第五十四話 母をたずねて
今は昔。
女がいました。女は貧しい農民の妻でした。可愛らしい5つの男の子もいました。
女は、貧しさに耐えかねてか、夫も子供も捨て、村に来た小間物屋と駆け落ち同然に家を出てしまいました。
あとに残された夫と子供は暮らしもままならず、世をははかなんで、崖から飛び降りました。夫は無意識に子供をかばったのか、子供だけは助かりました。
一人で、世間に残された子供です。真っ当には生きていけませんでした。それでも、母が恋しくて、母を訪ね歩きました。母が苦労しているのではないかと、褒められた方法ではありませんでしたが、お金も貯めました。
子供は、成長して、大人になり男になりました。好きな女もできました。
男が好きになった女は言いました。
「おっかさんに会っても、そんなやくざなままではいけない」
と。女は、水茶屋で働いていました。客の中から、左官の仕事を紹介してもらいました。男は、好きな女のために、まだ見ぬ母のために、一生懸命、心を入れ替えて、真面目に働き始めました。
ですが、幸せは長く続きませんでした。女の父親の借金のため、女は身を売らなければならなくなりました。男は、母のために貯めたお金を出しましたが足りませんでした。女が売られていく遊女屋こそ、男の母が営んでいる店でした。男は女のため、借金を待ってくれるように頼みにゆきました。しかし、けんもほろろに叩き出さされました。と、そのとき、男の首にかかっているお守り袋が女の目に入りました。それは、かって、女が子供のために作った守り袋でした。女は守り袋に手をとりました。
「何をするんだ」
「この守り袋はどうしたんだい?」
「おっかさんが作ってくれたんだ。やさしいおっかさんだった」
女は、カタギの暮らしをしている我が子に自分のような母親がいるのはよくないと思いました。そして、なんとか、子供の恋人を助けられないか考えました。
男の金に自分の金を足しました。遊女屋を一緒に営んでいる男たちには男が持ってきたと偽りました。
女は子供に会いたくて、影から覗いていました。男は、まだ、自分の恋人を諦めていないのかと思い、悪態をつきました。
「いいかげん、俺たちの周りをうろつくのはやめてくれ。金なら、返したはずだ」
「ふん、あの子のおとっつあんは、また、借金をこさえるよ。そうしたら、あの子はうちの店で稼いでもらうんだよ」
心にもないことをいう女でした。
ですが、女と一緒にいる男たちも女を諦めていませんでした。男たちは、また、女の父親に借金をさせました。そして、男たちが女を連れて行こうとしたとき、女を男たちから連れ戻そうとしたとき、争ううち、男の一人が女を手にかけてしまいました。すべてはあの女が仕組んだと男は考えました。男の怒りは女に向かいました。
男は匕首で、女を刺し殺してしまいました。
男たちが喚いています。
「お前、実のの母親を手にかけやがった」
「実の母親・・・どういうことだ・・・」
「ごめんよ。お前を捨てた報いを、今、私は受けているんだ」
女の最後の言葉は誰にも聞こえませんでした。
女の生前の非道な行いもあり、男は情状酌量の上、十年の遠島という裁きがくだされました。
女の本当の心に気づいたものは誰もいませんでした。




