような格好で、ゆったりと安楽椅子に身を横たえている。海の家に似合うポーズだったが、服装だけが浮いていた。顔を見せない深いフードと、体を隠す黒いマント。

 だが、そのマントさえ気にしなければ、2人は親子のようにも見えた。

 彼女の思念を受けとった青年はテーブルに頬杖を突いて窓の外を眺め、スカの実をかじりながらくつろいでいる。血のついたローブはとうに脱ぎすて、まるで普通の、村の一青年らしき格好をして『魔の気』を消してしまってあるのだ。

 口元に薄く浮かんだ笑みにさえ気づかなければ、彼がダナだとは分からない。

「神のみぞ知る、さ」

 オルセイは微笑みながら赤い実を握りつぶし、ぐちゃりとした感触を楽しんだ。


  人の与えたもう夢を

  人に与えられた力を

  人が見る夢を

  人が持つ愛を

  すべてが未知であり

  すべてはそこから始まる


 クラーヴァ国王都の賑わいは止まらない。世界のそうした影をすべて吹き飛ばして明るく照らすかのように、城にも街にも、光が溢れている。

 皆の声が一つになっていく。酒場だけでなく、王都すべての、国中すべての者が歌っているような感覚に落ちていく。落ちる。違う。昇る。

 昇っていく。

 体中を声にして、感情を全部、吹き飛ばして。もう笑っているのか泣いているのかも分からないほどの興奮が、体中を包みこむ。ほとばしる。個人の感覚も消えて世界中が一体になったかのような錯覚の中で『世界歌』が昇りつめていく。

 今の精いっぱいをかけて、明日の歌を歌う。


  ──すべてをつれ 大いなる世界に旅いでよ


 ~エピローグに続く~

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