3話 善行は時に悪評を生む
俺には、『雉隠夕莉』と言う幼馴染みの女子がいる。
幼馴染みだが、恋人として付き合っているとかではない。普通の友人よりは付き合いが長いだけだ。
その夕莉が、昨日の文化祭の最中に、他校のチャラい男子にナンパされていた。
夕莉自身もナンパな男に振る尻尾は無いのでお断りしたそうだが、相手は思いの外しつこく、夕莉もかなり強気で拒否するも暖簾に腕押し。
それを見かねた俺が止めに入ったわけだが、(俺の止め方が悪かったのかもしれないが)何故か相手は逆ギレし、俺に暴力を振るう蛮行に及んだ。
一方的に殴られるわけにもいかないので、俺も正当防衛として抵抗したわけだが……
その結果、相手に複数箇所の骨折を負わせ、119番通報沙汰にまでなってしまった。
文化祭中に救急車が飛んでくるなんて……いや、あまり珍しくもないのか?ともかく相手は搬送されて、残された俺は、その現場を見ていた生徒らから『文化祭中に他校の生徒と暴力沙汰を起こし、相手を病院送りにした男』と言う、あまりにも不名誉極まりない汚名を着せられたわけだ。
救急車が来校するような問題ともなれば、当然先生方も目を瞑ってはおられず、俺は残りの文化祭の時間を返上し、お呼び出しである(俺とは別のタイミングで夕莉も呼ばれていたようだ)。
最大限の配慮として、俺はそのまま下校。
詳しいことについては明日に生徒会室にて、と言う通達を受けた。
回想終了。
で、翌日になってここ、生徒会室で執行の時を待っているわけだ。
どのような処分になったとしても文句を言うつもりはないが、『文化祭中に他校の生徒と暴力沙汰を起こし、相手を病院送りにした男』の汚名が払拭されるわけではないだろう。
しかも振替休日と言う今日中にそれが知れ渡り、明日には危険人物として白眼視されると思うと、かなりやってられない。
「それで津辻会長。処分の内容について詳しく」
やってられないが、避けられるものでもないんだ。
「処分と言いましても、もっとよろしくないはしゃぎ方をしていた生徒も多く、たかが救急車を呼ぶようなことだけで海石くんばかりを厳しく罰するのも筋が通らないと、先生方も悩んでいたようです」
津辻会長は、心底困り果てたように目を伏せる。
「救急車沙汰ってけっこう大事だと思うんですが……普通に考えれば、数日の停学が妥当かなと」
一発アウトで退学になるよりは遥かにマシだ。俺に対する風評被害はひどいことになるかもしれないが。
「雉隠さんも、「彼ばかりが悪く扱われるなんておかしい」と仰られていましたし、かといって問題を起こした手前、全くのお咎め無しと言うわけにもいかないのです」
「まぁ、そうかもしれませんが」
夕莉も抗議してくれてたんだな、あとでお礼を言っとこう。
「そこで、です」
殊勝な顔をしていた津辻会長が、突然にっこりと笑みを見せて、雪乃を引き合いに出した。
「海石くん。この、『ちょっと頼りないけど見目麗しい、期待の美少女生徒会長』を手伝ってみませんか?」
ニコニコしながら何を言うとるんだこの人は。