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08.婚約話が持ち上がったそうです

 国王陛下がお呼びだと聞き、すぐに宰相閣下に続いた。謁見するにはドレスの格が足りない。けれど、いつも通り客間で構わないと言われてほっとする。最悪、着替えに帰ることも想定していた。途中で侍従が駆け寄り、執務室へ変更になったと聞く。


 お忙しいのだな、執務をしながら結果を聞きたいのだろう。前にも経験した状況なので、頷いて宰相閣下の背中に続いた。文官なのに、意外と筋肉がある。細身だけれど、頼りがいがありそう。ヴェールをして後ろにいるためバレないだろうと、じっくり観察した。


 やっぱり素敵だ。頭二つ分くらい身長差があるが、私が高いヒールを履けば隣に並べるかも。ふふっと妄想に口元を緩めた。足を止めた宰相閣下に従い、数歩下がった位置で立ち止まる。ノックと入室許可……ふと違和感を覚えた。何かがおかしい。


 占いの力を母から継承した私は、その頃から勘が鋭くなった。違和感はもちろん、数秒先の危険に関する予知のような能力も生まれる。伯母の話では、カードの継承者に備わる力で代替わりすると消えるのだとか。一枚足りないカードを収納したケースを強く抱き、私は入室する宰相様に声をかけた。


「宰相閣下、なぜ警護がいないのでしょうか」


 この部屋に限らず、王族のおられる扉には護衛が付く。交代制の警護だが、必ず誰かが付き添った。つまり、警護の兵がいない扉の向こうに王族はいない。先に感じた警告に似た不快感の理由に思い至り、宰相閣下に確認を取った。


 振り返った彼は目を見開き、小さな声で「合格だ」と呟く。合格? ということは、これは私を試したのかしら。眉を寄せて睨むが、ヴェール越しで見えないことに肩を落とした。何をしてるんだろう、私。落ち着いて話を聞いた方がよさそう。


「国王陛下はおられない。だが相談に乗ってくれないか?」


「はい」


 断る理由がない。一礼して入室し、執務室を見回した。装飾品は立派で、国王陛下が執務に使っている部屋で間違いない。この部屋は借りたのかしら。それとも後から陛下が合流される、とか。考えながら進められた椅子に腰かけた。


「厄介事に巻き込まれそうで、助けてほしい」


 端的に用件から入られ、部屋の様子を窺った。私達以外には、口の堅い王宮の侍女と宰相閣下の補佐官のみ。事実上の人払い状態だった。かなり重要な話のようだ。占い師は口が堅い職業で相談を持ち掛けられることも多い。私は静かに首を縦に振った。


「ありがとう」


 宰相閣下はほっとした表情になり、補佐官や侍女に合図を送った。用意されたお茶を手元に引き寄せ、二人が外に出るのを待つ。扉を指一本程度開けたまま、補佐官が扉の前に立った。隙間から背中が見えている。これで未婚の男女が同室する状況への対策とするらしい。


「実は……縁談が持ちかけられている」


「宰相閣下は独身で魅力的な方です。当然ですね」


「いや、私ではなく君に……」


「はい?」


 宰相閣下じゃなくて? 私……って、どちらの私だろう。


「それはネヴァライネン子爵家に対してですか?」


「いや、占い師イーリス・ヴェナライネン嬢だ」


 隣国の公爵家から申し込まれていた。以前、夜会で王妃殿下に乞われて隣国のお客様を占ったことがある。その場に立ち合い一目惚れしたとか。


「一目惚れはないですね」


 あの夜会からすでに三カ月だ。一目惚れならもっと早く動いたはず。となれば、占い師が欲しいのかな? なんて俗な考えで肩を落とした。顔も見えない相手に一目惚れしたなら、それはヴェールに対してよね。私は顔を見せていないんだから。


「ヴェールを外さない君に対する求婚としてはおかしい。だが友好国の公爵家から出された婚約願を退けるため、陛下は「すでに婚約済みだ」と答えた」


 なるほど。それでヴェールに覆われた顔も知らない女と婚約させられる不幸な男性は、どなたでしょう? じっと見つめる先で、宰相閣下は眉間を指で押さえて溜め息を吐く。


「その……私と婚約していることにしてくれないか?」


「はぃいぃぃ?」


 途中から裏返って甲高い疑問形の声が漏れた。

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