57話 消し炭なんてあんまりだ
「大体っ、そんなに言うなら夕莉が着ればいいじゃない!」
びしすとプリピュアの衣装を指差す雪乃と、
「いやいや、あたしじゃ胸囲が足りなくてブカブカになっちゃうし、大松先輩じゃ背が高いからスカートが意味なくなっちゃうし、白根ちゃんは今いないし、ねぇ?」
だからここは雫しかいない、と言う夕莉。
というか、最初から雪乃に合わせて作られてないか、その衣装。
……待て、まさか津辻会長の私物か?
一昨年――津辻絵里香が一年生辺りの頃にそれを着せられたと、津辻会長と雪乃の身体付きも近いと、考えれば説明がつく、か……?
やめておこう、下手に黒歴史に触れようとすると土に還らされそうだ。
「私でも無しですぅっ!」
うーむ、話が平行線を辿っているな。
すると大松先輩が「いい加減うるさいからなんとかして」と目線で訴えてきた。うん、表情からして心底鬱陶しそうだ。
「ど、どうするんだ椿……」
昌磨も困惑している。いや俺にどないせぇと。
……普通に考えれば、夕莉に「アホなことやってないで仕事手伝え」と言って止めさせればいいところだが。
プリピュア衣装を着た雪乃にも興味がある。
パッと見はちょっとイタいかもしれないが、かわいいし似合うと思う。
なので俺は、夕莉側に加担することにした。
「まぁまぁ、双方落ち着いて、だ。雪乃、とりあえず着てみたらどうだ?」
「はぁっ!?海石くんまでそんなこと言うの!?」
当然、雪乃は反発する。
彼女の反発は無論のこと織り込み済みだ。
「別にそれを着て今からライブしに行くわけじゃないだろ?ここにいるのは俺たちだけだ。試しに一回着てみて、悪くなければそれでよし、ダメなら二度と着ません、でいいじゃないか」
「…………」
雪乃の表情から怒りが薄れていく。いくらなんでもチョロ過ぎないか?
視線の端の方で、夕莉が「ナイス椿!」と親指を立てている。
よし、もう一押しだな。
「もちろん、写真や動画を撮ったりしないし、ここで起きたことは言い触らしたりしない。試しもせずにダメダメ言うばかりなのは、あまり良くない気がするな」
「な、なる、ほど……?」
着るか着ないかの二択で、気持ちが前者に傾きつつあるのが見てわかる。
「そ、そうだね。一回、一回着るだけだもんね。試しもせずにダメっていうのも、良くないよね。うん、うん」
勝ったな(確信)
なら、後はお膳立てだ。
「着替えるって言うなら、男子は立ち入り禁止だな。昌磨、せっかく来たところで悪いが、ちょっとだけ門前払いだ」
そう言いつつ、踵を返そうとして、
「いやいやいやいや、良くないだろ?」
唯一、冷静に事を見ていた昌磨がそこで待ったをかけた。
その待ったを聞いて、雪乃は我に返ったように硬直し……
「あーーーーーっ、もーーーーーッッッッッ!!」
バンッ、と長机に両拳を叩き付けて席を立つ。
「雪乃さん、台パンはゲームセンターだけにして」
あからさまに溜息をつく大松先輩。この人ちょっと冷静過ぎないか?
「夕莉、その衣装今すぐ捨ててきなさい」
声のトーンを落として、夕莉にそう告げる雪乃。
「え、いや、試着は……」
「消 し 炭 に し て き な さ い」
「……ァッハィ」
結局、プリピュア衣装の雪乃は見れず終いだ。残念。




