2話 新旧生徒会長、揃い踏み
生徒会室の先客は、二名の女子生徒。
「おはようございます、海石くん。振替休日にも関わらず、来ていただいてありがとうございます」
「まぁ、来いと言われたからには……」
俺から見て正面の席に着いているのは、艷やかで長く美しい黒髪を持つ、"前"生徒会長『津辻絵里香』。
猩々高校の理事長の娘でもあり、かなりのお嬢様であるのだが、お淑やかかつ穏やかな気風、端麗な容姿、成績も学年三指の常連であることから、生徒達の人気は絶大。
現に、文化祭の伝統行事とも言うべきミスコンで、一昨年、去年、そして今年とで三連覇を成し遂げた、伝説の人。
家柄もあって、高嶺の花どころか天上の存在として崇められているらしい。
そしてもう一人、隣に控えているのは、その絵里香にも負けず劣らずと評される、赤みを帯びた茶髪のロングヘアをツーサイドアップに近い形に束ねた美少女。
こちらは"現"生徒会長『雪乃雫』。
俺と同じクラスメートであり、双方に面識はあるが、知り合い以上、友人未満といった関係だ。
生徒会長に立候補したのも、彼女の周りの生徒達からの後押しを受けたから、とされているが、ただ単に持て囃されて口車に乗せられたのではないかとも思われている。
雪乃が生徒会長に相応しい素質を持っているかどうかなどは、俺にはわからないが、少なくとも立候補が通る程度には能力はあるはずだろう。
そんな、新旧生徒会長が二人揃った状況を前にして、俺は判断に迷った。
文化祭のやらかしを問われ、相応の処分を受けるだけなら、津辻会長だけで十分なはずである。
けれど、そこに雪乃までいるとなると、話はそれだけで済むのかの判断に迷う。
今更ここで回れ右をするわけにはいかない、奇妙な不安を押し隠して、津辻会長の前に立つ。
「では、揃ったところで始めましょう」
津辻会長の声を聞いて無意識の内に気を引き締める。
揃った、と言うことは、雪乃も同席するようなことなのか。
「海石くん。今回の件、承知の上ですね?」
「……『文化祭中に他校の生徒と暴力沙汰を起こし、相手を病院送りにした男』と言う汚名ぐらいは」
そう。
それが、今日俺がここに召還された理由である。
俺の回答を聞いて、津辻会長は溜め息を零す。
「雉隠さんにも事情は聴取しましたが……完全に相手側から仕掛けてきたところに、正当防衛をしたに過ぎないと」
「まぁその、いくらしつこかったとは言え、骨を二、三箇所ほど折ってしまったのは過剰防衛だったかなと」
俺の脳裏には、つい昨日、文化祭の最中に起きた『暴力沙汰』の全始終が再生されていた。