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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第12話 宝島

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9

 西風の海賊船は、古の船であるというのに、朽ちることなく健在であった。

「古代の船は、魔法で強化されておりますから、数百年程度で朽ちたりはしませんよ」

 船を見あげる私の視線に疑問の色を認めたものか、胸もとでフィーリが説明する。


「こんなところに西風の船があるということは──」

「──財宝は船の中にある!」

 黒鉄とロレッタは、顔を見あわせて、どちらからともなく歓喜の抱擁を交わして──やがて、互いに我に返ったものか、照れくさそうに離れて、わざとらしい咳払いをする。


 ロレッタの糸をよりあわせて縄として、船の甲板につないで、皆でよじのぼる。甲板に降り立って、財宝があるなら船長室であろうと当たりをつけて、船尾に向かう。


「海賊船には見えないね」

 ロレッタが船の装飾を眺めながら、ぽつりともらす。


 確かに、彼女の感想ももっともであろう、と頷く。海賊船というからには、おどろおどろしい髑髏なんかで飾られているのであろうと思っていたのだが──実際、酔眼の船はそうであった──西風の船は、帆柱をはじめ、いたるところに美しい女性の浮き彫りが細工されており、海賊船どころか、古い物語にある神船のように思えるほど、荘厳であった。


「浮き彫り細工は、風神──風の女神を模したものですね」

 胸もとでフィーリがつぶやく。

「西風なんて呼ばれるだけあって、信心深かったのかねえ」

 風神の浮き彫り細工を眺めながら甲板を進んで──ついに、私たちは船長室の前にたどりつく。

「じゃあ、開けるよ」

 黒鉄とロレッタに告げると、二人は、ごくり、と喉を鳴らして──扉を開いた私たちを出迎えたのは、まさに財宝の山だった。


「おうおう! こいつが西風の財宝か!」

 黒鉄は歓喜の声をあげながら、手近なところに積んであったきらびやかな宝冠を手に取って、兜の上から頭に載せる。

「ねえねえ! 似合う?」

 ロレッタはといえば、いつのまに手に取ったものやら、長い耳に翠玉の耳飾りを着けている。彼女がそれを見せびらかすように、くるり、とまわると、その赤い髪とともに耳飾りも躍って──翠玉の澄んだ緑が映えて、何とも美しい。


「わ! こんなものまであるよ!」

 と、私も二人に続いて──黄金の糸で刺繍された豪奢な外套をはおり、宝石で飾られた曲刀を腰に差して──あとは三角帽さえあれば、気分は海賊である。どこかに三角帽はないものか、と周囲を見渡して、部屋の奥、椅子の背もたれからのぞく帽子の輪郭に気づいて、いそいそと駆け寄る。


「──西風」


 椅子に座っていたのは──海賊姿の骸骨だった。骸骨──西風は、その椅子に座ったまま息絶えたのであろうか。私たちを見すえる髑髏は、どこか笑っているようにも見える。よくきたな、と我々を出迎えているものか、それとも、宝に手を出せば呪い殺してやろうぞ、と威嚇しているものか、どちらともとれる髑髏の微笑は、今にもかたかたと音をたてて動き出しそうなほど──そんなはずはないのであるが──生気に満ちている。


「フィーリ、私たち、呪われたりする……?」

「西風は蛮人です。魔法は使えません」

 フィーリの言葉に、安堵の胸をなでおろして──あらためて西風の(むくろ)を眺める。西風は椅子に深く腰かけて、眠るように背にもたれている。豪奢な椅子は、まるで柩のように西風を優しく包み込んでおり──私は、この船長室こそが、西風の眠る玄室であるのだと気づく。そして、この船は、西風の墓標なのであろう。


「ねえ、それ、手紙──かな?」

 耳飾りに次いで、紅玉の腕輪を身に着けたロレッタが、テーブルの上の紙片を認めて、声をあげる。見れば、彼女の言うとおり、紙片には──古代語であろうか──手書きの文章が記されており、手紙のように思える。紙片は古く、触れると崩れてしまいそうで──私は、紙を手に取るのではなく、胸もとの旅具の方を紙の上に掲げる。

「フィーリ、読める?」

「お任せください」

 答えて、フィーリは手紙を読みあげ始める。


「我が財宝のもとにたどりつきし盗賊よ、喜ぶがよい。財宝はお前らにくれてやろう」

 冒頭の言葉に、黒鉄とロレッタは歓喜の声をあげる──なるほど、これでは確かに、盗賊のそしりはまぬがれまい。

「ただし、我が船は渡さぬ。もしも船に手を出さば、我が子の災いあると知れ」

「西風って、子どもがいたの?」

 続く言葉に、私は疑問の声をあげる。

「いえ、独り身のはずですが」

 フィーリの答えに、私は疑問を深める。西風に子どもがいないというのであれば、災いをもたらす「我が子」とは、いったい何ものなのであろうか。


「手紙は終わりか?」

「いえ、もう少し、続きがありますね」

 尋ねる黒鉄に、フィーリは続きを読み始める。

「追伸──」

 と、そこで旅具は口ごもって──先の文章に、よほどよろしくない記述でもあるのであろうか、読みづらそうに続きを語る。

「──もしも、この手紙を読んでいるのがエルディナであれば──貴様には財宝はやらん。それでも持っていくというのであれば、盗人であると心得よ」

「もめてるねえ」

 いったいどれほどの諍いを起こせば、死後まで悪態をつかれるというのか。あきれるを通り越して感心する。


 さて──西風の許可は得た。私は旅神エルディナではないから、盗人でもない。

 財宝は、言わば西風の墓の副葬品である。フィーリに詰め込んで、すべてを持ち出してしまうのも気が引けるから、と我々は財宝の選別を始める。


「これだけの宝を前にすると迷うのう」

 言いながらも、黒鉄は頭上の宝冠を気に入っているようで、外そうとはしない。

「まあ、お金には困ってないんだし、気に入ったものを選べばいいんじゃないの」

「じゃあ、この耳飾りは、あたしのね!」

 言って、ロレッタは耳飾りを見せびらかすように、再び、くるり、とまわって。


 そうやって、ひとしきり騒いだところで──船外から轟音と叫び声が響いて、私たちは墓荒らしの──もとい、選別の手を止める。

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