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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第12話 宝島

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5

「全員捕らえたか?」

「へい!」

 カニス──いや、白頭の問いに、船員が答える。

 白頭は、今やその正体をあらわにして、反乱を起こし、瞬く間に櫂船を占拠してしまったのである。彼に従う船員たちは、西風の財宝につられたものか──それとも、もともと彼の手のものであったのだろうか。マルレでは臨時の船員も多く雇い入れたので、その可能性も十分にある。

 私たち一行、そして船長とその部下たちは、反乱を起こした船員たちに捕らえられ、縄で縛られて、白頭の足もとに転がされる。


「くそ! 俺の船で好き勝手やりやがって!」

 隣に転がった船長が、白頭には聞こえぬように──聞こえたら何をされるかわからないからであろう──ささやくように悪態をつく。

「人望がないねえ」

「人望がないわけじゃねえ」

 やはり小声で、船長は私に反論する。

「反乱を起こしたのは、あんたらの客のカニスと、マルレで雇い入れた漕ぎ手じゃねえか」

 確かに、船長の言うとおり、おそらく反乱の首謀者はカニス──白頭であり、それに加担した船員のほとんどはマルレで雇い入れた漕ぎ手であるように見える──が、しかし。

「いやいや、船長の部下も裏切ってるみたいだけど」

 見れば、以前から船長に従っていたはずの船員も、ちらほらと白頭の傍らに控えている。

「……金に汚い、ごく少数の連中だけだ」

 船長は元部下たちから目をそらしながら、苦い顔でつぶやく。

「金に汚いのは船長でしょ。海賊船の航行に、船員を十数人も割いたりするから、櫂船の方が手薄になって、反乱を起こされちゃったんじゃない」

「うるせえ! 反省はしてるんだよ!」

 言い捨てて、船長はごろりと転がって、そっぽを向いて──そして、再びごろりと転がって戻ってくる。

「なあ、嬢ちゃん、あんたあんなに強いんだ。何とかできねえのか?」

「できるよ。できるんだけど──」

 西風の財宝を手に入れるためには、もう少しの間、白頭を泳がせておきたい。

「──船長たちの身に危険が及びそうなときは、必ず助けるから、もう少しなりゆきに任せてみてもいいかな」

 私の提案に、船長は渋い顔で、ふん、と鼻を鳴らす。

「まったく、とんでもないやつに船を貸しちまったぜ。ちゃんと責任とってくれよ」

 溜息をついて──船長は三度転がって、私から顔をそむける。


「ようし! みんな、聞けい!」

 自らに従う船員たちを前に、白頭は声を張りあげる。

「俺たちは海賊西風の財宝の眠る島を目指す!」

「おお!」

 反乱を起こした船員たちは、やはり財宝につられたのであろう、拳を突きあげて、白頭に応える。

「俺には財宝の在処を示した地図がある!」

 と、白頭は、隠しから地図を取り出して、高々と掲げる。

「俺に従うものには、必ず財宝をわけてやろう。どうだ、今からでも遅くはないぞ、俺についてこないか」

 白頭は、縛られて転がされたものたちを、甘く誘う──と、瞬く間に、船長の部下のうち、さらに数人が白頭の側になびいてしまう。やはり人望がないのではないか、と私は疑いを深める。


「白頭の旦那! 海賊船はどうしやす?」

 と、白頭の傍らの船員が、奴に問いかける。

「酔眼の船は放っておけ。やつらには海で野垂れ死んでもらう」

 白頭の決定に、賞金が無駄になるとでも思ったのであろう、船員たちは不満げに、もったいねえ、とこぼす。

「なあに、やつの首にかかった賞金なんて、西風の財宝にくらべたら、屁みたいなもんだ。気にするこたあない。俺たちは、もっとすげえお宝を手に入れるんだ! 違うか!」

「──おお!」

 どうやら、白頭は人心の掌握に長けている。つい先ほどまで不満をこぼしていたというのに、今や船員たちは、まだ見ぬ財宝に狂喜して、白頭をたたえるようにその名を連呼する。これでは、船長の部下たちがたぶらかされてしまうのも、無理はあるまい。


「あのさ」

 と、隣に転がったロレッタが、私の耳もとでささやく。

「海賊船から、ある程度離れたら、糸の捕縛の効力は切れちゃうんだけど」

「──黙っておこう」

 酔眼たち海賊が捕縛から解き放たれたならば、必ず西風の財宝を追ってくるであろう。現状、財宝をめぐる争いでは、白頭が一歩先んじているのであろうから、彼らの障害となるものは、少しでも多い方がよい。


「おい、お前ら、しっかり漕げ! 地図に記された島は目の前なんだぞ!」

「ようそろ!」

 白頭の指揮のもと、櫂船は宝島を目指して進む。甲板に転がった船長によると、このあたりはほとんど風の吹かない海域であるようで──船は漕ぎ手を総動員して西進する。


「島は目の前って──こんなところに島はねえはずだぞ」

 白頭の言葉によると、どうやら件の宝島は、それほど遠くはないようであるのだが、船長には思いあたる節がないようで、疑問の声をあげる。

「ふん、三流の船乗りでは知らんだろうな」

 その声は白頭にも届いていたようで、奴は嘲笑うように船長を見下す。

「その島には、風でも、海流でもたどりつくことはできない。だからこその櫂船よ」

 三流の割に船は上等で助かったぜ、と嫌味たらしく礼を述べて──白頭は船長に興味を失ったようで、操舵手に向けて、あれこれと指示を出し始める。


「おい、どうした! 船足が落ちてるぞ!」

 白頭が怒声をあげて漕ぎ手を鼓舞する──が、やがて櫂船の行き足が止まる。

「櫂が波にとられて、漕げねえんだよ!」

 船倉から顔を出した船長の元部下が、白頭に向けて、大声を張りあげる。

「波の穏やかなはずの内海で、これほどの荒波にもまれるとは。風も吹かず、海流までもが行く手を阻むってんだから──こりゃあ、財宝を隠すには、うってつけの島だぜ」

 白頭と元部下の言い争いを心地よさそうに聞きながら、船長は感心するようにつぶやく。


「全力で漕げ! 手を抜いてんじゃねえだろうな!」

「漕げねえんだよ! こんな荒波、手漕ぎで越えられるわけがねえだろうが!」

 売り言葉に買い言葉、船長の元部下は、白頭に従うことを選んだはずであるというのに、奴に向かって怒声を発する。


「船長、どうすれば──」

 裏切ったはずの元部下は、途方に暮れて、ついにはかつての主にさえ頼る。

「おいおい、今さら俺を頼るのかい?」

 裏切っておきながら都合のいいやつらだ、と悪態をつきながら、それでも頼られてどこかうれしそうなのだから、憎めない男である。

「櫂の数を減らせ。そして、漕ぎ手は数人で一本の櫂を持て。そうすりゃ波にも負けねえだろ」

 船長の助言に、元部下は、なるほど、と声をあげる。

「ようそろ!」

 気合いを入れて、元部下は船倉に戻る。船長の助言のとおりに漕ぎ手に指示を出したものか、今度は行き足が止まることもなく、わずかずつではあるが、確実に船は進み始める。


「やるじゃん!」

 見事な助言で航行を安定させた船長に、思わず感嘆の声をあげる。

「こいつはな、俺の船なんだよ」

 言って、船長は誇らしげに笑う。


 金に汚いだけの男ではなかったのだなあ、と見直して──船長の彫りの深い顔が、いくらか凛々しく目に映る──とはいえ、甲板に転がったままの、情けない姿ではあったが。

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