㋣虎と仲良く屏風のなかに
今は昔。
有徳の僧がいました。
ある日、僧は将軍様より呼び出されました。屏風の中の虎がときおり、抜け出して悪さをするので懲らしめてほしいというのです。僧は、また、将軍様のいつもの戯れかと思い言いました。
「では、屏風の中の虎を追い出して下さい。追い出して下さったなら、見事、捕らえてみせましよう」
将軍様が合図をすると家来たちが虎を屏風の中から追い出しました。そして、虎は僧、めがけて襲いかかってきました。僧はびっくりしました、まさか、本当に屏風の中から虎が出てくるとは。あわや、虎に喰われるかと思ったその時、虎は動きを止めたのです。
「そなたは、、、」
虎が喋りました。僧は何が何だかわかりませんでしたが、虎の前足にある星のようなやけどの後を見つけました。忘れようもない兄弟子。兄弟子の腕には確かに星のようなやけどの後があったのです。
小さい頃、寺に入れられ、母が恋しく、父が恋しく泣いていた自分を何かと気遣ってくれた兄弟子でした。兄弟子は学問にすぐれた方でしたが、多少、それを鼻にかけるところがありました。寺を出て立身出世をはかるのだと言って、姿を消しました。それがどうして、虎などになっているのだ?
僧は将軍様に言いました。
「二度と悪さをしないように虎を説得いたします。どうか、虎と私だけにしてもらえませんか」
虎、いえ、兄弟子と二人きりになった僧は言いました。
「どうして、このようなことになったのですか」
「うむ。実は立身出世を望んで寺を出た私だが、世の中は甘くなかった。気がつけば盗賊まがいのことをして日々の糧を得ていた。その報いだろうか。気がつけば、私は虎になっていた。虎になった私は人を喰らい生きてきた。そんなわしを何者かがわしをこの屏風の中に閉じ込めた。私を虎にしたものも、ここに閉じ込めたのが、何者かはわからぬ。だが、屏風の中は存外、よくてな。屏風の中にいれば腹も減らぬので、人を襲うこともない」
「ですが、先ほどは私に襲いかかってきましたが」
「そうなのだ。何かの拍子に、屏風の中から出てしまうのだ。屏風から出ると人を襲わねばならぬと本能が語りかける」
「私も一緒に屏風の中に入りましょう。あなた様が屏風の中から飛び出さないように、私が抑えます」
「何ということをいうのだ。お前がそんなことをする必要はない。私の罪業にお前を巻き込むなど。第一、どうやって、入るというのだ?」
「あなた様はどうやって戻っているのですか」
「わからない。いつの間にか、戻っているのだ」
「きっと、方法はあります。私はもう、あなた様と離れたくない。あなた様はもう忘れられたのですか?幼い頃、誓った愛を」
「忘れるものか。思えば立身出世を願ったのもお前のためだった」
と、その瞬間、虎と僧は屏風の中に吸い込まれていきました。
将軍様やその家来たちが、やはり、心配になり、屏風のもとにいきました、そして、彼らが見たものは屏風の中で幸せそうに仲良く寄り添う虎と僧の姿でした。
となむ語り伝へたるとや
ここまでお読みいただきありがとうございました!入りきらなかったお話は、別作品の『(奇想短編箱:へのへのもへじの枠に収まらなかった物語たち』に投稿しています。よろしければお読みください。こちらも300文字〜の短篇です。お時間はとらせません(^_^;)
https://ncode.syosetu.com/n1413mc/




