第49話 闇を纏いし者ナルガイン・ウェイブス
レオリアと2人で神殿の中へと侵入する。
警備の者はディープドラゴンに釣られたみたいだな。
レオリアが扉を覗いて手招きする。
「ヴィダル。この向こうに階段あるよ」
階段を降り、狭い通路を抜けると開けた空間に出た。中を見ると2人の人物が対峙していた。1人は海竜人の戦士。あのレベルの装備に強化魔法の痕跡。恐らくあれが不死のガイウスか。
そしてもう1人は……グッタリと俯く鎧の人物。青白い炎に燃え盛る鎧が体を焦がす臭気を漂わせていた。
「ナルガインは2度目の変異を受け入れた。ということか」
敵対している男はこちらに気付くことも無く、戸惑った顔でナルガインを見つめていた。
「ねぇ、今のうちにあのガイウスってヤツ殺っちゃう?」
レオリアがショートソードを構える。
「待て。完全変異を遂げたナルガインの実力が見たい」
「え〜? 海門開けた時からやっと海竜人の殺し方も分かって来たのになぁ」
残念そうに剣をしまうレオリアをなだめながらナルガイン達へと目を向ける——。
ナルガインを包んでいた炎が消える。
消し炭のようになった表面がパラパラと崩れ去ると、その鎧は黒く輝いた。
ゆっくりと彼女が大地を踏み締める。
彼女がガイウスへと近づいて行く。
彼女のヘルムから赤い光が漏れ出る。それはまるでオーラのように彼女の進む軌跡を描いた。
「な、なんだよお前……なんで自分から」
ナルガインはガイウスを無視して向かって行く。
「おいっ!! 無視してんじゃねぇ!!」
ガイウスが槍を構え、ナルガインへと突撃する。
「流水乱撃!!」
ガイウスの槍から無数の水の刃が放たれる。
しかし。ナルガインは一切の防御をすることなくガイウスに近づき、その腕を掴んだ。
「お前、勘違いしているだろ」
「何言ってやが——」
直後、ガイウスの腕が握りつぶされた。
「ぐあああああ"ああああ"あああぁぁぁ!?」
ガイウスの叫びと共に空間に骨を砕く音が響き渡る。
「再生したか?」
「な、何を……!?」
ガイウスが槍を構えようとした瞬間、ナルガインがヤツを地面へ叩き付ける。
「がっ!?」
脚を掴み、何度も何度も叩き付ける。
「クソがああああぁぁぁ!!」
ガイウスががむしゃらに槍で攻撃を加えるが、彼女は一切怯むこと無く叩きつける。
「がはっ……!?」
再生途中のガイウスが再び地面へと激突し、徐々に原型を失っていく。
叩き付けられた地面は大きく抉れ、周囲には血が飛び散る。ガイウスが軟体動物のように原型を無くした頃、ナルガインが再びヤツの顔を見つめて呟いた。
「再生したか?」
「む"、む"だ……だ、お"、お"れは不死の……」
「そうか」
ヤツの言葉を最後まで聞かず、ナルガインが空中へとヤツを放り投げる。
「螺旋突風撃」
技の呟きと共に彼女が槍を投擲する。その槍は空中を舞っていたガイウスへ直撃し、その胴体へと風穴を開けた。
ヤツを突き抜けた槍が壁に突き刺さり轟音を響かせる。槍を中心とした巨大な亀裂がその威力の凄まじさを物語っていた。
「お、お"おおおお"おおおっ……」
ガイウスは声にもならない声を上げ、動かなくなった。
立ち尽くすナルガインを横目にレオリアへと指示を出す。
「レオリア。あの奥にいるのが巫女だろう。確保しに行くぞ」
「うん」
部屋の奥に見える海竜人の少女は、呆けたような表情でこちらを見つめていた。
「ねぇ。あの子なんだか変じゃない?」
「あの目。精神拘束と精神支配を二重がけした時のものと同じか?」
惚けた顔。虚な瞳……ということは既に巫女の精神は……。
立ち尽くしていたナルガインが声を上げる。
「ヴィダル……イリアスが……」
ナルガインがこちらへと振り向いた瞬間——。
猛烈な勢いで再生したガイウスがナルガインへと襲いかかる。
「死ねえええええええええぇぇぇ!!」
ガイウスの槍がナルガインの胴体に深々と突き刺さった。
「巫女ぉ!! 攻撃上げろもっと!!」
「魔法発動の指示を確認。攻撃向上爪昇煌 を発動します」
ガイウスの体が紫の光を帯びた。
「バカにしやがって! 死ね死ね死ねぇっ!!」
ヤツの槍が何度も鎧を突き刺す。
「ああああ!! 激流水突!!」
ガイウスの槍が激流の刃を纏う。
「死ねぇっ!!」
ヤツが飛び上がり、ナルガインへと深々とその槍先を突き刺した。
攻撃を受けた鎧が力無く項垂れる。
ガイウスが俺達に気付き、いやらしい笑みを浮かべる。
「は……ははははははは!! お仲間も来やがったか!? 残念だが仲間の海竜人はもう助からないねぇ!! はははははは!!」
バカ笑いするヤツの後ろに一瞬、金色の髪が靡くのが見えた。
「……分かっていないな。ナルガインをただの海竜人だと思った時点で、お前は負けている」
「はぁ?」
「彼女は魔王軍『豪将』ナルガイン・ウェイブス。世界に混沌をもたらす『波』。お前如きに止められん」
ガイウスが訳が分からないといった顔をした直後——。
ヤツの背後に女が飛び込む。後ろで束ねた金髪に俺達と同じ瞳の女が。
その気配に気付き、振り返ったガイウスに向かって女が技名を叫ぶ。
「龍線乱撃!!」
ナルガインの槍から無数の突きが放たれる。
「お、お前……まだ、生きて……!?」
ガイウスの体に無数の風穴が空く。
「無駄だと言っただろ!! 俺は死なねぇ!!」
再生した腕でガイウスが攻撃する。しかし彼女は紙一重で槍先を避け、さらに乱撃を放った。
「再生できなくなるまで粉微塵にしてやる!!」
ナルガインの龍線乱撃が疾風の如く速度を上げる。ガイウスに開けられた風穴は、徐々に再生しなくなっていく。
「何故だ!? 何故治らない!?」
叫ぶガイウスに向かってナルガインは冷たく言い放った。
「邪竜イアクの能力は不死では無く再生。オレが殺してしまった冒険者が言っていた言葉だ」
「な、何だと……!?」
「死ね! 今度こそ!!」
「や、やめろっ!!」
「龍線螺旋突!!」
「や"めろおおおおぉぉぉぉ!?」
ガイウスが怯えたように手で顔を庇う。ナルガインは、その手ごと、ガイウスの顔を槍で深々と突き刺し、螺旋突を放つ。
ガイウスを絡め取った螺旋が龍のようにウネリを上げ空間内を暴れ回る。壁を、天井を抉りながら。
「ああ"、ぎ、あああぎぎ、ああぁぁぁ!?」
怒れる龍が大地に叩きつけられる。
空間が崩壊するほどの振動の後、ガイウスは塵となり、跡形も無くこの世から消え去った。





