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こちら転生勇者絶許委員会!  作者: かんぬぁづき
3/4

時間停止能力者の倒し方 3

「お疲れネイク」


勇者が進行中の位置から約一キロ離れた場所で、五人は勇者の動きをマークしている偵察担当のネイクと合流した。


「…俺は迎えの馬車を要請したはずなんだが。なんでいらない荷物が五つも乗っているんだ?」

「言い方よ!」

「自分達も勇者の動きを生で見たいと思って一緒に来たっす!」


新人はそう言いながら望遠鏡を取り出す。他の四人も同じように望遠鏡を出し、勇者のいる方角を見た。


「一人ですね」

「あぁ、一人だ」

「ゲートに駐在してる人間の話をろくに聞かないで出発したという感じでしょうか?」

「人と魔族が争っていた歴史を聞き始めた辺りで『マゾク!許せない!』って言って飛び出したらしい」

「話を聞くことの大切さを知るべきですね」

「そうだな」

「というか世界のシステムを聞かなくてもなんとかなると思ってるヤバいヤツだから敵性勇者に認定されてるんだけどね」


委員長が半笑いで言う。


「ヤツは今、そこら辺の魔物と戦って自分の戦闘力を測ろうとしてる所だろう。ただ、近隣に住む魔物は既に避難させたからアイツは誰かと戦いたいけど誰もいないという状況に陥る」

「それは悲しい」

「あぁ、まあ魔物の命を守るためだ…ほれ、観察を止めろ。俺たちも移動するぞ。荷物はもうまとめてあるから積むのを手伝って来れ」

「え!?もう移動すか!?」

「当たり前だ。勇者は『マンガ』に載っていた時間停止に近しい現象を既に三回も発動している。うちの部隊が観測していないだけで他の能力もあるかもしれない。今アイツの近くにいるのは危険だ。さっさとこの場を去るぞ」




敵性勇者が出てきたらまず委員会では勇者の能力分析が行われる。魔法は圧倒的に自由度が高い力といえども、何かしらのルールはある。チート能力も例外では無い。


チート能力の裏にあるルールを分析して、能力の弱点を突く。それが彼らの仕事だった。


「という訳で!時間停止って言っても全てが止まる訳じゃないはずなんだ!もし勇者の体以外の全てが止まったら勇者は即死だよ!」


移動中の馬車では早速勇者の能力に対する考察会議が行われていた。資料を片手に各々が意見を述べる。


「だから、時間停止攻略の肝は『何が動けるのか』『動かない物はどうして動かないのか』明らかにする事だと思うんだよね!」

「当たり前だな」

「うぉい!」

「あのさ」


ライザが頭の羽をぴこぴこさせながら挙手する。


「『物体の動きを停止させる』のが時間停止能力のカラクリなら確かに動く物、動かない物を判別するのは大切だけど、魔王城で委員長が話してた『通常時の何万倍もの速度で動ける』が本当の能力っていうのもありえるんじゃないの?勇者が『通常時の何万倍もの速度で動ける』と『普通の人間の何万倍もの強靭な体を持つ』という能力を併せ持っていたらいけると思うんだけど」

「それはない」

「アンタがこの方が自然って言ったんでしょうが!」

「勇者の能力が超スピード移動で、勇者自身はそれに耐えられるとしても、超スピードで移動してるなら勇者が通った場所では衝撃波が起きているはずだ。でもさっき現地視察した時に、勇者が能力を発動した辺りの場所が衝撃波でメチャクチャになっているような様子はなかった。それに超スピードで移動すると…」

「移動すると、何よ」

「少し調節ミスるだけで大気圏外までぶっ飛んでっちゃう」

「えぇ…」

「という訳で、時間停止は『特定の物体の動きを何らかの方法で止める能力』と考えてまず間違いないでしょう!」

「さっきも同じ事を言っていたが、結局その『特定の』ってのはどうやったら分かるんだ?俺たちが議論するだけじゃ結論は出なそうだが」

「その通り!だから今から実験をしようと思うんだ!今馬車に向かわせてるのは実験場だよ!」

「実験場?」

「そんな所あったか?」

「まぁ詳しいことは着いてから説明するよ」




魔王城は人間の領地からかなり離れた位置にある。召喚装置(ゲート)の技術を応用した移動装置の発明により現在、移動はかなり便利になっているが、この装置が使えない一般人は人間の領地から魔王城に着くまで普通なら一ヶ月はかかる。しかし、勇者はその能力が未知の生物。極端に言えば本人の気まぐれで転生から一時間で魔王城に侵入する危険だってあるのである。


「よーし、着いたー!」


よって、敵性勇者は出現次第迅速に無力化されなくてはいけない。馬車が止まると、六人は素早く荷物を掻き出し、先に着いていた魔物の案内を受ける。


馬車が着いたのは山の麓だった。


「あ、あの…実験って山の中でやるんですか?」

「かなり距離が必要な実験だからさ、山の上とかなにも邪魔する物が無い所がいいんだよね。山の上なら地上を歩いてる勇者は気付きにくいし万が一の事があっても茂みに隠れれるし。隠密行動大事。…あ、ここだよ!」


茂みをかき分け進んだ先には見通しの良い小さなスペースが造られていた。六人は目の前に置かれた十個の歯車と、透明で小さな同じくニ十個の箱に注目する。


「コレはなんでしょうか?」

「よくぞ聞いて来れたミカン!」

「うわうるさ」

「隠密行動という(てい)はどうした委員長…」

「まぁ装置の説明くらいなら声張ってもいいでしょ。この歯車はね、光の速さを測るために人間が発案した装置なんだ!使い方はめちゃくちゃアナログ。光を向こうの山に設置した反射板まで飛ばし、その間に歯車をちょびっと動かす。光があっちの山とこっちの山を往復する時間と、歯車の回転速度を比べる事で光の速さが求められるっていう仕組み。今回は少し改造を加えて、止まった時間内で光が動き続けているなら、装置に無理やりくっつけた魔法植物『カゲゴケ』が光に反応して変化を示すようにしてるんだ!」

「無理やりって…」

「箱の方は気体が止まった時の中でも動くのか調べる装置っす!学校の授業でも使われる装置で、もし止まった世界でも気体が動き続けるなら箱の中でパンパンになってる『ハードバブル』がペシャンコになるっす!コレらの装置は委員長に指示を受けて、自分の輸送部隊に迅速かつ丁寧に準備させたっす!」

「俺が今持ってるスイッチを押すと、現在勇者が侵攻してる地点に大量の魔弾が遠隔で放たれ、同時にここの装置が一斉に起動する。魔弾で勇者を倒せたらオーケーだし、倒せなくても止まった時の中で光と空気が動くのかどうかが分かるわけよ!」


委員長はドヤ顔で解説をし、新人もうんうんと元気いっぱいに頷く。


「学校の実験装置で事足りる物なの…?」


そんな二人を見てライザは大分不安な表情を見せていた。


そんなやりとりをしていると、ちょうど近くの茂みからガサガサと何者かが入ってくる音がした。


「報告!勇者が例のスポットに入りました!いつでも行けます!」

「よっし!報告おつかれ!」


委員長と新人は報告を聞くや否や、実験装置の最終確認に取り掛かる。


「問題ナシ!」

「こっちも問題ないっす!」

「よしよし、それじゃあ勇者が指定されたポイントを通り過ぎちゃう前に…早速ボタン、押しまーす!」


ポチッ、と委員長は手に持っているボタンを押す。その瞬間、


『ドゴォッオーン!!』


はるか遠方から何かが爆発する音が聞こえた。


「え…なに今の音…」

「恐らく魔弾関係だろうが…魔弾は発射してもあんな音はしない。となれば無事に勇者に着弾したか、空中で爆発四散したのだろう。…まぁ勇者が魔弾なんかで倒せるとは考え難いが」

「つ、つまり…今のは、勇者が魔弾の雨を一瞬で消し飛ばした音?こ、これが時間停止能力の本領…」

「ふんふん…こっちのカゲゴケは緑のままだけど、こっちのは光ってると…あ、こっちも光ってるね」

「真空装置内の『ハードバブル』は全部ペシャンコっす!時間停止中でも気体は流入していたみたいっす!」

「おっけー。クラーク、メモよろしく。あれ、コレもしかして、もうちょっと装置改造したら止まってる時間が何秒だったのかも分かったのか…」

「時間が止まってた時間が分かるなんてなんだか意味が分からないっすね!」


ネイク、ライザ、ミカンは遠く離れた勇者のいるであろう場所を心配そうに見ていた。その一方、委員会と新人は実験の結果を観察し、クラークがその一つ一つを丁寧にメモに残していた。


しばらくすると、再び茂みをガサガサと掻き分ける音が聞こえ、


「ほ、報告!勇者は時間停止能力を発動した模様!発射された魔弾が空中で、少しの誤差もなく全て爆発四散した事が確認されました!着弾予定地で勇者が『マモノいねぇのかよ!発射地点っぽいとこ行っても魔法飛ばす機械みたいなのしかなかったしよ!ゴブリンの一匹や二匹いてもいいだろうが!』と叫んでいるところが観測されました!」

「うわ、まじバーサーカー…」

「や、やっぱり物量で勇者を倒す事はできないみたいですね…時間止められちゃうから…」

「そうですね…でも、今思ったのですが、勇者の時間停止能力、流石にクールタイムがあるのでは?」


クラークはメモを書きながら言った。


「あれだけの魔法、流石に連続使用できないでしょう。わざと一度使わせて、再停止ができないタイミングで襲ってしまえば勇者を倒せるのでは?」

「なるほど…」

「いや、それは危ない」


全ての装置の観察を終了した委員長はヨイショ、と立ち上がった。


「今回の勇者の一番やばい能力は確かに時間停止だ。だけど魔弾を空中で破壊した事からも、勇者自身戦闘能力が高い事はよく分かる。仮に一回時間停止させてから総攻撃するとして、もし勇者が攻撃を耐え切ってしまったら次の時間停止で俺達は蹂躙されることになる。あ、メモまとまった?」

「はい。しかし、クールタイムは攻撃しない方がいいなんて…ん?という事は委員長、まさか…」

「そう、そのまさかだよ」


クラークから渡されたメモをしばらく眺めていた委員長だが、全て読み終えると実験結果に満足いったようで、


「うんうん。時間停止能力って『マンガ』の通りだとどうしようも無いと思ってたけど…こんくらいなら何とかなるな」


怪しい笑みを浮かべたのだった…。

【読んでも読まなくてもいい設定】

分析


・勇者の能力の仕組みを理論的に解明する作業。勇者討伐のために必要な転生勇者絶許委員会の基本業務

・敵性勇者出現時は遠隔装置などを用いて、わざと勇者に能力を発動させ、その能力を分析する。ただ、この方法は勇者を挑発してしまう恐れもあるので注意

・敵性勇者が出現してない間は異世界の生産物『マンガ』『ドラマ』『アニメ』『ラノベ』なる資料を用いて、勇者が持つかもしれない能力を分析する。コレらの資料は、研究のため魔族がゲートを再現しようとした時、なんか知らんが生物の代わりにゲートから召喚された物である。具体的にどういうものかは分からないが、チキュンに召喚された勇者達がコレらの資料に書かれている物と近しい能力を持っている事が多々あるため、資料としての有用性が確認された。ミカンは結構好きらしく、勤務時間外に個人的に読んでいる姿がよく目撃されている。

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