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帝国の王が望んだもの

作者: 瀬崎遊

沢山の人が亡くなります。

ご注意ください。


すいません。

改行が変だったのでいじりました。

 何も身にまとわない体の上に男達が私の上に乗り、体を揺さぶる。

 もう何も感じなくなったと思っているのに、新しい男が私の上に乗る度に涙が流れ落ちる。


 正気を失いたいのに、冷静な自分がいて、正気を失えない。

 どうしてこんな事になってしまったんだろう・・・?



 アイシス・クロードが十六歳になった日、父が「欲しい物なら何でも買ってやろう」と甘いことを言い出し、アイシスは父に説教していた。

 

 母はそんな私と父を見て笑いながら、三人で買い物に出かけた。

 いつも賑やかな街が、なんだか静かなのだけど、何か異様な雰囲気がした。

 それが不思議で、私達三人はあたりを見回していた。


「どうしたんだろう?店も、閉店ばかりじゃない?」

「そうだな・・・」

 ちょうど店を閉めようとしていた小物屋の店主に「今日はどうしたんだ?」と、質問した。


「良く解らないんですが、兵士が今日は店を閉めろ。外出禁止だ。と言い回っているんです」

「なに?」

「本当にそれ以外は解らなくて、急いで店を閉めているところなんです。あなた方も早く家に帰ったほうがいいですよ。きっとろくでもない事が起こるに決まってます」


「ありがとう、そうするよ」

 私達は急いで馬車に乗り込み、急いで屋敷へと戻った。


 無事に家に帰り着いた時は、詰めていた息を吐き出したほどに緊張していた。

 私達の家紋が入った馬車にも「急いで帰れ!!」と兵士と騎士に何度も告げられた。


「一体何があるんでしょうね?」

「解らんが、戸締りは厳重にしょう」

 執事のカンタックに街であったことを伝え、厳重に戸締りするように伝え、通いの者は今日は泊まるように伝えた。


 父とカンタックが料理人に、このまま閉鎖状態が続くと、何日間食べていけるか聞き出していた。

 母は私に「せっかくの誕生日だったのに残念ね」と私を抱きしめてくれて、私を案じることで、母自身を奮い立たせているようだった。


 誕生日にと用意されていた食事を、屋敷の皆で食べ、明日になればなにかが変わるかもしれないからと、今日は早く寝てしまおうということになった。



***



  全ての国へ


   帝国の絶対神(王)は、すべての者へ絶対服従を

  望まれている。

   帝国に服属せよ。

   そうでなければ、すべてのものを殺し尽くすこ

  とになる。

   まずは小動物が息絶えるであろう。

   鳥の鳴き声が聞こえなくなったならば、始まっ

  たのだと心得よ。 

   その時にはもう遅い、一週間以内に服属の意思

  を示せ。

   

   服属したならば、助けてやろう。



            絶対なる神のお言葉である



***



 王族に届いた帝国からの手紙を信じるものはいなかった。

 王族はその手紙を発表することなく握り潰した。

 ある日の朝、小鳥の鳴き声が聞こえないと。報告が上がってきた。

 王族は、まさか・・・と思った。

 その翌日、家畜が死んでいると報告が上がってきた。

 王族は慌てて、帝国と交渉しようとしたが、その時はもう遅かった。

 交渉の窓口は閉じられていて、帝国へ連絡すら取れなかった。



***



 一週間経っても外出禁止令は解けず、自宅にこもっている以外出来ることはなかった。

「理由も分からず閉じ込められるのはたまったもんじゃないな」


 父が不服そうに言っているが、不安に押しつぶされそうになっているのだろう。

 父だけではない。ここに居る皆が不安で仕方ない。


「もうすでに外出禁止令が解かれている可能性はありませんか?禁止令の時も我が家には誰も何も伝えに来なかったのでしょう?」


「そうだな・・・だが、無理は出来ん」

 一人の使用人が進み出てきた。

「旦那様、私は家に家族を残してきています。一度様子を見に行くついでに街の様子も見てまいります」


「コンスタック、やめたほうがいいと思うぞ」

「自己責任で行ってきます。私は家族の側にいたいです。一度家に戻って、何もなければ明日朝、戻ってまいります」

「解った。気をつけていくんだぞ」

「はい」


 コンスタックは翌朝になっても帰ってこなかった。

 家まで帰れたのか、他の理由があって来られないのかも解らないままだった。

 窓から見える景色は、いつもと一緒で、ただ、鳥の鳴き声も聞こえなかった。


 二週間が経った頃、昼食が用意できたとメイドが呼びに来たが、その食事はパンが一つと、干し肉のスープだけだった。

「お父様、いつまで食事が持つのですか?」

「パンだけなら、まだ一ヶ月やそこらは持つから安心しなさい」

 そう聞いて、ほんの少し安心した。


 通いの者は家に帰りたいと言い出していたが、戻ってこないコンスタックのことがあって、誰も屋敷から出ようとはしなかった。


 使用人達を励ましていた時、聞いたことがない、大きな音がして、地面が揺れ、昼間の青空が不気味な紫色になり、息が苦しくなった。

 使用人達がバタバタと倒れていった。


 私も息が苦しくて、その場に座り込んだ。

 周りを見回すと、誰も彼もが横たわっていて、息をしているようには見えなかった。


 なに?何があったの?

 そう思った時に、意識は薄れていった。

「お父、様・・・」


 

 体を揺さぶられて、身じろぐと「おっ、生きている女発見!!」という声が聞こえ、誰かの肩の上に担ぎ上げられた。

「だれ?」

 七〜八人の男達が居る。

 皆、身なりはいい。


「世界の終わりに生き残った者だ」

「世界の終わり・・・?」


「帝国が世界の滅びを願って、大魔法を使ったと思われている。世界中に黒い矢が降り注いだと思ったら、霧のように空気が紫色になって、多くの者を死に追いやったんだ。紫の空気に体が馴染んだものだけが生き残ったっていう仮説が今のところ立っている」


「そう、ですか・・・ところであなた達は私の家で何をしているのですか?」

 ハッと気がついて「お父様!お母様!!」

「残念だったな、この家で生き残っているのはお前だけだよ」

 私を担いでいる男が(うそぶ)

「下ろして、お父様とお母様のところにっ!!」


 私は地に降ろされたが、体がふらついた。

「紫になってから一週間が経っている。その間飲まず食わずなんだから、まともに体が動くと思うな」

 私を支えてくれた人にお礼を言って、テーブルまで連れて行ってもらって、水を飲んで、紫になる前に食べていた昼食の残りがあった。

 私はそれにかぶりついて、水で流し込み、父と母を探した。

 少し食べたことで空腹が際立ち、お腹がぐぅと鳴った。



 父は、父の席の側で。

 母は、母の席の側で倒れていて、生きてはいないことが遠目にも解った。

 体が紫色に変色して一回りほど大きくなっていた。

 私は父と母に縋りつこうとしたけれど、今まで黙っていた騎士に止められた。

「不用意に触ると、体が破裂して、紫の空気が濃くなるから触らない方がいい」


 両親に取りすがることも許されず、ただ泣くしかできなかった。

「お父様、お母様!!」

 暫く、私が泣くがままに放置された。


 ダイニングに戻ってきた騎士の格好をした人が聞いてきた。

「ちょっとは落ち着いたか?」

「は、い。どうして私は死ななかったの?」

「それは俺達も知りたいところだよ」

「千人に一人が二人生き残っているようだ」

「ならこの王都に生きている人は・・・」

「そんなに多くはないだろうと思われる」


「外出禁止令が出ていたから、詳しいことはわからない」

「生者がもっと居る可能性も一応あります」

 騎士と、貴族と思われる人がそう言う。


 騎士の格好をしている人になんと尋ねていいのか解らなくて、口を開いては閉じていた。

「この国の王族は全員亡くなられた。これでも近衛騎士なんだ。取り敢えず、死体がない居場所へ一緒に行くか、ここで留まるか好きに選ぶといい」


 私はどちらを選んだらいいのか解らなかった。

 ただ、ここにいれば、私は食料を手に入れることすら出来ずに餓死することだけははっきりしていた。


「ついていったら、身の安全は保証されますか?」

「保証はできないな。食べ物にも困るかもしれないし、男達を抑えられるとも思えない。貴族の矜持があるのなら、付いてこないほうがいいと思う。これからあなたの扱いは平民より価値がないと思ってくれ。私は騎士として君を守ることはできない」


 何処かへ言っていた人達が戻ってきて「食べ物は小麦が少々と、干し肉がありました」と騎士の人に伝える。

 私を担いでいた人がやって来て「調理場以外にも食材を置いている場所はあるか?」と聞いてきた。

「私達もパンと干し肉のスープしか食べるものはなかったので、もうないと思います」

「そうか、済まないが、食料はもらっていく。さぁ、あなたは付いてくるのか?それともここに残るのか?」


 私は一つ息を飲み込んで「付いていきます」と答えていた。

「動きやすい格好に着替えてきます。少し待っててもらえますか?」


「隣の屋敷に行っている」

 そう騎士の人が言って、本当に私を置いて隣の屋敷へと全員が行ってしまった。


 私は置いていかれる恐怖に、乗馬服に急いで着替えて、隣のエンデバス侯爵の家へと彼らを追いかけた。

 乗馬服しか、動きやすい格好の服がなかったのだ。


 エンデバス家の中で近衛騎士の姿を見つけて、ホッと息を吐いた。

 幼名染みのリリューシュはベッドの上で紫色になっていた。


 食べ物を手に入れて、また次の家へと入っていく。

 日が暮れる少し前まで家々へ侵入して、生きている人がいないか探して、食べ物を探した。



 連れて行かれたのは近衛騎士団の寮だった。

「近衛騎士の方達はどうされたのですか?」

「全員、王族に張り付いていた」

「皆さん・・・」

「亡くなったよ」



 女性騎士の部屋を与えられ、夜はしっかりと鍵をかけて、ノックされても誰も入れるなと言われた。


「騎士様の名前を聞いていなかったわ。私は」

「アイシス・クロード伯爵令嬢だろ。知っている。王女殿下とご友人だっただろう?何度か護衛についたことがある。私はトゥルーデ・ホワイトだ」

「ホワイト様・・・これからよろしくお願いします」


 トゥルーデは一つ息を吐いて、強い眼差しで私を見る。

「アイシス、君はこれから単なるお荷物になる」

「お荷物?!」

「生き残るのに、貴族の矜持は邪魔になる世界になってしまったと思ってくれ。生き残りたければ、相手を殺してでも生き残ることを考えなければならない世界だ」


「そんな・・・」

「平民の女なら、水汲み一つ、料理の一つも出来るが、貴族の令嬢など、着飾って、偉ぶる以外に何が出来る?」

「・・・・・・」

「生き延びたければ、役に立つと思わせなければならない。もしくは、私の女になるか?」


 私は言われた意味が分からなくて、暫く考えて意味が解って真っ赤になった。

「女って・・・!!」

「私に足を広げて受け入れるということだ。今なら守ってやってもいい」

「そ、そんな事できませんっ!!」


「予言しよう。ならアイシスは沢山の男達の慰み者になるだろう」

「慰み者・・・?!」

「そうだ。食べ物を恵んでもらうために男達に体を好きにされることになるだろう。部屋に入ったら、決して扉を開けるな」

「・・・解りました」

「私の女になることを早く決断するんだな。私がかろうじて興味を持っている間に」


 私はこの後もトゥルーデの女になるなど決断できなかった。



 そして、紫色になって死んでいた人達が立ち上がり、街中を徘徊するようになった。

 生きている人を襲い、噛みつき、肉を引きちぎられ、咀嚼される。爪が当たると、破裂して、紫の気体を振りまく。

 噛まれた人は、数分から数時間で紫の人達へと変貌していった。


 紫の人達を動けなくするのは簡単だった。

 針で突くだけで破裂するから。

 ただ、破裂すると、濃い紫色の気体を撒き散らし、まともに吸い込むと、紫色の人の仲間入りになってしまう事が厄介だった。



「このままでは生き残れないぞ!」

「だったらどうするんだ?」

「いずれ食料が尽きるぞ」

「なんとかして手に入れなければ」


 百人ほどの生き残りが集められたこの騎士寮は、自暴自棄になった男達が女を襲い、女で憂さを晴らした。

 私はトゥルーデの側にいたけれど、トゥルーデの女になる決断がこの時も出来なかった。

 

 近衛騎士寮の四方を囲まれて食べ物を調達することも難しくなってきた。

 私はパン一切れを貰うために、トゥルーデに体を許したが、トゥルーデの興味はもう、私にはなかった。

 平民より役に立たない、薄汚れてしまった女など、何の価値もなかった。


 私は私のウリドキを間違えてしまった。

 他の男達に払い下げられ、水をもらうため、パン一切れをもらうために、人が見ている前で、何人もの男に犯された。

 そのパン一切れも、十人以上相手にしないと貰えなくなっていった。


 男達が少量を調達しようと出かけていくと、紫の人達に襲われ食われている間に、私達弱者組は近衛騎士寮を抜け出した。

 紫の人達を一人でも減らすためと、私を犯した男達を殺すために、遠くから石を投げて破裂させていった。



 百人以上いた生者グループは十四人まで減った。

 トゥルーデはその中にいなかった。

 紫の人達に食べられたのか、それとも一人で逃げたのかは解らない。

 生き残った私達は、王家の調理場へと逃げ込んだ。

 そこには小麦が残されていて、火も使えた。

 ほんの少し、生きながらえることができそうだ。


 弱者ばかりが集まって逃げ出したはずだったのに、最も弱い私は、今日も男達を体の上に乗せてパンを恵んでもらっている。

 私は後何日生き残れるのだろうか?

 

 窓の外には紫の人達が日に日に増えていくように思えた。


 紫の人達が腐って体が崩れると、紫の気体を吐き出しながら動かなくなっていった。

 締め切った室内にいたけれど、紫の気体は部屋の中にも侵入してきて、一人、また一人と倒れていった。


 そんな中で、私一人、紫の気体に触れても意識を失わなかった。

 私は意識を失っていった男達を包丁で突き刺し、殺して回った。


 意識を失っている女達はどうしようか、一瞬悩んだけれど、犯される私を見て気の毒がるのではなく、蔑むように笑っていたことを思い出し、全員殺した。

 友人だった王女の部屋へ行き、私は湯を沸かして、風呂に入った。

 体の皮が剥けるように体の汚れが落ちていき、汚された体が綺麗になったような気がした。


 私はパン一つ焼けない。

 このまま餓死するのだろう。

 こんなことになるなら、きれいな体のまま死ねばよかったと思った。


 王女の豪華なドレスを着て、私は街を徘徊した。

 生きているものは見当たらない。

 畑に野菜があるのに、食べ方が解らない。

 本当に貴族なんて、何の役にも経たないと思った。



 遠くから馬のいななく声が聞こえ、私はそちらに向かってふらふらと歩いていった。


「生き残りが居るぞ!!女だっ!!」

 指笛の音がしたり、下卑た言葉をかけられたが、気にならなかった。

 馬車に乗る男は、食べ物を食べていたから。

「おひめさんよ、ほしけりゃ、俺の膝の上に乗りな」

 下卑た笑いと、早くしろと急かされたが、私は男達を無視して、通り過ぎた。


 自宅に戻り、父と母だった物の側に跪いた。

 お父様、お母様、最後は貴族として死にます。

 許してください。


 私は手にした包丁で首を一突きした。




 。・。✾❀✿✾ 後日談 ✾✿❀✾ 。・。


 紫の気体は薄まっていき、極小数の生き残り達は小さな集落を作って、村として機能し始めた。

 これで、なんとか生きていけると思った頃、空から赤青い矢が降り注いだ。

 生き残っていた人達はその青い矢によって死滅した。


 青い矢は紫の矢で生き残った者達を殺すものだった。


 噂があった、帝国は、何事もなかったように日常を送っていた。

 子供が笑い声を上げながら走って、親が「走ると危ないわよ」と笑いながら止めている。


 ある場所では、恋人になったばかりの二人が、公園のベンチに座って、顔を赤くしながら楽しそうに語り合っている。



「陛下、帝国人以外全てを狩り尽くせたかと思われます」

「まだ生き残っているものも居るかもしれん。赤い矢を放った後、白い矢も放っておけ」


 赤い矢は、紫でも、青でも、死ななかった者達を殺すものだった。

  

 そして、白の矢は生あるもの全てを焼き尽くす炎だった。

 全てを焼き尽くすのに、自然を破壊しないものだった。


「かしこまりました。世界の唯一の王よ」


 帝国の王は、満足そうに笑った。

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