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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第12話 宝島

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6

「嬢ちゃん、すまねえとは思ってるんだぜ」


 櫂船を島の沖合に停泊させて──白頭は船員に上陸のための小舟を用意させながら、心にもないであろうことを言う。

「殺さないだけ、ありがたいと思ってくんな」

 こちらは本音であろう。白頭は、縄できつく縛りあげた私たちを甲板に放ったまま、力自慢の船員たちから、さらに腕に覚えのあるという精鋭を選りすぐって、小舟に乗り込むようにうながす。


「お前らは船に残ってろ。船に何かあっちゃあ、困るからな」

 選ばれなかった船員たちに向けて、白頭は告げる。

「何、心配すんな。持ち帰った財宝は山分けだ」

 安心させるように、白頭は続ける──が、居残りの船員たちの一番の関心事は、意外にも財宝の分け前についてではなかった。

「白頭の旦那! この女、やっちまってもいいんですかい?」

 彼らはロレッタの身体に卑猥な視線を這わせながら、我慢しきれない様子で尋ねる。

「おうとも。ただし、順番にやれよ。見張りがいなくなって、もしも船に何かあったら、俺たちが帰れなくなっちまうからな」

 白頭の言に、船員たちは、おお、と色めきたつ。

「勝手なことを言う」

 あたしはお前らのもんじゃないぞ、とロレッタは小さく悪態をつく。



 白頭たちが小舟に乗り込み、島に向かって漕ぎ出すと、残された見張りの船員たちは、我先に、とロレッタのそばに群がる。

「俺が最初だ!」

「いや、俺だ! 俺はずっとこの女に目をつけてたんだぞ!」

「お前は見張りをやれ! 俺からに決まってんだろ!」

 口々に言い争う男たちをよそに──ロレッタは小さく唱える。

『魔糸よ』

 力ある言葉とともに、彼女の紡ぐ糸が、私たちを縛る縄にからみつく。

『斬』

 続く言葉で、糸は縄を断ち切る──が、順番争いを続ける男たちは、その様子に気づくこともない。

「なあ──順番なんて、どうでもいいんじゃねえか。こんな島で船に何かあるわけねえし、見張りがいなくたって、白頭の旦那にはわかりっこねえんだ。全員でやっちまおうぜ!」

「お前、頭いいな!」

「おお! 古の賢者の再来かと思ったぜ!」

 船員たちは口々に囃したてて──憂いはなくなったとばかりに、ロレッタに舐めるような視線を這わせる。


「いやいや、そうでもないわい──愚かものぞろいじゃ」


 黒鉄の声に、船員たちが慌てて振り向いたときには──もう遅かった。黒鉄は、捕まる際にフィーリに預けておいた古代の斧を手にして、横薙ぎに一閃──それだけで彼らは胴を両断されて、見事にわかたれた死体が甲板に転がる。


「おいおい、俺の船を汚してくれるなよ」

 糸で断ち切られた縄を振り払って、ようやく立ちあがった船長は、甲板に飛び散った血飛沫に、ぶつくさと不平をもらす。

「命があるだけ感謝せい」

 黒鉄は船長の抗議を一言のもとに切り捨てる。

「もとはと言えば、あんたらのせいだろうに……」

「それは、まあ──反省している」

 と、私は船長に詫びて、危険な目にあわせてしまった分の報酬の上乗せとして、金貨をそっと握らせる。

「これで勘弁してくれないだろうか」

「気にするな、存分に暴れてくれ!」

 言って、船長は金貨を握りしめた拳を掲げて──陸にあがったら豪遊だ、と船員たちを鼓舞する。


「さて──どうする?」

 黒鉄は島を眺めながら、私に問う。

「せっかく島まで案内してもらったんだもん。財宝とやらを拝みにいかないとね」

「そうこなくっちゃ!」

 言って、ロレッタはよくわからない旋律にのせて、おたから、おたから、と口ずさみ始める。


「船長はどうする?」

「俺は船に残る」

 尋ねる私に、船長は短く答える。金に汚い──失礼──船長であれば、同行するから財宝の分け前を寄こせ、くらいのことは言うであろうと思っていたのだが──思わぬ答えに拍子抜けする。

「航海術には自信があるが、腕っぷしに自信があるわけでもねえ。陸では役に立たねえよ。それに、あんたらが財宝を手に入れて戻ったとき、船がないんじゃ、困るだろ」

 と、船長は朗らかに笑って──島に向かう私たちのことまで考えてくれていたとは、見損なって申し訳ない、と心の中で詫びる。

「その代わり、分け前ははずんでくれよな!」

 前言撤回。やはり、清々しいくらいに金に汚い。私の詫びを返してほしい。


 おたから、おたから、とロレッタの声にあわせて口ずさみ始めた船長の耳を引っ張って、現実に引き戻す。

「もしかしたら、酔眼が追ってくるかもしれない。そのときは、船を捨ててもいいから、ちゃんと逃げてね」

「心配すんな。この島の周辺なら、俺の船の方が、小回りが利く。海賊船なんかに、遅れはとらんよ」

 言って、耳を引っ張られたままで、船長は不敵に笑う──とはいえ、それでも船乗りとしての顔だけは頼もしく見えるのだから、不思議なものである。

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