表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/27

エピローグ

 卒業パーティーではエルザの報復が繰り広げられた。愚王子がヨトの到着を防げなかった段階で、エルザの勝ちが決まったものだろう。

 ヨトが劇さながらにエルザへ想いを告げ、愚王子を打ち負かした。エルザとのダンスはお互いの視線を絡めて息を合わせたダンスをしてみせ、親しげに話す姿を見せた。


 ダンス中の二人はメルデリューヒ公爵家での様子を多少取り繕っただけに見えたが、世間の反応は上々だった。あんなものがいいらしい。俺としては妹とよく揶揄っている元護衛と身内が睦み合っていることなので、特にどうとでも思わなかった。

 それよりも王のくたびれた姿が面白かった。愚王子にもエルザにもつくことなく中立を気取っていたので、いい気味だ。



 卒業パーティーの後日には王の主導の元、婚約解消が行われた。王がエルザとの婚約を続けるのは難しいと判断したためだ。不満たらたらな愚王子を説得したためか、よりくたびれた王の姿が見られた。


「決定的な既成事実を作れば結果は違ったのでしょうけれど」

「いくら理想の王子様でなく、本当の私をエルザが見てくれていてもね、好いた相手には好きになってほしいものなんだよ」


 エルザが嗤いながら挑発して、愚王子が自身の恋愛感情について語る。そのような恋愛感情どころか、恋愛感情を持ったことがあるのか怪しい妹なので、ふうんと興味なさそうに返していた。

 愚王子の言うことは正しいだろう。例えばエルザの純潔を無理やり奪っていれば、理想の王子様像に反している。庶民のアリスとの睦み合いと同等か、それよりも強い嫌悪を持たれることになっただろう。


 保護者として兄の俺が婚約解消に立ち合ったが、ここにヨトがいればもっと面白いことになったのにと考える。

 愚王子が「あの王子がいらなくなったら、いつでも私を呼んでね」と言い残して、問題なく婚約解消は終わってしまった。他人事として人の争いを見るのは、特に偉ぶっている相手が負かされている状況なので、見ていて娯楽となったのだが。俺は完全に他人事でなくエルザの報復に関わらせられた立場なので、その分の報いはほしかった。


 ただその報いは過剰なほどに返ってきた。愚王子が次代の王は弟が相応しいのではないかと公で発言したのだ。愚の極みすぎる。

 俺はエルザの報復のためその弟側の派閥に近づいていたが、あくまで近づいていただけだ。所属したい訳ではない。報復が終えた今では中立となり、婚約解消された愚王子や兄の不祥事に盛り上がる弟の派閥の騒動から距離をとりたかった。


 愚王子はこれまで王太子と決まっていて、弟よりも優秀であることから、王や側近は発言を撤回させようとしているが、愚王子は無視しているらしい。

 エルザが婚約者だった関係上、かつては所属していた愚王子の派閥も弟の派閥にも熱心に誘われることになった。愚王子……一生エルザから嫌悪されていろ。愚王子の不義から婚約解消をさせた他、セザールとアリスを報復したことによるメルデリューヒ公爵家への恐れが殆ど効果なかった。



 セザールは罪を裁判で問われ、エルザの意向通りに厳しい労役に科されることになった。裁判ではエルザが生き生きとセザールを詰り、セザールは憤怒や苦痛や後悔や懺悔やらと忙しなかったことだけを述べておく。

 セザールの父のバジーリオは、結局息子の罪によって自ら宰相を退いた。卒業パーティー前のことだ。息子をそのように育ててしまった自責の念が強かったらしく、これでも最低限の引継ぎをして長く宰相の椅子に座っていた方だ。


 宰相としての功績から家門にまで罪の余波がくることはなかったが落ち目だろう。セザールだけでなく、カミッロも罪人となっていて信頼はなくなっている。まだまだ幼い息子がいるが、育ちきるまで家門は持ち堪えることができるのか、見物だな。バジーリオは宰相になれたほど優秀ではあるので、潰されることはないだろうがな。


 アリスはエルザへの殺人未遂として罰されることになった。庶民出身なので、ただ貴族の権力でもって叩き潰して終わりだ。愚王子の助けはなく、見捨てられていた以外に述べることはない。


 これで三人の報復は以上となる。




 メルデリューヒ公爵家は新しい立ち位置を模索させられている。次代の王を巡る派閥争いに巻き込まれそうになっていることの他、シャムニとの関係性だ。


 エルザは婚約解消したばかりだからと、ヨトの想いへの返答を放置して、手玉にとって遊んでいる。ヨトはエルザに猛アピールし、嫁とするまでシャムニには帰国しないと公爵家に居座る。ヨトがそんなものだから、その側近たちももれなくついている。

 つまり、メルデリューヒ公爵家内はとても騒々しい。しかもシャムニからさっさと王子を帰せとせっつかれ、暴君には刺客を差し向けられている。


「さっさと嫁に行け」

「いやよ。せっかく築き上げたわたくしの悲愴ぶりが崩れてしまうでしょう?」


 そんなものお前とメルデリューヒ公爵家を知っている者からしたら、偽りだと分かるだろうが。


 エルザが嫁に行ってしまえば、セットでヨトとその側近もいなくなるので騒々しくなくなり、シャムニからせっつかれなくなり、刺客は減ると全てが解決する。

 それを婚約解消後、直ぐにヨトに靡いたら醜聞だとして、エルザは一時の独り身を満喫している。


「それに、お兄様が寂しがってしまうでしょう?」

「発送してやろうか」

「いやね、わたくしは物ではないのよ」


 幼い頃のかわいげはどこに行ったのか。いや、幼い頃からこのような感じだったな。かわいげなんてなかった。


「さっさと妹を連れていけ」

「そうしたいのは山々なんですけど……でも、シャムニよりここの方がエルザと一緒にいられますし。刺客の数も少なくて守りやすいんですよねえ」

「潰れろ」

「ひえっ、エルザのときと対応全然違う!?」


 浮かれまくりの犬は見ているだけでうざく面倒だ。エルザはもっと躾をしておけ。


「躾と言えば……俺、エルザからご褒美を貰ってません」

「なんだそれは」


 躾で思いつくあたり、本人にも犬認識はあるんだな。


「王子になれたらご褒美をあげるって言われたんです!」

「だったらそれで嫁に貰っていけばいいだろうが」

「ええ、でもそれだと、ムードも何もないですし……」

「関係が進展するならどんな内容でもいいからさっさと行ってこい」


 蹴って送り出せば、側近がうるさく喚いているが無視する。騒々しいのには慣れた。


「エルザ、その、ですね。そういえば、ご褒美をもらっていないなあっと思いまして」

「ああ、そういえばそうだったわね」


 さも今思い出したというていだが、普通に覚えていたな。


 俺の姿を見てエルザは嫌な顔をするが、直ぐに存在を忘れたことにしたらしい。ヨトで遊びつくしてやろうと、あくどい表情をしている。


「そうね、ヨトはどのようなご褒美がいいの?」

「ええっ、俺が決めてもいいんですか?」

「わたくしが叶えられる範囲ならね」

「な、なら……」


 ヨトは顔を真っ赤にしている。なんという純情さ。エルザも見習った方がいい。


「俺とでえと、してください!!!」


 純情すぎる。お前、本当に王族か? 欲がなさすぎる。

 エルザは真顔になって問いかける。


「デートだけでいいの?」

「手を繋ぎたいです。あとお忍びで、庶民風に……これまでできなかった分、エルザと色々なものを見たいです」

「……」


 俺はその場から翻る。その純情さ故に、仲は進展することにはなるだろう。


「~~~~!? っえ、エルザ!? なにを―――」

「ん、特別よ。さあ、準備なさい。今からデートしに行くわよ!」

「う、うぅうぅぅ」

「ご褒美いらないの?」

「い、行きます! 行きますよ!」


 そのぐらい睦み合っているのだから、さっさとシャムニ行け。

 ヨトが無欲すぎたことで、予測が外れたエルザの怒りの矛先が向かぬよう、俺は足早に立ち去った。


とりあえず、これにて完結です。ありがとうございました。

よろしければ評価もよろしくお願いします。

なんか完結って言ってるけど、完結になってないぞなどについては活動報告にて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ