表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】宮廷占い師は常に狙われています! ~魔の手から逃げきってみせますよ~  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/100

75.私の選んだ旦那様

 裾を踏まないよう気をつけながら、祭壇まで進む。途中で手を離した騎士団長を置いて、私は一人で先へ足を踏み出した。考えてみたら、私が婚約者を探している話をした時、冗談めかして名乗りを上げた。あの時に気づいていても……何も変わらない。


 私は政略結婚だと誤解した状態であっても、ルーカス様の手を取ったと思うから。だから、変に気持ちを残さないよう振る舞う。礼服の騎士団長に伴われた花嫁である私は、愛する花婿の元へゆったりと近づいた。頭の中でワルツのリズムを確認しながら、顔を上げて花道を歩いた。


 右側は呼ばれた方々、左側は国王夫妻の後ろに親族、一番後ろに侍女や執事も並んでもらった。ハンナもそこにいるし、陛下の近くにはエルヴィ様達も見守っている。


 進むたびに、並んだ人達との思い出が過った。小さな出来事も、日常の会話も、すべてが私を構成する一部だ。陛下や王妃様に会釈して、ついに階段へ足を掛けた。正面で待つルーカス様は、今日も麗しい。間違いなく花嫁の私より美しいと思う。


「リンネア」


 柔らかく呼ぶ声が好き。差し出される手のごつごつした感じや、私より少し冷たい指も。何よりあなたを作るすべてのパーツが好きで、誰よりも愛しているわ。


 自然と口元が緩んで笑みが浮かんだ。見上げるルーカス様の表情も穏やかだ。周辺国で容赦ない悪魔と呼ばれる、宰相閣下の面影はなかった。目の前にいるのは、私の夫になる人よ。宮廷占い師イーリスと子爵令嬢リンネアを、同時に愛してくれる人。


 神父様の祝福を受け、愛を誓う。決まり文句が終わった直後、ルーカス様は「命が果てても手放さない」と付け足した。定型句では「死が二人を分つまで」なのだけれど、足りないのね。欲張りな彼に私は囁いた。私もよ、と。


 触れるだけの口付けをして、さっと離れた。だって、人前でこれ以上は恥ずかしいわ。ヴェールが欲しいと思ったのは、本当に久しぶりだった。赤くなった顔を隠すのに、ぴったりなアイテムなのに。


「おめでとう、イーリス」


「リンネアと呼んであげて、あなた」


 国王陛下のお祝いに、王妃様が笑いながら名を訂正する。もう一度お祝いの「おめでとう」をもらえたので、とても得した気分だった。


 一人で歩いた花道を、今度は二人で逆に進む。扉の近くで剣を捧げて敬礼する騎士団長ソイニネン伯爵の前で、ルーカス様は足を止めた。


「祝いをくれ」


「散々もらったろ」


 気安い会話の末尾に「おめでとう」を付け足した伯爵は、やや潤んだ目をしていた。ルーカス様は笑みを消し「遠慮なんてするからだ、このバカが」と呟いた。きっと周囲には聞こえないくらいの声で。受けた騎士団長は片眉をぐいと上げて、心外だと言わんばかりの表情を作った。


「彼女が俺を選んだら遠慮してねえよ」


 その切り返しが、私の胸に突き刺さる。友情と恋愛、どちらも諦めない選択をした人と、片方を失っても見守る優しさを示した人。私が名前と同じように二人いたらよかったわ。


「ルーカス様」


 促すために声をかけ、止まった足を動かす。教会を出て、用意されたテラスから街の人々に手を振った。領主の結婚式は公表され、必ず花嫁のお披露目が行われる。最後の大仕事ね、そう思って臨んだけれど……本当の大仕事は夜に待っている。私はそのことを失念していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ