57.私の常識がおかしかったみたい
女性とのお茶会は咎められないので、ニュカネン子爵のエルヴィ様とお茶を楽しむ。いえ、楽しむと表現するのは間違っていた。盛大な愚痴がぶちまけられる。
「ありえないわ」
「そう? 愛されていて幸せじゃないかしら」
お嬢様……じゃなくて王女様の思考はどうなってるんだろう。隣国アベニウスでは、ストーカーが普通に認められてるの? 頭に大きな疑問符を浮かべ、私は首を横に振った。
「だって、妻を監禁するのよ」
「誰にも会わせたくない。声も姿も私だけと思うのは、恋愛の常ですわ」
恋愛脳のエルヴィ様と話していると、私が我が侭を口にした気分になる。そっか、監禁に反対する私やハンナは、少数派なのかも。世間の奥様達は、監禁するほど夫に愛して欲しいのね。うんうんと頷きながら納得した。
そういえば、王妃様やムストネン公爵夫人がお好きな恋愛小説も、束縛系が多かった。恋人をがっちり掴まえて離さない主人公ばかりだし、他の男と話すだけで嫉妬していた。ヒロインも特に不満はなさそう。あれが世間で受け入れられる標準なら、ネヴァライネン子爵家がおかしい。
早くに両親を亡くしたから、そのせいで私の常識が狂ってるんだ。納得して肩を落とした。私って世間知らずで困るわ。
「そうなんですね。私は何も知らなくて……本当に占い以外の特技がないんです」
「そうだわ、占ってほしかったの。お願いしてもいい?」
「構いません」
いつも持ち歩く小さめのバッグから、占いカードの入ったケースを取り出した。このバッグは布製にしている。高価に見えると盗られそうだし、布は畳んだら小さくなるのが利点だ。革のバッグも勧められたが、断った。
「この布も素敵ね」
バッグかと思ったら、占う時に敷くクロスの方だった。
「夜空のイメージですわ」
褒めてもらっった布の上にカードを置き、丁寧に広げて混ぜてもらう。占う内容は、隣国のこれからだ。元王族が触れたなら確実性が高まりそう。
エルヴィ様の心配は、民が飢えたり傷ついたりしないか。この一点だった。そのため、占いの結果も引っ張られる。一時的な苦難と……その後の明るい未来。叛乱が起きるって意味かな?
どう伝えたものか言葉を選ぶ私が口を開く前に、エルヴィ様が首を傾げる。彼女の視線の先を辿れば、見覚えのある女性が一礼した。
ハンナだ! まだ仕事に復帰していないので、侍女の制服ではない。柔らかな緑の服にキャメルの革ベルトをしてた。
「ハンナ! 帰ったのね」
立ち上がって叫んでしまい、慌てて口を手で覆った。しまった、今はイーリスだった。宮廷占い師の品格が! 青ざめる私をよそに、エルヴィ様は嬉しそうに胸の前で手を組んだ。
「あの方がハンナさんね。お会いできて嬉しいわ。一緒にお茶にしましょう」
救われた……心底そう思いながら、久しぶりに顔を合わせたハンナの椅子を用意させた。




