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第21話 悪役令嬢は嫉妬される

 わたくしを突き落としたセザールの罪を庇った理由は答えられない。王の次に身分の高い、王太子である愚王子が、だ。

 答えられない理由があり、口止めをしている者がいる。愚王子に口止めできる者として第一に王を考える。濃厚な線だろう。セザールの猫のことになると理性なき獣になることを、まだ理解していなかったかもしれない。宰相の父の瑕疵にならないよう庇ったかもしれない。


 でも、硬く口止めする理由はないわよね。なんせわたくしはセザールに突き落とされた本人だもの。罪を庇ったことはよく知っている。

 印象としては王のように愚王子が逆らえない、または蔑ろにできない相手から、口止めされているように感じたのだけれど。


「エルザ、卒業パーティーで私のパートナーになってくれる?」

「―――なりません」


 はい? と聞き返すところだった。思考に耽っているときの奇襲。わたくしが頷かなかったことは、愚王子からしたら痛いことでしょう。


 学園の卒業パーティーでは男女一組のパートナーと共に出席するのが習わしだ。そのパートナーは婚約者がいれば婚約者が、いない者は家族や友人となる。これは学生以外でも出席できる。学園の卒業生は将来の未来を担う者として、家族や要人も招かれて盛大に祝われることになるためだ。


「私たちは今でも婚約者のはずだけど」

「婚約者ではあるけれど、そのような関係ではなくなっていますでしょう。殿下にはアリスがいらっしゃるではないですか」

「私の過去の過ちが全て悪いとは分かっているけどね。今の私はエルザだけだよ」

「信用なりません」


 取り付く島もなく、きっぱりと断る。そこいらの者ならこれで終わりなのだが、諦めの悪い粘着質なのが愚王子だ。


「エルザ。わがままはかわいらしいけどね、叶えられる限度はあるんだよ」

「わたくしの主張はわがままですか」

「そう言う他ないよ。王家と公爵家が結んだ婚約だ。多くの人が関わり、利権が絡んでいる。私たちだけで済む問題ではないんだよ」

「そのようなこと、百も承知です。それでも殿下、嫌なものは嫌なのです。それほどのことを殿下はなさっていて、わたくしの気持ちを分かってくださる人はいます」


 情報戦ではわたくしより愚王子の方が分がよい。不義を反省しわたくしに熱烈に想いを寄せている様子と、愚王子の王太子の身分が不義を許されるためだ。

 だが、わたくしとて負けていない。婚約破棄となれば新しい婚約者が必要となることで、貴族は自らの家門から次期王妃を出し利を得ようと、わたくしの支持をする。愚王子でなくその弟君を王太子にしようとする派閥も、わたくしの後押しとなってくれている。


 婚約破棄の支持率は全体でみると半々だ。愚王子はわがままと言って責め立ててくるが、わたくしは負けていない。だが、勝ってもいない。


 でも、


「わたくし、必ず婚約破棄をしてみせます」


 自信や勝算があるから、愚王子と対立している。今更、愚王子の言葉に頷くことはない。


「―――のかい?」


 愚王子が何かを呟く。軽く俯いていることで、前髪が目にかかりよく見えないでいる。

 わたくしは何かしらと内心で戸惑い、返答しないでいると、愚王子が同じ言葉を繰り返す。


「あの護衛が好きだからかい?」

「はい?」

「ああ、やっぱりそうなんだね。だから私を選んでくれないのかな。パートナーとして連れてくるのかい?」


 これは…………嫉妬ね。愚王子相手では全く嬉しくないけど、面倒くささは変わらないわね。


 愚王子は表情を消して、わたくしをじっと見てくる。微細な表情も見逃さない目だ。わたくしはあえて表情を取り繕うことなく、面倒くささを前面に出して、はあと溜息をする。


「言っておきますが、わたくしあの護衛のことは好きではありません」

「顔は絶対に好きだよね」

「否定はしません」

「私のような顔が好みだと思っていたけど。変わったのかい? …………私の方が好みだよね?」

「殿下。しつこい殿方は嫌われますのよ」


 正直、今の愚王子は顔しか魅力がない。

 そのようなわたくしの心境を愚王子は分かっているようで、ヨトに顔の良さで勝とうと躍起になっている姿は見ていてとても楽しい。


 今は不義のせいで愚王子よりもヨトの顔の方がいいかしら、と思っていることは教えては上げない。そのまま躍起になっていればいいのよ。


 ふふと嗤ってみせると、愚王子は表情を取り戻して肩を竦める。


「エルザのパートナーになることは諦めていないよ。………………人形のように黙っていれば、パートナーになってくれるかい?」


 凄いわ。あの愚王子が迷走している。


「なりません。殿下とパートナーになるぐらいなら、一人で出席することを選びます」

「私以外の男にパートナーになられるよりはいいけどね。……義兄上なら辛うじて許すよ」

「お兄様はダンスが嫌いだから無理です」


 貴族としてダンスは必須だからできるようにはしているけれど、曲が限られている。それ以外の曲では足を踏みつけてくるし、巻き込んで転ぶことになってしまう。


「……義兄上の運動音痴は健在だね」


 そうなのよね。踊れる曲があるだけでも、褒められるぐらいの運動音痴さだ。猛特訓に付き合ってあげたわたくしも褒められてもいい。

 それはそうと、義兄上と言わないでくれる?



 お兄様の話題によって微妙な雰囲気になるも、愚王子はなかったことにして話を戻す。


「あの男には伝えておいてくれるかい? 私の婚約者を奪ったら、全力で相手になってあげるよ、と」

「おあいにくさま、最近は会っていないのです。直接伝えてくださいます?」


 その方が面白そうだから。

 ついでにヨトが手紙一つも送ってこないから腹いせよ。


 わたくしは愚王子に背を向ける。最後に人目なく話せた。元が猫との密会だったので無駄に疲れてしまったが、言いたいことは言えて、愚王子を翻弄できた。


「お先に失礼します。卒業パーティーを楽しみに待っていてくださいね」


 その日に全て決着をつける。参加者が大勢いるから、見事な晴れ舞台になるでしょうね。


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