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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第9話 盗賊

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6

 黒鉄とロレッタは、見張りがいないのをよいことに、堂々と砦門に近づく。

 黒鉄が無造作に押すと、門扉は抵抗なく開く。鍵はかかっていなかったのであろうか、と疑問に思って──ロレッタの糸で開錠したのであろう、と思い至る。何たる万能の糸であろうか。

 門扉が開かれると、すわ何事か、と門番が飛び出してきて、何やら叫びながら黒鉄に詰め寄る──が、黒鉄の返答は、古代の斧の一振りであった。門番は胴を両断されて、砦門に転がる。


 黒鉄とロレッタ──二人は、門をくぐるなり駆け出して、脇目も振らず、最短距離で、女たちのとらえられている地下の食糧庫を目指す。おそらく、すでに砦にはロレッタの糸が張りめぐらされているのであろう、先導する彼女に迷う気配は微塵もない。

 櫓を飛び出して、屋根を駆けて、黒鉄とロレッタの後を追う。二人は、道中、盗賊と出会うこともなく地下に下りて──遅れることしばし、私も地下に下りると、ちょうど黒鉄が斧を振りまわして、見張りの盗賊を吹き飛ばしたところで──賊は壁に頭を叩きつけられて、脳漿を散らして絶命する。


「助けにきたよ」

 突然の出来事に唖然とする女たちに、安心させるように呼びかける。

「あんた──」

 私を肥大漢から助けようと奮闘してくれた女──彼女は私の顔を見るや否や、安否を気づかうように駆け寄って、強く抱きしめる。

「無事──なのかい?」

「おかげさまで」

 よかった、と涙ながらにつぶやく女を、私は感謝を込めて抱き返す。


「さ、逃げよう」

 うながして、女たちを階上に連れ出す。

「みんな、静かに。盗賊にみつからないように、静かに」

 そう言ってはみるものの、女たちに潜行の心得があるわけでもなく──彼女らは、口こそ開かないものの、すすり泣きながら、足音をたてて歩く。さらには、その歩みも遅く──盗賊に気づかれるのは時間の問題であろう、と思う。

「ロレッタ、居館の上階の倉庫に向かって」

 そうとなれば、時間との勝負である。

「マリーがいるから、扉を開けてもらって。倉庫に避難している女性たちを連れて、居館の入口で落ち合おう」

「了解!」

 糸の感知によって、そちらに盗賊がいないことを知っているからであろう、ロレッタは軽く請け合って──私たちは彼女を送り出す。


 居館の入口あたりで待っていると、ロレッタが女たちを引き連れて現れる。

「黒鉄さん!」

「マリー! 無事か!」

 マリーは、黒鉄の姿を認めるや否や、先導するロレッタを追い抜いて、彼の首もとに飛びつく。

「ほら、急いで! 逃げるよ!」

 言って、急かすように、無事を喜ぶ二人の背を押して──断じて、保護者を盗られて嫉妬しているなどということはない。


「てめえら、何してやがる!」

「女が逃げたぞ!」

 と、盗賊の怒号が飛ぶ。

「みつかったの!?」

「どうするの!?」

 女たちは騒ぐが、みつかる覚悟くらいしている──というより、数十人からの女たちを、ぞろぞろと引き連れているのだから、気づかない方がどうかしている。

「ロレッタ!」

 砦門につながる通路の途中で足を止めて、ロレッタに先に行くよううながす。

「二人で大丈夫?」

「二人なら大丈夫」

 ね、と黒鉄に振ると、彼は不敵に笑って、大きく頷く。

「じゃあ、任せたからね!」

 言って、ロレッタは女たちを連れて、荒事から逃げるように先を急ぐ。


「久々に二人じゃのう」

 黒鉄はうれしそうに──敵からすると獰猛に笑って。

「儂が前じゃぞ」

 いつものように言って、私の前に出る。

「ここは通れんぞ」

 と、長大な古代の斧を水平に持って通路をふさぎ、追手に相対する。

「たった二人で何ができる」

 言って、先頭に立った巨漢は、盗賊団の頭目であろうか。まわりから一目おかれている様子で、それなりの手練れのようにも思えるが──前に出てくるとは、こちらを侮りすぎであろう。瞬時に矢を放ち、その眉間を射抜いて──頭目は言葉を発することさえできずに、その場に倒れ伏す。

「おい、マリオン」

 儂の獲物じゃぞ、と黒鉄は不服そうに振り向く。

「後ろは私だから」

 弓での援護は私の役割である。約束を違えたわけではない。


「お頭!」

「おい、てめえら!」

「逃がすな! 殺せ! 殺しちまえ!」

 頭目を失った盗賊は、同時にその統制も失う。盗賊は、我先に、と襲いきて──はて、頭目の仇を討ったものが次の頭目になるというような習わしでもあるのであろうか──狭い通路に、ただ群がるだけでは、数の利などあったものではない。

「やれるもんなら、やってみい!」

 吼えて、黒鉄は威嚇するように斧を振るって──盗賊がたじろいだところで、私たちは、くるりと踵を返す。


「黒鉄、大丈夫?」

 足の遅い黒鉄の、さらに後ろ──殿をつとめながら、近づいた盗賊めがけて矢を放つ。

「もう砦門は目の前じゃろ。この調子ならば追いつかれることもあるまいて」

 私が矢を放つたび、数人の盗賊が倒れて──次は自らの番ではあるまいか、と追手は怯んで足を緩める。確かに、この調子であれば、黒鉄の足でも何とかなりそうである。


 通路を駆け抜けて、砦門までたどりつく。門扉で待ち構えていたロレッタは、私たちの姿を認めると、挨拶でもするように、ひらひら、と右手を躍らせて──その手を叩いて、私と黒鉄は門の外に出る。

「待ちやがれ!」

 砦門に殺到する盗賊に向けて。


『爆炎よ!』


 ロレッタは爆炎を放つ。炎の奔流は盗賊どもを呑み込んで、次いで奴らの根城をも焼き尽くさんと砦中を駆けめぐり──ついには逆流して、我々に迫る──と、黒鉄はロレッタの首根っこをつかんで、そのまま後ろに放り投げ、魔鋼の盾を構えて、砦門をふさぐように立つ。炎の奔流は、黒鉄の盾に堰き止められて、ようやく勢いを失う。


「長髭! 何すんのよ!」

 猫のように放り投げられたロレッタは、起きあがるなり、黒鉄に詰め寄る。

「助けてやったんじゃぞ。礼くらい言わんかい」

 長耳は礼儀を知らん、と黒鉄は、ぷいとそっぽを向く。


 女たちをよそに、二人はくだらない言い争いを始めて──かくして、隠し砦の盗賊は、壊滅の憂き目にあう。

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