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神亡き世界の異世界征服  作者: 三丈夕六
社畜。魔王軍知将となる編
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第4話 闇に従いし者 ヴィダル・インシティウス

 馬車の子供達を起こし、彼らにもう自分達の故郷は無いことを告げた。彼らにとって残酷な真実だが、つくろっても仕方が無い。子供達は自分の境遇を知っていたのか泣くことは無かった。


 ……子供から涙まで奪う世界か。


 再び怒りに身を焼かれそうになる。それを抑えながら平静を装った。


「おじさんはどうするの?」


 子供達が去っていく中、1人の少年に話しかけられる。猫科の耳。その先端だけが黒い、特徴的な容姿の子供だった。

 

「お前達を『買い』に来る者を待つ」


「待ってどうするの?」


「さぁな。俺に何ができるかは知らんが、後悔だけはさせてやる」


「……おじさんみたいな人が村にいたら良かったのに」


「知らん。さっさと行け。俺が負ければ拾った命、無駄になるぞ」


 子供達が身を寄せ合って去って行く。彼らの未来はどうなるのだろう? ぞくになるか、野垂のたれ死ぬか……いずれにせよ、俺にしてやれることはもう無い。


 岩の上へと腰を下ろす。取引相手。ヤツらを八つ裂きにしてやる。



「ふむ。成果を上げる前に出てきてしまったか。過保護過ぎるのはいかんな我は」



 声に振り返ると、デモニカが気配も無く後ろに立っていた。


「デモニカ……様。ルノア村より獣人の子供の人身売買が行われております」


「良い。まだ我らは2人しかおらぬ。様など要らぬ。言葉など気にするな」


 呼び捨てで良い? 随分ずいぶん寛大かんだいな魔王だな。


「人身売買か。それを知った貴様の望みはなんだ?」


「……間も無くここにやって来る取引相手。ソイツらを八つ裂きにすること。それが望みだ」


「なぜそう思う?」


「俺の世界をけがした。それが許せない」


「では、我が1つ約束しよう」


「約束?」


「我の目には遠方よりこちらへと向かって来る者達が見える。統率しているのは中々の手だれ。貴様がその者を正面から(・・・・)倒すことができれば、我がその願いを叶えてやろう」


 デモニカ・ヴェスタスローズは笑みを浮かべる。邪悪と恍惚に満ちた笑みを。


「八つ裂きか。それも良いが、我が永遠の苦しみを与えてやろう。地獄の業火に焼かれながら、暗闇を彷徨さまようような」


 永遠の苦しみ……デモニカの邪悪な笑みが、俺の怒りを癒してくれるとはな。



 デモニカが再び消えたのを確認し、草原の先へと視線を送る。


 遠くから、馬に乗った者達が向かって来るのが見える。一見すると冒険者に見えるが、あの装備……ヒューメニア製だな。それにあの中央の男。周囲の者達がヤツの指示を受けているきらいがある。隊長クラスか。冒険者にまで変装しているとは、この取引は相当上の人間が関わっているな。


 あの隊長の男には、精神支配は破られそうだ。


 兵士の数は……7人。


 まだヤツらが到着するまで時間がある。1人ずつ特徴を捉えていく。老兵に神経質な者、ガサツそうな者に1番若い兵士。


 どう戦う? デモニカは正面から挑めと言った。一騎打ちでも挑むか? いや、1対7であってもそちらの方が俺の能力は活かせる。


 思考が回る。「死を恐れる感情が無い」というだけでここまで冷静になれるとは。


 脳をフル回転させながら、俺は擬態魔法ディスガイズを使った。



◇◇◇


 ——数分後、草原にて。



「クレデス隊長。そろそろ到着します」


 部下のオルガンの声で緊張感を取り戻す。毎度毎度、なぜ私達が奴隷の輸送など……貴族連中の依頼とは言え、こんなことをヒューメニア軍が請け負うこともなかろう。


「隊長? どうされました?」


 新人のエリオットが心配そうに私を見上げる。


「いや、何でもない」


「心配させないで下さいよ。ちゃんとした任務ではないですけど、僕の初任務なんですから」


 エリオットが真新しい鞘を抱えて無邪気な笑みを浮かべた。


「隊長もそろそろ慣れて下さいって。出世には後ろ盾が必要ですよ?」


「クレヴィン。私はどうもな……出世の為とは分かっているのだが……」


 いかんいかん。皆に心配されてしまっているようではな。それこそ兵士の名折れだ。




 しばらく馬を歩かせ、商人の待つ馬車へと辿り着くと、商人が声を上げた。


「月を見るのは?」


「鷹の目」


 約束通りの合言葉を伝える。すると、商人は予定に無い言葉を発した。


「この荷が何か知っているのか?」


「そんなのはアンタに関係無いだろ」


 真面目なエリオットが商人へと苦言を呈した。次の瞬間——。


 商人がエリオットの顔を掴み、顔を覗き込んだ。


「知っているな?」


「だ、だからなんだって……」


精神支配ドミニオン・マインド


 商人から先ほどとは違う若い男の声が聞こえた。そして、エリオットがグッタリと項垂れる。


「精神支配の魔法!? 貴様……何者だ!?」


 商人へと剣を薙ぎ払う。しかし、手応えは無い。商人のローブだけが空中を舞う。


 切り裂かれたローブが視界から消えると、目の前には黒い眼球に緋色ひいろの瞳をした男が立っていた。明らかに定命じょうみょうの者とは思えないその眼。それだけで邪悪な存在なのだと感じ取った。


「俺はヴィダル。ヴィダル・インシティウス。お前達はこの世界に相応ふさわしくないと判断した」


「貴様ぁ!? エリオットを解放しろ!!」


 部下のオルガン達が声を荒げた。


 彼らが攻撃に出ようとするのを手で制止する。


「ヤツは精神支配の魔法を使う。私がやる」


 ただでさえエリオットがヤツの手中に落ちているのだ。他の部下達まで失う訳にはいかん。


 集中力を高める。俺ならヤツに操られることは無いはずだ。


 剣を構え、敵を見据える。ヤツは微動だにせず、こちらをじっと見つめていた。


 隙が無い。私から仕掛けるしかないか。


 辺りを吹く風が腕に当たり、ヒリヒリと傷みを感じる。



 エリオット……今助けてやるからな。



「いくぞォォォっ!!」



 剣を構えてヤツへと突撃する。全力の一太刀を浴びせた瞬間、ヤツの手には剣が握られていた(・・・・・・・)


 剣撃が受け止められる。


「——くっ!」


 すぐに次の剣撃を放つ。だが、何度撃ち込もうともヤツの剣は全てを防ぐ。太刀筋は荒いが鍛錬たんれんを積んだ動きに見える。


 私の剣筋を知っているかのようなその動き——なぜだっ!?


 ヤツの攻撃をいなし、次の一撃を放つ。それをヤツが剣で弾く。返し刀で繰り出されたぎ払いを飛び退いて避けた。


 くそっ……っ。通常攻撃は全て見切られるか。 


 ならば、スキルを使うのみ。



「竜巻斬りッ!!」



 技名と共に全身の力が開放される。剣撃の中に体の回転を加え威力を上げた必殺の一撃。貴様の剣もろとも叩き切ってくれる!


 その剣先はヤツの剣を超え、その体を真っ二つに引き裂いた。


 断ち切られた上半身が吹き飛び、剣が納められていた鞘が空中を舞う。



 真新しい鞘(・・・・・)が。



「なっ!?」


「ヒューメニアの隊長クラス。武器は剣にステータス異常耐性。それに加えて竜巻斬りの攻撃スキル……レベルに換算すると50ほどか」


 耳元からヴィダルの声が聞こえる。訳の分からないことを言っているがそれよりも、俺は目が離せなくなってしまう。


 ヴィダルの姿をしていた上半身がその姿を変え、エリオットの姿へと戻っていく光景に。


「精神支配に気を取られ過ぎだ。俺に擬態(・・・・)させていた部下を手にかけるとはな」


 エリオットを、私が?


「あ、あああぁぁ……」


 剣を離してしまう。何も考えられない。


「その情を少しでも……いや、もう関係無いか」


 ヴィダルの言葉が耳に入った瞬間。首に激痛が走る。全身が痙攣けいれんし、体が言うことを聞かなくなる。部下達の叫び声が私が助からないことを告げていた。


 無理矢理激痛の元を首から引き抜くと、それは粗末なダガーだった。こんな物で私が……しと……は……。


 薄れゆく意識の中、最後に目に入ったのは、私をさげすむように見つめる緋色の瞳だった。


 

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