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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第12話 宝島

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7

「──で、どうやって島まで渡るの?」


 陽ざしを遮るように手庇をして、島を眺めながら、ロレッタが問いかける。そんなもの、櫂船の小舟は白頭に奪われてしまったのであるから、答えは一つであろう。


「え、泳ぐんじゃないの?」

「ええ、濡れるの嫌だよう」

 泳ぐつもりだった私に、ロレッタは渋い顔を見せる。

「──ぬしら、何かを忘れておるようじゃな」

 と、黒鉄が不敵に笑って──はたと思い出す。そうだ、こいつ、泳げないんだった。

「フィーリ」

 何とかならないか、と旅具に頼ると。

「では、海を歩いていきましょうか」

 フィーリは平然と無茶なことを言う。



『羽のごとくあれ!』


 ロレッタが力ある言葉を唱えると、私たちの身体は、文字どおり、羽のごとく軽くなる。フィーリによると、この魔法の影響下にあれば、海に沈むことなく、水面を歩くことができるというのだが。


「お、おい、誰か先に試してみてはくれんか?」

「長髭、怖気づいてんの?」

 そもそも泳ぐことのできない黒鉄は、魔法の効果を素直に信頼することができないようで、船端(ふなばた)から脅えるように海面を見下ろしている。一方で、黒鉄をからかうロレッタにしても、どうやら魔法の効果については半信半疑のようで──自分の魔法だろうに──いつまでたっても自らで試してみる気配はない。


「よ!」

 それならば、と二人に先んじて、船端から飛びおりる。宙を舞う身体は、普段よりも軽く、風に乗って飛んでいけるのではないかと思わせるほどで──私は足先から、ふわり、と海面に降り立って、水面には静かに波紋のみが広がる。海面から甲板に向けて手を振ると、二人とも安心したようで、今度は、我先に、と船端から飛びおりる。


 海面を歩いて、島の砂浜にたどりつく──と、砂浜から続く森に向けて、白頭たちのものであろう足跡が残っているのがわかる。


「急いで追いかけないと!」

「まあ、待て」

 と、黒鉄は、はやるロレッタを引き留めて、足もとの砂を何度も踏みしめる。

「陸じゃ──」

 そして、感極まったようにつぶやいて。

「陸じゃぞ!」

 叫んで、砂浜を駆け始める。時折、振り向いては、砂浜に残る自らの足跡を確かめて、間違いなく陸地である、と喜びを噛みしめているようで──よほど船旅がつらかったのであろうな、と不憫に思う。

「いつまでやってんの。急がないと」

「まあまあ」

 と、今度は私がロレッタを引き留める。

「急いで追いかけるんじゃなくて──白頭を先に進ませて、やつらが財宝までたどりついたところで、横取りするというのはどうだろう?」

「マリオン、それ海賊の発想だからね」

「しかし──わるくない考えじゃの」

 私たちは、互いに顔を見あわせて、わるい顔で笑う。



「この丘、自然のものではないのう」

 砂浜から森を抜けて、小高い丘にたどりついたところで、黒鉄がつぶやく。確かに、彼の言うとおり、丘は自然のものにしては形が整っていて──丘というよりも、巨大な墳墓のようにも思える。

 丘──墳墓の周囲をぐるりとまわって、入江とは逆の側に、入口と思しき横穴をみつける。横穴には、白頭たちのものであろう足跡が続いており、この奥にこそ西風の財宝が眠っているのであろう、と確信する。

 暗がりをのぞきながら、胸もとの旅具を、とんとん、と叩く──と、フィーリの魔法の灯りで、周囲が明るく照らし出される。しかし、横穴から伸びる通路は長く、奥までを見通すことはできない。


「ロレッタ、糸、お願い」

「あいよ」

 答えて、ロレッタは横穴に向けて、両手を突き出して、不可視の糸を紡ぐ。彼女は目を閉じて、楽器でも演奏するかのように、指を躍らせる。

「お、誰かいる。これは──白頭の一味かな」

 やがて、動くものを感知したようで、独り言のようにつぶやく。

「奴らの進む先に、広い空間があるみたい──地底湖、かな」

 言って、ロレッタは振り向いて、どうする、と私に問う。

「じゃあ、とりあえず、その地底湖を目指してみようか」



 ロレッタの案内に従って、通路を奥に進む。途中、何度も分岐に出くわすが、正解を知っているであろう白頭の後をつけているので、迷うこともない。迷路のように入り組んだ通路を抜けると、やがていくらか開けた通路に出る。見れば、通路の敷石は、今までのものとは異なり、誰かの意図を感じるように、規則的に並んでおり──その通路のところどころに、見覚えのある船員──白頭の一味が、数人、矢に射抜かれて、倒れ伏している。

「死んでる……?」

 つぶやいて、ロレッタは船員に近寄ろうとして──その足もとで、不自然な音が鳴る。

「危ない!」

 疾風のごとくロレッタの前に飛び出て、彼女の眼前に迫る矢をつかみとる。駆け寄るのが少しでも遅れていたならば、矢はロレッタの眉間を貫き──今頃、彼女も通路に転がる船員たちと同じ運命をたどっていたことであろう。

「大丈夫?」

「あ、ありがと」

 礼を述べながらも、ロレッタはその場にへたり込む。

「ここからは、私が先頭を歩く。黒鉄は殿、ロレッタは真ん中で案内して」

 言って、へたり込んだロレッタを後ろにやって、死体の転がる通路を見やる。

「床を踏んだら、矢が飛んでくる仕組み、かな」

「そんなもん、どうやって進むんじゃ?」

 私の推測に、黒鉄が疑問の声をあげる。

「おそらく、踏んでも矢の飛んでこない特定の床があって、それらを飛び渡って進むのでしょう」

 と、胸もとでフィーリが答える。

「じゃあ、正解の床がわかればいいわけだ」

 フィーリの言を信じて、私は屈み込んで、床の表面を観察する。白頭たちの足跡の残る床を特定するのは、それほど難しいことではないはずである。


「おい、奥を見ろ!」

 不意に黒鉄が声をあげて、私は床から視線をあげる──と、通路の奥、我々の行く手を阻むように、天井から石壁が落ちてくる。石壁に通路をふさがれてしまっては、先に進むのは難しい──いや、先に進めないとまでは思わないものの、石壁の排除に時間をとられてしまうのは確かであろう──となると、悠長に床の観察を続けている余裕はない。

「私が先に行って、何とかする!」

 言って、後方に下がって──疾風のごとく助走をつけて、飛ぶ。もしかしたら矢が飛んでくるかもしれない、と宙でも警戒を怠らなかったのであるが、フィーリの推測は正しかったのであろう、床に触れることさえなければ仕掛けは働かないようで──私は、仕掛け床を飛び越えて、通路の奥に着地する。その勢いのまま、転がるように石壁の下にすべり込んで──腰から竜鱗の短剣を抜いて、石壁と床の間に差し込む。

「──さすがは古竜の鱗」

 竜鱗の短剣は、落ちてくる石壁を受け止めて、微動だにしない。黒鉄が、折れることはない、と豪語しただけのことはある。



 結局、私が通路を飛び越えた応用で、ロレッタの糸をよりあわせて縄として、その縄を宙に張って──黒鉄とロレッタは縄をつたって、通路の奥に降り立つ。ちなみに、落ちたら死ぬ、とロレッタが騒いで、想像以上の時間を要したことを申し添えておく。


 私とロレッタは、竜鱗の短剣で確保した隙間を、するり、と通り抜けて、通路の向こう側に出る。

「ちょっと、待てい」

 黒鉄はといえば、隙間に腹が引っかかっているようで、通り抜けるのに難儀している。

「長髭、あんた太ったんじゃないの?」

「失礼なことを抜かすな。これは筋肉じゃ」

 黒鉄は言い張るが、最近の飲み食いっぷりを鑑みるに、あやしいものである。私とロレッタは、二人がかりで黒鉄を引っ張って──黒鉄も必死に腹を引っ込めて、何とか隙間をくぐり抜ける。


 全員が隙間をくぐり抜けると、どういう仕組みであろうか、石壁は天井に戻り始めて──私は床に転がった竜鱗の短剣を拾いあげる。

「ありがと」

 竜鱗の短剣と、その短剣をつくりあげた黒鉄に礼を述べて──私は短剣を腰に戻す。

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