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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第12話 宝島

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10

「竜──竜だあ!」


 船長室から甲板に出て、船端から叫び声の出どころを見やる。

「あいつら、しぶといなあ」

 ロレッタの言葉に、私は同意するように頷く。見れば、眼下では、酔眼たち海賊と白頭の一味が、いずこから現れたものか、白い竜と相対している。白竜は、甲板の私たちには目もくれず、執拗に奴らを狙っており──きっと逆鱗に触れるようなことをしでかしたのであろうなあ、とあわれに思う。


「あれ? 酔眼と白頭、共闘してない?」

「竜が出たとなれば、いがみあってもおられまいよ」

 ロレッタの疑問に、黒鉄が答えて。

「それに、奴らからすれば、儂らも共通の敵じゃろうからのう」

 手を組んだとしても不思議はないわい、と続ける。


 白竜は、西風の船の前に降り立って、眼前の不届きものたちを威嚇するように咆哮して──船の甲板に鉤縄をかけて、今にものぼらんとする海賊たちを、尻尾を振りまわして吹き飛ばす。

「あの竜、奴らを深追いしない──西風の船を守ってるだけみたい」

 ロレッタの言うとおり、白竜は吹き飛ばした連中に止めを刺そうとしない。追い打ちをかけることなく、船を守るように翼を広げて、再び咆哮する。


「──思い出しました」

 と、胸もとでフィーリが声をあげる。

「あれは西風の飼っていた子竜です。ずいぶんと大きくなりましたねえ」

 以前は西風の肩にとまっておりましたのに、とフィーリは懐かしそうに語るが、そんな微笑ましい情景がとても信じられないほどに、白竜は巨大で猛々しい。


「あ、もしかして──」

 と、私は西風の手紙の文面を思い出して、続ける。

「我が子の災いって、竜のこと?」

「そうかもしれんのう」

 私の言葉に、黒鉄が頷いて──船に手を出すと白竜に襲われる、ということであれば、手紙の文面も意味をなす。

「あの竜は、見境なく危害を加えているわけじゃなくて──主との思い出の船を傷つける不届きものをこらしめてるだけ、なのかも」

 船を守る竜の姿に、私は思わずつぶやく。

「なるほど、鉤縄で船を傷つけたから、襲われておるというわけか。いやはや、儂らはロレッタの糸で甲板にのぼって、命拾いしたのう」

「いくらでも感謝して!」

 誇らしげなロレッタに、ぞんざいに感謝する黒鉄──二人をよそに、私は竜をみつめる。

「主の遺した──主との思い出の船だもん。そりゃ、守りたいよね」

 健気な竜じゃないか、と私は胸を熱くする。


「ようし! 今から私はこちらの味方についた!」

 私は船端に足をかけ、旅神の弓を構えて、高々と宣言して──竜に向かって、まさに曲刀を振りおろさんとする白頭の手を、あやまたず射抜く。曲刀を取り落とした白頭は、憤怒の形相で私をねめつける──が、先に裏切ったのは奴の方なのだから、竜に味方するくらいで、非難されるいわれはない。


「マリオンがそう言うのなら、仕方ないのう」

 言って、黒鉄は古代の斧を肩にかつぐ。

「ロレッタ、頼むわい」

 黒鉄の言葉に、ロレッタは心得たもので。

『羽のごとくあれ!』

 彼女が力ある言葉を唱えると、黒鉄は船端から、ひらり、と飛びおりて──白竜を背にして、海賊たちの前に降り立つ。

「我らは竜の味方についた! 儂の前に立ったものは、命はないと思え!」

 吼えて、斧で一閃、空を薙いで──それだけで、海賊たちは脅えるように足を止める。

「帰りの船に乗りたいものは、引っ込んでおれい!」

 白頭の一味のうち、船長の部下であったものたちに向かって言って──黒鉄は、海賊の群れに突っ込んで、斧を振るう。

『魔糸よ!』

 唱えて、ロレッタは、黒鉄の斧から逃げ出した海賊たちの足もとに、気づかれぬように糸を張る。海賊たちは、糸につまずいて転び──さらには、倒れ伏したところを、黒鉄の斧が襲うのだから、たまったものではない。海賊たちの惨状に、戦意を失いつつあるものたちがいることに気づいて、私は彼らを呼ぶ。


「船長の部下たちよ!」

 声を張りあげると、彼らは救いを求めるように私を見あげる。

「私たちは、すでに西風の財宝を手に入れた! 私たちに従うものには分け前を与える! 財宝がほしいものは、酔眼と白頭を打ち倒せ!」

 煽るように叫んで、弓を握る手を高々と掲げる。船長の部下たちは、財宝につられたものか、それとも黒鉄の凄まじさにおそれをなしたものか──どちらにせよ、生き残ることについては鼻の利く、したたかな連中であるようで、踵を返して、酔眼たち海賊と白頭の一味に襲いかかる。


「ようし! ぬしら、危なくなったら声をあげい! 儂らが必ず助けるからのう!」

 言って、黒鉄は斧を振るって──船長の部下と相対していた海賊たちを、まとめて数人吹き飛ばす。そう、私たちは──私たちの都合で巻き込んでしまった船長の部下たちの命に──たとえ、裏切りものであっても──責任を負っている、つもりなのである。


「助けてくれ!」

「よしきた!」

 今にも海賊に斬り伏せられそうな船員の叫びに応えて、黒鉄は間に割って入って、海賊の脳天に斧を振りおろす。海賊は頭蓋を打ち砕かれて、そのまま縦に両断される。


「くるな、くるなあ!」

「任せて!」

 追いすがる海賊から逃れようとして転んだ船員の叫びに応えて、ロレッタは糸を放って、襲いかかる海賊の足を取って──次いで、転んだものたちを、次々と縛りあげていく。


 酔眼たち海賊も、白頭の一味も、ついには分の悪さを思い知ったようで──白竜に加えて私たちまでを相手にしては敵わぬ、とあきらめたのであろう、口々に、やってられるか、と悪態をつきながら、武器を投げ捨てて、その場にへたり込む。



 酔眼たち海賊と白頭の一味は、ロレッタの糸で捕縛されて、私たちの足もとに転がる。

「前とは、立場が逆転したねえ」

 私は屈み込んで、嫌味たらしく白頭に声をかける。奴は憤怒の形相で私に唾する──が、私はそれを、ひょい、とかわして。

「私たちが遠くに離れたら、その糸は消える」

 立ちあがって、酔眼と白頭を見下ろしながら告げる。

「その頃には、私たちは島から離れてるだろうから、竜に挑んで私たちのおこぼれの財宝を狙うもよし、島からの脱出のために船をつくるもよし──好きにするといいよ」

 言い捨てて──奴らを放置して、私は白竜に向き直る。どうやら白竜は、私たちが自らに味方したことを理解しているようで、喜びを示すように甲高く鳴いて、私の手を、べろん、と舐める。竜の舐めた手のひらには──古ぼけた指輪が残っている。

「これ、くれるの?」

 指輪をつまんで、白竜に問いかけると、竜は肯定するように鳴く。指輪には、奇妙な紋様──フィーリに似た紋様が描かれていて、おそらく古代のもの、もしくはより古いものであろう、と見当をつける。

「ありがと」

 礼を述べて、甘えるように頭をすりつける白竜をなでる。


「おお! それこそは、かつてエルディナ様の欲した宝──風神の指輪ですよ!」

 フィーリは、めずらしく興奮した様子で、早口でまくしたてる。

「風神だなんて、大げさな名前の指輪だねえ」

 言って、私は戯れに指輪を指で弾いて──落ちてくるのをつかみとろうと、宙を舞う指輪の軌道を目で追う。

「神具です」

「うん?」

 フィーリの言葉に、思わず指輪から視線を外して。

「原初の神の生み出したもう旧き神──風神の力を宿した神具です」

 旅具の言葉に絶句して──私は落ちてくる指輪を取り落として、慌てて拾いあげる。


「西風の遺した金銀財宝など、その指輪にくらべれば、それこそ竜との思い出の品にすぎません。その風神の指輪こそが、西風の唯一の──そして真の宝であり、海賊西風が『西風』と呼ばれる所以の品でもあります」

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