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ほっとレモン  作者: こすもすさんど


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68話 名誉挽回でも汚名返上でもない

 ごちそうさまでした。

 食事も済んだところで、雪乃は早く帰宅せねばなるまい。

 とはいえ、辺りはもう完全に真っ暗なので、雪乃の自宅近くまでは送ろうと思う。


「……ほんとに、後片付けもお金もいいの?」


 玄関で靴を履き終えて、雪乃はそれを改めて訊ねて来る。

 ちなみに、これと全く同じ台詞を三回くらい繰り返している。


「そう何度も言わなくていい。善意を押し付けて金を取るのも、おかしな話だろう」


 今回は俺の方から誘ったのだから、それで代金を求めるのは筋違いと言うものだ。


「それに、家の近くまで送ってくれるなんて……」


「こんな夜道を女の子一人で歩いてみろ、何か勘違いしたバカがバカをやらかしに来るぞ」


 俺も手早く靴を履いて、玄関ドアを開ける。

 やっぱり寒いな、辺りは暗いのに道だけは雪で真っ白だ。


「うっ、寒ぅ……」


 寒気を浴びて、雪乃は身体を震わせる。

 

「大丈夫だ。雪乃の名字を考えれば、これくらいはなんとも無いはずだ」


 "雪"乃だからな。


「それ、春になったら私の家族はみんな溶けちゃわない?」


「それもそうか」


 なんてくだらないことを言いつつも、戸締まりしてレッツゴーだ。

 さくさくと凍った雪を踏み締める。


「……あ、そうだ海石くん」


「ん?」


「クリパの準備会のことなんだけど……」


 そう聞いて、我知らず身構える。

 雪乃は、悪足掻きをしていたと言っていた。

 なんとかなりそうなのか?


「海石くんの名誉挽回については、大丈夫だからね?」


「……どういうことだ?」


 どうにかなりそうだよ、と言う答えを期待していたが、予想とは異なる答えが返ってきた。


「ほら、元々海石くんは、文化祭で問題を起こしたからその反省も含めてクリパの準備会に参加してたでしょ?それで、今回のクリパが中止になったら、名誉挽回も無しになるんじゃないかって、心配してそうだったし……」


 ……それは、今気にしなくちゃならないことか?


「絵里香先輩や先生方も、海石くんの働きぶりを評価してるし、もう十分誠意は見せたと思うの。だから……」


「俺は、お払い箱か?」


 自分でも驚くほど、冷たい声をしてしまった。


「えっ……?」


「もう汚名返上は済んだから、俺はお払い箱なのか?」


「海石く、ん……?」


 俺が足を止めたことに、雪乃も足を止めた。


「俺は、ただ汚名返上のためにクリパの準備会を頑張ってきたつもりはない。俺なりでも、どうすれば準備会が、クリパが良くなるか考えて、行動に移してきた。……それも、今日で終わりなのか?」


 何も成し遂げられないまま終わるなんて、そんなの


「俺は……嫌だな」


 これは、俺の本心だ。

 確かに最初は名誉挽回や汚名返上のために渋々やっていた感はある。

 けれど準備が進み、自分でも少しずつ楽しく思えてきたんだ。

 それに、


「……ねぇ、海石くん」


 ふと、雪乃が一歩近寄った。


「なんで、そこまでしてくれるの?」


 なんでって? 

 それは俺が――


「………………俺は、雪乃のボディガードだからな」


 違う。これは俺の本心じゃない。

 本心じゃないが、そんな言葉で上書きしてしまった。


「ただのボディガードさんが、イベントを真剣に考えたり、ご飯作ってくれたりするの?」


「そういうボディガードもいるだろ、多分」


「そう……なんだ。……そっか」


 そうして、再び歩き出す。


 ある程度の距離で、雪乃とは別れた。

 間際に「また明日」と交わしたが。


「悪い雪乃……俺にはまだ、勇気が足りなかった」


 俺のその呟きは、雪の中に溶けていった。

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