第十話 解放される
魔理沙を見下ろす妹紅、フランの2人はこれからのことを話し合っていた。
「妹紅姉ちゃん、向こうはまだ終わっていない?」
「多分な。終わっていたら連絡が来る筈だしな」
「おい、無視するなよ。まだ私は戦えるぞ?」
魔理沙はそう言い、立ち上がって箒に跨がる。妹紅はまだ戦う気があることに感心する。
「ほぅ、まだ時間はあるようだから私が相手をしてやろう!」
「あー、私が戦っていたのにー!」
「さっきは私が邪魔をしなかったらやられていただろ? 大人しく交代しとけ」
「むぅ…………」
さっきの激突では妹紅が邪魔をしなかったら負けていたのはフランの方だった。だから、交代だと言っている。
「私が相手になるが、問題はないよな?」
「どっちでもいい。やられっぱなしは気に入らないからな」
「なら、またぶっ飛ばしてやるよ」
妹紅は魔理沙の心意気に微笑みを浮かべて炎を纏い始める。魔理沙と妹紅が向き合っている時、フランは邪魔にならないように少し下がろうと思っていたら…………
「ようやく分身を倒し、向き合えるわ」
「ん? あ、お姉様。遅かったね? 手が空いたし、相手をしてあげ……」
レミリアと咲夜はフランの禁忌『フォーオブアカインド』を破り、本物のフラン前へ現れた…………その時だった。
バキッと音が響き、割れた空間から一人の少女が落ちていく。
「こいし!?」
落ちていく少女はこいしだった。妹紅が咄嗟に落ちていくこいしを受け止めに行く。
「むきゅ〜」
受け止められたこいしは身体を煤けて目を回していた。
「安心しなさい。少し強くしちゃったけど妖怪なら大怪我ではないわ」
「やり過ぎたような気もしますが、この事態では仕方がありませんね」
後から霊夢と紫が現れ、この結果に納得する妹紅。
「あーあ、やっぱりこいし1人ではキツかったか」
「あら? 妹紅じゃない。やっぱり、永遠亭も協力者だったかしら?」
「まぁ、そうだが全員じゃないがな。私とニート女だけが協力しているさ」
「ニート女って、貴女が言うのは……輝夜ね」
妹紅にとっては輝夜は喧嘩仲であり、不死身同士というのもあり手加減なしでやり合えるライバルみたいな関係。
「って、貴女と話している場合ではないわ。先に進みたいけど、邪魔をするのかしら?」
「戦力では負けているから撤退したい所だが、まだ向こうが終わっていないから少し足止めが必要ーーッ!?」
「「「なっ!?」」」
突然に霊力が膨れ上がり、西行妖がいる場所から光の柱が立つのが見えた。
「もう解放された!? 急がないとーー「行かせませんよ」ッ!」
光の柱に呆気を取られている妹紅達を無視して先へ進もうとする霊夢に黒い弾幕が襲い掛かった。
「行かせませんよ。私がやりますので皆様は少し下がってください」
「おー、ネヤが来るとは……もうすぐで終わるんだな?」
「はい。今は最終調整に入っています。そこを邪魔されたらどうなるかはわかりませんから」
ネヤの主は順調に西行妖の解放を進めている。だから、万が一もないようにネヤ本人が動いて、霊夢達を抑えると。
「……まだ完全に解放はされていないようね。ネヤと言ったわね? 貴女達は西行妖まで解放して何をしようとしているのかしら?」
霊夢がネヤに問い掛けるがそれに答えず、お祓い棒を振って黒い弾幕を降らしていく。
「答えてくれないのね!」
霊夢も御札を投げて相殺し、ネヤに構っている暇はないと言うように、通り抜けようとするが…………
「一番厄介な貴女は閨に包まれていなさい。『黒い方舟』」
「なっ!?」
霊夢の周りを包むように方舟の形をした闇が纏まっていく。霊夢に封印関係の技は通じないが、この『黒い方舟』は空間魔法であり、別の異空間を作り出し、更に数十以上も重なった空間が出来ている。脱出するには、1つずつ空間の壁を破壊しなければならないので面倒な封印関係に似た作りの魔法である。
「これで時間は稼げるでしょう。後はーー」
「霊夢を放しなさい!」
紫がスキマを空き、廃線『ぶらり廃駅下車の旅』で放つ廃線列車がネヤへ向かうが、ネヤ本人はそれを動かずに見ているだけだった。
「忘れたの? 私には効かないよ」
紅魔館で見せたのと同じようにネヤには特殊な能力がある。幻想郷風に言うなら…………
『視認したあらゆる飛弾するモノを逸らす程度の能力』である。
「やるなら、接近戦よ! 咲夜!!」
「畏まりました」
逸らされた廃線列車の影からレミリアと咲夜が接近し、レミリアは『陰のグングニル』、咲夜は『妖剣シルバーブレード』を手に持ってネヤを狙う。
「狙いは良いですが、やはり力が足りない」
「「ぐあっ!」」
レミリアにはお祓い棒で受け止め、咲夜は指ニ本だけで武器を掴んでいた。二人の攻撃を受け止めたまま、身体から黒い弾幕が放出されて吹き飛ばされてしまう。
その二人が離れた瞬間、魔理沙の声が響いた。ネヤの背後に回り込んでいた魔理沙はミニ八卦炉を手に持ち…………
「『マスタースパーク』!!」
「だから、見えている飛弾する攻撃は…………おや?」
魔理沙が放った『マスタースパーク』は狙いがネヤ本人ではなく…………その斜め後ろにあった霊夢が閉じ込められている『黒い方舟』だった。
ネヤ本人を狙われた訳じゃないので、能力は発動せずに『黒い方舟』を貫通していく。『黒い方舟』は中からでは多重の壁を破壊していかないと駄目だが、外からなら強い攻撃を与えれば…………あっさりと壊せる。
「中だと時間が掛かるから助かったわ。……よくも閉じ込めてくれたわね!!」
「っ!?」
霊夢もお祓い棒を持ち、ネヤに殴り掛かると受け止めた側が顔を歪める。
「本当に人間の巫女なのですか。重かったですよ」
「純粋な人間よ! ちょっとした力を持っているけどね!」
「何処がちょっとですか……」
吸血鬼の攻撃をあっさりと受け止めるネヤが押された。これ程の力を持つ霊夢に驚くネヤ。
「さっさと終わらせる!」
「主人様の邪魔はさせませんよ!」
お互いがスペルカードを発動しようとした時、空気が変わった。
ずっと伸び続けていた光の柱が消えた。
そして、1つの新たな霊力が生まれた。光の柱に包まれていた西行妖はどうなったのかと全員が視線を向けるとーーーー
「満開になっている…………」
「ま、まさか! 遅かったと言うのか!?」
「でも、おかしい。前に見た西行妖の霊力が違っている。どうなっているの?」
霊夢、魔理沙、紫と順に声を上げる。紫は封印される前にの西行妖を見ているので、その違いに疑問が浮かぶ。
「成功した。皆、お疲れ様だよ」
空間に一本の破れ目が出来、開くと異変の主である青年と幽々子に似た少女が現れた。
「西行妖、初めての外はどうだ?」
「……不思議な気分。私である私が外を歩けるとは思っていなかったから」
「……え、どういうこと!?」
西行妖と呼ばれた幽々子に似た少女に驚きを隠せない紫。
なんで、幽々子に似た少女がいるのか?
その少女が西行妖なのか?
西行妖だとしても、自我があったのか?
などと様々な疑問で頭がパンクしそうな紫だった。青年はその紫を余所に霊夢達へ向けて自己紹介をする。
「さぁ、初めまして。僕は七神集一。全てを解放する者だよ」
異変を起こした人物の名前が知られた瞬間であったーーーー
次は明後日に投稿します。




