1話 やらかした
久々に新連載始めました。
残暑厳しい気温は一度忘れ去られ、涼やかな風と共に紅葉を迎え始めた頃。
衣替えの時期とも言える。
クリーニングを終えてから、三ヶ月ほど衣装ケースの中で眠っていたブレザーの上着を羽織る俺――『海石 椿』は、暖色に染まる朝の並木道を一人往く。
平日の、明朝と言うほどの時間帯でも無ければ、昼前でもない、言うなれば"通勤ラッシュ"の時間帯にも関わらず、同じ学園の制服を纏う者は誰一人といない。
それもそのはずで、俺が通う高等学校『私立猩々学園』は昨日、文化祭であったために、その翌日たる今日は振替休日である。
では、何故俺は制服を着て、同じ学園の生徒のいない通学路を慎ましく闊歩しているのか。
せっかくの休日に図書室に籠もって勉強しに来るほど勤勉ではないし、運動部として一人朝練に励むわけでもない。
……有体に言えば、文化祭で問題をやらかしたに尽きるのだが、
「解せぬ」
それが、到底納得しかねる内容だったからだ。
理解は出来る。だが、感情が納得いかない。
理解と感情がせめぎ合っている内にも並木道を抜ければ、猩々学園の校舎が見えてくる。
校門を潜るついでに、警備員さんに挨拶。
「おはようございます」
この警備員はそれなりの御歳ではあるが、気さくな人柄とノリの良さから、少なくない生徒から好印象を抱かれている。
「おぅおはようさん。どうした、今日は振替休日だろう?」
「文化祭でやらかしたので、生徒会に呼び出しを喰らいました」
「あちゃー、そりゃ災難だな」
「そんなわけで、今から生徒会室に行ってきます」
「まぁ、怒られるぐらいで済むんだ。頑張っていけよ」
せいぜい頑張りますよ、と軽く会釈をしてから、俺は玄関口へ向かった。
ロッカーで上履きに履き替えて、真っ直ぐに生徒会室を目指す。
刑を執行される罪人と言うのはこういう心境なのだろうか、と余計なことを考えつつ、階段と廊下を進む。
生徒会室の前に到着。
はてさて、判決は如何なるものか。
普通なら何日かの停学か、それに準ずるペナルティだろう。
出来れば軽くで済みますように、と心のなかで偶像に祈りを捧げながら、ドアをノックすべく手を伸ばした。
コンコン、と小気味良い音を打ち鳴らす。
「はい」
ドアの向こうからの応答を聞いて、自分の名前とクラス、用件をハキハキと伝える。
「失礼します。二年一組の海石 椿です。入室してもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
入室許可を得て、呼吸を入れ替えてからドアをスライドさせ、生徒会室へ足を踏み入れた。