63話 受難
津辻会長から事の顛末を聞いた俺は、休憩時間を切り上げて第二生徒会室へ駆け戻った。
「あ、海石先輩、廊下は走っ……」
「緊急事態につき許可は得ている。というか白根さんも来てくれ」
その途中で白根さんを見つけたので、ついでに連れて行く。
「そ、そんな許可なんて聞いてませ……って、えぇっ?」
第二生徒会室に戻って来ると、やはり事態はまだ知られていないらしい、いつもの光景がそこにあった。
「ん、椿おかえりー。ってか、まだ休憩時間でしょ?」
夕莉が気軽そうに迎えてくれるが、その気軽さに少し苛立ちを覚えた。
「みんな聞いてくれ。体育館で事故があった」
「「「「!?」」」」
雪乃、夕莉、大松先輩、白根さんの四人はそれを聞いてバッと俺に向き直る。
「事故……海石くん、どういうこと?何があったの?」
雪乃はタブレット端末を置いてその"事故"について訊ねてくる。
「今しがた、津辻会長から聞いた話だ……」
俺は津辻会長の電話や、その後で聞かされた内容をほぼそのまま話す。
まず、先日に点検が入ったはずの体育館の照明が館内に落下したこと。
不幸中の幸いか、怪我人らしい怪我人は、かすり傷程度が一人出ただけで、人的被害はほぼゼロ。
その場にいたバスケ部が確認したところ、照明の可動部が折れていたと言うことから、ここも老朽化が進んでいたかもしれない、と。
「……俺が聞いたのは以上だ」
以上ではあるが、同時に別問題も発生した。
「……それは、あまりよろしくないかもね」
最初に、大松先輩がそう呟くように応じた。
「よろしくない?どういうことですか?」
夕莉がその「よろしくない」理由を訊ねるので、俺がそれに答える。
「考えてみろ夕莉。クリパの会場は体育館。そこで一度事故が起きたと聞いて、安心して入れると思うか?」
「でも、そんなのたまたま起きたことじゃ……」
「その"たまたま"起きたことで、かすり傷とはいえ怪我人が出たんだ。もしかしたら、他の照明も落ちてこないとも限らない。いつ落ちてくるか分からない不安を抱えながらパーティを楽しむなんて、出来るか?」
「っ…………」
出来ない、だろう。
もし自分や周りの人間に照明が落下して、下手をすれば大怪我にもなりかねないんだ。その万が一を考えたら、夕莉も口を噤むしか無い。
「でしたら、もう一度点検が入るということですか?」
今度は挙手をしてから白根さんがそう訊ねる。
「点検……というより、工事が入るかもしれないな。それがいつから始まって、いつ終わるか分からない、となると……」
「クリパを、中止しないといけなくなる……?」
青褪めた顔で、雪乃が声を震わせた。
「まだ確定事項じゃない。だが……今の段階じゃ、その可能性は高いだろうな」
「そんな!せっかくここまで来たのに!?」
夕莉が椅子を蹴り倒して立つ。
「落ち着いて雉隠さん。確定事項じゃないんでしょ?」
冷静に事の推移を見ている大松先輩は、あまり動じているようには見えない。
「……私、今から絵里香先輩に状況を確かめてくる。海石くん、鍵はお願いね」
雪乃は静かに席を立つと、鍵を俺に押し付けて、足早に第二生徒会室を出ていく。
どうか、杞憂であってくれ。




