第六話 協力者
勇儀が案内人として着いてくれたので、他の妖怪に弾幕ゴッコを挑まれることもなく地霊殿へ無事に着いたのだった。
「じゃ、俺は帰るな」
「えぇ、礼だけは言っておくわ」
地霊殿に着いた際に、勇儀は振り返って酒を飲みながら去っていった。そして、入れ替わるように地霊殿から火焔猫燐が現れた。
「来たね。おや、そちらの方々は初めてね。私のことをお燐と呼んでな」
お燐はさとりのペットの1人であり、さとりの取り次ぎなどをしているのが彼女である。もう1人のペットもいるが…………
「最初に聞いておくけど、空は?」
「はいよ、貴女が来るとわかってから灼熱地獄跡へ仕事を頼んでおいたさ」
「そう。邪魔をされないならいいわ」
「アイツは人間が大嫌いだからな〜」
霊夢が言う空とは、霊烏路空で、さとりのペットである。空が人間を嫌うのは過去にあった事からとさとりに少し聞いている。そして、この前に異変を起こしたことがある人物だ。霊夢と魔理沙によって解決されている。
「こんなとこで話すよりもさとり様のとこへ案内するよ」
「お願いするわ」
お燐の案内でさとりがいる部屋へ向かう。霊夢は歩きながら周りを見回すが、目的の人物は見当たらない。
「……いないわね」
「あー、うん。能力を使われたら私達でもそう簡単には見つからんだろうな」
「それって、協力者の?」
「うむ。まだ確定はしていないけどな」
「でも、可能性は高いのでしょう?」
協力者。侵入者の潜入や撤退の協力をした者であり、咲夜の話から口調や能力が似ていることから、ここにいる1人が思い浮かんだ。
「着いたさ。さとり様、入りますよ」
「どうぞ」
さとりがいる仕事部屋に着き、許可を貰って中に入ると机に大量の書類が積まれた姿が現れた。
「あぁ、姿が見えないのね」
書類を退かすと、さとりの姿が見えるようになった。さとりからにしたら、姿が見えなくても心を読む能力があるので顔を合わさなくても問題はなかった。
「紫から話は聞いてーーーーえっ?」
万年筆を置き、話をしようとしたら言葉が止まる。更にさとりの眼が驚きに包まれていた。
「心を読んだのね」
「嘘っ!?」
「ええっと……さとり様? 話が読めないのですが……」
「あー、これから説明するからよ」
魔理沙が説明し始める。レミリア達を襲った青年とネヤのこと。妹であるフランが連れ去られたこと。その2人に協力する者がいる。その協力している者がここの1人である可能性があることを…………
「だから、直接聞きに来たのよ。『古明地こいし』のことを」
霊夢と魔理沙が可能性があると思う人物は、古明地こいしのことだ。
「しかし、あの子が……」
「ただの可能性だから、本人に会って聞いてみたいの」
「すぐ捕まえるとかはしねぇから、場所を知っているなら教えて欲しい。というか、ここにはいないのか?」
「……お燐、こいしは何日前から見ていない?」
「今日で3日目です。長くても1週間ぐらいは帰って来なかったことがあります」
「1週間!? あと4日……そんなには待てないわよ!」
「そう言われても……こいし様は自由な方でよく人間の里に行きますが、別の場所に行っている可能性があるので必ず人間の里にいるとは言えません」
こいしへ会いに来たが、今はいないようだ。
「……やっぱり、信じられないわ。こいしが異変に関わるなんて」
「でも、こいしの『無意識を操る程度の能力』じゃないと難しいと思うぞ?」
「難しいだけで、他の能力でも出来なくはないでしょう?」
「う〜ん」
魔理沙の勘ではこいし以外ではあり得ないと訴えていた。さとりはその考えていることが読めているので、ムスッと怒りが浮かんできた。
「これ以上、私の妹を疑うならーー「ちょっと待ったー!」……え? こいし!?」
さとりが怒りを浮かべたその時、さとりの隣にこいしが現れた。
「もー、喧嘩は駄目だよ?」
「現れたわね。話はずっと聞いていた……でいいよね?」
「うん、霊夢達が来る10分ぐらいに帰っていたから」
「え!? なんで、帰っていたなら会いに来なかったの!?」
「あはは、霊夢達が来るの知っていたからお姉ちゃんも一緒に驚かせようと思ってね!」
「こいしーー!!」
イタズラされたさとりは困った妹を叱ろうとするが、こいしはさらりとさとりから離れて微笑みを浮かべる。
「……全く、貴女が疑われているのよ? 関係がないなら、霊夢さんにそう言いなさいよ」
さとりはこいしが異変に関わっていないと信じていた。しかし、こいしはーーーー
「あはは、お姉ちゃん。ゴメンね、関わっているよ〜」
「えっ……」
こいしはあっさりと異変に関わっている……つまり、侵入者の仲間であると認めたのだ。
「ッ!?」
「はい、ストップ。吸血鬼のお姉ちゃんとメイドちゃん、今は戦うつもりはないよ〜。少し情報をあげるから♪」
関わっていると聞き、戦意を高めたレミリアと咲夜だったが……こいしの方は戦うつもりもなく、手をバツにして止めていた。
「少しの情報ね。全て教えて欲しいけど?」
「それは駄目かな。迷惑を掛けちゃうし〜」
「こ、こいし! なんで? すぐ手を引きなさい! 紫さんに様々な妖怪も動いているのよ!」
「ゴメンね。あの人を裏切るつもりはないし、恩を返したいから協力しているの」
さとりが説得するけど、こいしは頑として異変を起こそうとしている人を裏切らないと言い放った。
「恩って……?」
「うん、あの人は命の恩人なの」
「「「「命の!?」」」」
こいしに命の危機があったことを知らなかったさとり達は驚いていた。
「な、何が……」
「去年の冬に起きた異変のこと覚えているよね? 人間、妖精、妖怪の殆どが能力を暴走してしまう病気が流行ったこと」
「覚えているけど……」
「うん、その時に私はかなり重症で人間の里にいたけど、ここへ帰れないぐらいに動けなかったの。そして、私の能力で自分の存在を完全に消してしまう所だったの」
妖怪は人間達に恐れることでその存在と言うモノが構成される。こいしの能力は『無意識を操る程度の能力』であり、その能力が暴走することでこいしと言う存在が人間、妖怪、妖精に気付かれないだけで終わらず最初からいなかったようにと頭の中からもこいしが消え去ることになる。
そうなれば、こいしのことを知る者がいなくなって妖怪としての意義がなくなって……死と同義になる。
「完全に消え去る前に……あの人が現れたの。そして、私を見つけて助けてくれた」
「そんなことが……って、あの時は貴女の部屋に置いていた薬を飲んだから大丈夫と聞いていたけど……」
「うん、言っていたね。でも、あの人はまだ目立つ訳にはいかなかったから、黙って欲しいと言っていたの。だから、薬を飲んだことにしていたよ〜」
つまり、こいしが言うあの人は去年の冬には既に幻想郷にいたと言うことになる。紫に見つからないまま、今まで姿を隠し通していた訳だ。
「だから、私は恩を返したいから協力しているの〜」
「そ、そうなの……私からもお礼を言いたいのだけれども……」
「あ、お礼とかは異変が終わった後でいいよ〜。それから、私以外の地霊殿の皆は中立を保って欲しい」
「えっ」
さとり達は霊夢達やこいし側の人達に協力や邪魔もせずに大人しくして欲しいと言っているのだ。それを聞いた霊夢が黙っている訳がなかった。
「……それは、私達に協力するなと言いたい訳? 貴女が言うあの人がそう指示を出したの?」
「私の判断だよ〜。流石に数が多すぎるとあの人もネヤちゃんも大変だからね」
さとりはこいしからのお願いを聞いて、絶対に聞かなければならないことを聞いた。
「……聞かせて。あの人の目的は? こいしに危険はないよね?」
「目的は……解放だけと。弾幕ゴッコをするけど、危険はないかな。危なかったら逃げていいと言われているからね」
「そう。わかった、無事に帰ってきてよね」
「うん!」
さとりがわかったと言った。つまりーーーー
「霊夢さん。申し訳無いですが協力の件は無しにして下さい。紫さんにも伝えてくれませんか?」
「……はぁ、敵の仲間にならないだけでもマシだと思うべきね。わかったけど……こいし、ちゃんと情報を少しぐらいは教えて貰うわよ?」
「レミリアと咲夜は妹を連れ去られているんだし、フランの様子ぐらいは教えてやってくれよ?」
「いいよー。最初から教えてあげるつもりだったし〜」
現れた時に言った、少しの情報をあげる約束はする。
「まず、フランちゃんね。とっても元気だよ! 話が終わったら一緒に遊ぶ約束もしているしね!」
「い、一緒に遊ぶ……? 大丈夫なのかしら?」
「大丈夫だよ。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』ならあの人がなんとかしてくれているから安全だよ♪」
「えっ!? ご妹様の力が安全に!?」
レミリアと咲夜がそんなに驚く程だった。今までフランの能力に苦労していただけに、あっさりと安全と言うことに。
「フランちゃんのことはここまでね。そして、あの人は次の夜に動くよ〜。もちろん、私もフランちゃんもだよ。場所は自分で見つけてね」
こいしはそれだけ伝えると、姿が消えていく……いや、消えたというより皆が1人残らず無意識にこいしのことを悟れなくなった。
「全く、自由過ぎる子よね……」
今回はここまで!
次回は明日に投稿します。