第79話 ハーピオン急襲 ーザビーネー
女王となってから1週間。
反抗する者は全て処罰し、ハーピー達は皆アタシに従うようになった。
「でも不思議だよなぁ? リイゼルが素直に従うなんてよ」
「……私の役割はハーピオンを守ることだ。例え仕える者が変わったとしても、その役割を続けるだけ」
「おい、女王に対してその口の利き方はなんだ?」
「申し訳ございません。ザビーネ女王」
「クカカッ。それでいいんだよ。ところで、周辺国への侵攻準備はどうだ?」
「それですが……本当に行われるのですか? 小国とはいえ、複数の国を攻めるなどと……先人達が築き上げて来た信頼関係を破壊する行為です」
「分かってないねぇ」
「……何をですか?」
「相手が行儀良く『信頼』してくれてるウチに攻め落とすんだよ。電撃的に奪い尽くさなければ意味がねぇ」
「ホークウッド村と同じようにですか?」
「そうだ」
「しかし、周辺国へ愛着を持つハーピー達も多いかと。彼女達の説得には女王自らの言葉ではないと響きません」
「分かってるっての」
兵士達の前での演説か。これで下の者どもに示す。今後のハーピオンは何を重視していくのか。
力こそが全て。弱い者は搾取されるだけだってことを教えてやる。
幼い頃のアタシのようにな。
……ちっ。
いらぬことを考えちまった。
◇◇◇
翌日。女王を倒した闘技場へ兵士達を集めた。
闘技場の中央へと舞い降りると、兵士達から歓声が上がる。見渡すと、皆ギラついた瞳をしていた。
甘っちょろいヤツらはほぼ消えたか。
魔法士が拡声魔法を放ったのを確認し、観衆へと語りかける。
「皆聞け! 知っての通りアタシは女王を葬り、新たな王となった。これからハーピオンを強国へと導く役目がある!」
観衆から賛同の声が響く。
「これからは同調や融和など甘いことは言わん! 周りを見てみろ! 魔王国が台頭し、ヒューメニアは魔神竜を狙った! 我らに残された道は強国として力をつけることだけだ!」
全員の眼を見つめる。
「アタシが下す命令はシンプルだ。殺せ! 奪え! 今手にしていない物全てを己が物とせよ!」
ポツリポツリと賛同の声が上がり、それがやがて渦になっていく。熱狂に闘技場が飲み込まれていく。
ククク。皆アタシのようになれ。世界はシンプルだ。弱い者は奪われる為に存在している。
「なるほどな。それが新たな女王の方針か」
突然。場違いな声が聞こえた。拡声魔法により広げられた男の声。
「なんだぁ? どこから聞こえる?」
周囲を見渡すと、闘技場観衆の一角だけ違和感があることに気付いた。
眼を凝らすと、ハーピー達に何かが繋がっている。
何だあれは? 光の……鎖?
鎖が消えると、一斉にハーピー達が席を開ける。そして、空いた空間の中央には、黒づくめの者達がいた。
黒いフードの男、双剣を持つ獣人の女、海竜人の子供……。
「何だぁお前達は? なぜ兵士達はなぜその男を拘束しない?」
男がフードを外す。すると、その奥から現れる。黒い眼球と緋色の瞳。明らかに普通の人間ではない両眼が。
「無駄だ。周囲のハーピー達は皆その精神を拘束した。俺達に手を出すことはできない」
「精神を拘束……? 何を言っている!?」
「ハーピオンの女王ザビーネよ。俺は魔王軍知将、ヴィダル・インシティウス。ハーピオンへの宣戦布告。及び攻撃開始の通達に来た」
「んだとテメェ……? 宣戦布告どころか攻撃開始ってのはどういうことだぁ?」
「貴様がホークウッド村へ行った仕打ちと同じだ。急襲。襲撃……何とでも呼ぶがいい」
男が右手を上げる。
「1つ、ザビーネ女王へ教えてやろう」
「何をだ?」
「侵攻の大義を与えるということがどういう意味なのかをな」
ヴィダルという男が指を鳴らすと、突然地面に青い魔法陣が浮かび上がった。
次の瞬間。
甲高い鳴き声が闘技場に響き渡った。
「キュオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
突如としてディープドラゴンが現れ、闘技場へとアクアブレスを照射する。
「う、うわああああああぁぁぁ!?」
「ディープドラゴンだと!?」
兵士達は突然のドラゴンの襲来に混乱し空へと逃げ出していく。
「我らには広範囲の移動魔法を発動できる者がいる」
移動魔法だと? 地点記録魔法を打たなければ使えない魔法だぞ!
魔王国に地点記録魔法を許した覚えなど無い。
一体いつ……。
「あ……っ!?」
ディープドラゴン……エルフェリア使節団か!?
「ヤツら……魔王国と繋がっていやがったか!!」
「気付いたようだがもう遅い。イリアス。部隊を展開しろ」
「了解なのじゃ!」
海竜人の子供が再び両手をかざすと、魔法陣の中から燃え盛る骸骨兵士達が現れ、闘技場が埋め尽くされていく。
「何の罪もない村をお前達が攻め落としたことは周辺国へ伝えてある。いくら待とうが救援など来ないぞ」
「んだと!? 貴様あああああぁぁぁ!?」
「覚悟しろザビーネ。貴様には絶望と後悔を教えてやる」
ヴィダルは、その両眼を怪しく光らせた。





