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09.悪寒が走る婚約署名

「承諾してくれて助かった」


 にこにこと笑顔を振り撒きながら国王陛下が着座した。到着を告げる声がなかったけど? まあ、ここは国王陛下の執務室だし……ご自分の部屋ならいいのかも。客人といっても臣下だし。


 突然の乱入者に気が動転したらしい。一人で脳内会話をしてしまった。向かいのソファに腰掛け、国王陛下はぐったりと寄りかかる。疲れたとぼやく姿に、はっと我に返る。きちんと伝えなくては!


「承諾ではありません」


「なんだ! ルーカスは不満か。婿を探せと言うから探したのだぞ。他に誰か、婚約者のいない高官はおったか?」


 国王陛下はうーんと悩んで、ぶつぶつと独り言で話を進める。


「私では不足でしたか」


「私の家格が釣り合いません」


 身の程は知っている。そう伝えたところ、にっこりと笑顔を向けられた。いわゆる満面の笑みというやつだ。凛々しい雰囲気に似合う美しさなのに、背筋がぞくっとした。受け答えを間違った気がする。


「宮廷占い師殿相手に、家格など関係ありません。よかった、監禁せずに済みそうです」


 かん、きん? 聞き間違えたかな? 背筋がゾクゾクして、風邪を引いたのだと自分に言い聞かせた。断じて、理想の殿方のヤバい裏面を知ったわけではない、と思いたい。


「機密に関わった文官や武官を引き抜くのは、どんな国であれ禁忌だ。まったく、碌なもんではない」


 国王陛下は筋の通った人だ。無理な要求をしないし、信賞必罰を旨とする公平な王だった。その人がここまで言うのだから、隣国はかなり強引に話を持ち込んだのだろう。


「占いは可能だろうか?」


「はい。複雑なものでなければ……今日は王妃殿下のお茶会で占い過ぎました」


 内容を変えれば同じ人を何回占ってもいいのだが、今日はカードが足りない。そのため複雑な占いは難しかった。濁して、回数制限があるかのように振る舞う。国王陛下は大きく頷いて、ぐっと身を乗り出した。


 だらしなく背を預けた姿が嘘のようだ。迫力が違う。


「隣国の狙いが何か。ある程度の目安でいい」


「畏まりました」


 スモールカードのみで展開する。シャッフルして扇状に広げた。裏の柄面が軽い音を立てて並ぶ。簡単そうに見えるが、均一にカードを並べるのは技術が必要だった。片寄れば、人はそこを気にする。占い結果が変わってしまうのだ。


「どうぞ、三枚お選びください。伏せてこちらへ右側から」


 国王陛下はじっくり眺めて、三枚を選んだ。私の左側から並べていく。その間に残されたカードをすべて回収し、積み重ねて置いた。


「過去、現在、未来……」


 カードを指差しながら伝え、中央の現在を開く。その下に一枚のカードを捲り、セットにした。同じように未来も一枚加える。じっと見つめる先で、カードは一つの答えを示した。


 連鎖読みはセンスが必要だ。我が一族に継承される能力だが、後から身に付けることは難しい。だからこそ、占い師は一族の血を絶やすことを恐れた。一度失われたら、戻らないかもしれないから。


「現在は困難な状況にありますが、突破口は見えているはず。すぐに解決するでしょう。近い未来……さらなる難題が訪れます。それは断ることで混乱を招くけれど、受ければ破滅をもたらすかも」


 国王陛下は立派な髭を手で撫でながら、宰相閣下に命じた。


「いますぐ婚約を調えろ」


「はい」


 目の前で婚約が決まり、書類が提示される。署名するよう促す宰相閣下は、なぜか嬉しそうだった。数回の遠慮と命令が往復し、私は王命に負ける形で署名した。

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