77話 思いがけない電話
自宅に帰宅して、晩飯とある程度のテスト勉強の後、風呂から上がった俺はベッドの上で思考に耽けていた。
脳内再生されるのは、先の誠二の言葉。
――もし雪乃ちゃんと付き合うことになったら、教えてくれよな。応援するからよ――。
いつもなら、ただの冗談だと流していたかもしれないが、誠二の言葉には妙な真剣さがあった。
だからなのか、気に留めている。
俺と雪乃が恋人同士として付き合う?
そんなこと、少し前まで考えもしなかったことだ。
少し前――俺が文化祭でやらかして、汚名返上のためにクリパの準備会に参加するようになってから、雪乃との接点が増えた気がする。
連絡先も交換したし、準備会の連絡ついでだが食事を共にしたこともあったし、俺が体調を崩した時はお見舞いにも来てくれたし、一緒に下校することも増えて。
そんな中でも、雪乃はとにかく一生懸命で、クリパを良いものにしようと奮闘し、体育館の事故でクリパの開催が危ぶまれた時だって諦めたりせずに足掻いたり、その度に俺は彼女のために何が出来るのかと懸命に考えて――
不意に、すぐそばに置いてあったスマホから通話の着信音が流れてきた。
「っと、なんだ?」
スマホに手を伸ばして画面を確認すると、RINEの無料通話、それも『雪乃雫』と表示されている。
即座に通話のアイコンをタップして応じる。
「もしもし?」
………………
「ん?もしもし?雪乃?」
『んぅ……何、電話……ってあぁっ!?う、海石くんっ、もしもしもしもし?』
「お、おぅ、どうした。とりあえず落ち着こうか」
『ぇあ、あ、ぅ、うんっ、す、すぅー……ふぅー……』
向こう側から雪乃の深呼吸が聞こえてくる。
数度かの深呼吸の後、落ち着いたらしい雪乃が話を戻してくる。
『よし、お待たせ。それで、どうしたの?』
「どうしたのって、雪乃から電話掛けたんじゃないのか?」
『あ、あれ?そうだっけ……?なんか半分寝てたから……』
「……寝ながらミミズタップを繰り返してたら、偶然俺に通話を掛けていた、ということか?」
たまにある話だ。
寝落ち寸前状態でスマホを触ってると、知らぬ間に妙な文字を打ち込んでいたり、広告から別サイトへジャンプしていたりもする。
「てっきり、クリパのことで何か連絡があるのかと思った」
『うぅん、連絡とかは特にないよ。ってことはごめん、ただの迷惑電話になっちゃったね?』
「いや、こうして雪乃と話しているから、迷惑じゃないさ」
『何それ、変なの』
くすくす笑う雪乃の声が聞こえる。
それがなんとなく、心地良い。
『テスト勉強はどう?捗ってる?』
「まぁそこそこには。それより、白根さんはどうだったんだ?なんか苦労してそうだったが」
『うーん……なかなか厳しいね。白根さん、ほんとに勉強苦手なんだなって』
「意外だったな、あんなに真面目で礼儀正しいのに」
『だよねぇ』
他愛もない話なのに、終わらせたくない、ずっと続けていたい。
だが、時間とは無情なもので、気が付けば23時を迎えようとしている。
「なんだかんだ言って長電話したな、そろそろ寝るよ」
『うん。また明日ね、海石くん』
「んじゃ、おやすみー」
『おやすみなさーい』
互いにおやすみなさいを告げて、通話は終了。
トーク画面に切り替わるが、俺はそのやり取りを眺めていた。
「……寝るか」
よくはわからないが、雪乃と喋ってて、胸が暖かくなった。
今夜はいい夢が見れるかもしれないな。




