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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第9話 盗賊

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49/311

1

 北方より、王都を経て、西に向かう。


 王都には、数日ほどとどまり──その間、黒鉄とロレッタは、王都の名だたる酒場をめぐり、昼夜を問わず飲み続けたらしい──方々への顔見せを済ませる。名残を惜しむ二人を急きたてるように王都を出立して、街道を南に──交易都市チェスローから、さらに西進したところで、物語は始まる。


「おう、そうじゃ」

 黒鉄は、よいことを思いついた、という顔で、声をあげる。

「近くに、よい酒場があるんじゃが、ぬしら、興味はあるか?」

「街道の真ん中で、何を言ってんの?」

 呆けたか、とロレッタは──道中の疲れもあいまってか、黒鉄に無駄に食ってかかる。

「近くに村があっての。その村の酒場の料理が絶品なんじゃ」

「お、それなら興味ある」

 ロレッタは瞬く間に前言を撤回する。長髭の舌は確かだからね、と彼女は、まだ見ぬ料理を想像して──それだけで舌鼓を打つ。

「マリオンは、どうじゃ?」

 問われて、私は空腹に鳴る腹の音で返す。そんなもの──興味がないわけないではないか。



「黒鉄さん!」

 少女は──私よりも少しくらい年上だろうか──黒鉄の姿を認めるや否や、その首もとに飛びつく。

「おお! マリー!」

 少女を軽く抱きとめて、大きくなったのう、と黒鉄は微笑みを返す。

「おうおう、長髭のやつ、隅に置けないねえ」

 からかうように言って、ロレッタは口笛を吹いて。

「保護者を盗られたみたいで、嫉妬する?」

 さらには、私にもいたずらっぽく問うて──さて、どうであろう、と曖昧に濁す。


 街道から外れた森の程近く、アジェテの村に、その名もなき酒場はあった。

 酒場は、その主人の素朴で、しかし繊細な料理と、近頃とみにあでやかになったと評判の看板娘──マリーとを売りにしており、近隣では知らぬもののおらぬほどに繁盛しているらしい。

 農作業を終える頃ともなると、酒場はわずかな空席を残して、客であふれる。見れば、どうやら村のもの以外の客もいるようで──もはや村の酒場という枠には収まらないほどに賑わっており、黒鉄がよい酒場と断言するのも頷ける。


 噂に違わぬ料理に舌鼓を打ち、ほろ酔い気分のところ、事は起こった。

「マリーに触れるな!」

 店内に声が響いて、客の視線がそちらに集まる。見れば、農作業から戻ったばかりと思しき少年が、マリーをかばうようにして、酔っ払いの客──酔漢に相対して、啖呵を切っている。

「うるせえんだよ。ちょっと触っただけじゃねえかよ」

 言って、酔漢は少年を突き飛ばして──少年は軽々と飛んで、空席の椅子を薙ぎ倒す。

「ゴルダ!」

 マリーは少年──ゴルダに慌てて駆け寄る。


「どうしたの?」

 隣の客に問うと、どうやら酔漢がマリーの尻をなでたようで──いたいけな少女の尻をなでるとは──ゴルダが止めに入った、ということらしい。気概のある少年ではないか。

「マリーに謝れ!」

 起きあがったゴルダは、マリーの制止を振り切って、酔漢につかみかかる。

「てめえ!」

 舐められた、とでも思ったのであろう、酔漢は激昂して、ゴルダに殴りかからんと拳を振りあげて──割って入った黒鉄に、たやすく拳をつかまれる。

「お引き取り願おうかの」

 言って、黒鉄は酔漢の拳を握りしめる。黒鉄の怪力で握られては、たまったものではなかろう。酔漢は情けない叫び声をあげて──そのまま店からつまみ出される。

「こんな店、二度とこねえよ!」

 捨て台詞を吐いて、酔漢は一目散に逃げ出す。

「二度とくるなよう」

 酔漢の背中に向けて、あらんかぎりの悪態を投げつけるロレッタは、きっと思ったよりも酔っている。


「もう、ゴルダったら、無茶するんだから」

 突き飛ばされた際に傷ついたのであろう、ゴルダの額に滲む血を、マリーが優しくぬぐう。

「俺は、マリーを守るためなら、命だって惜しくはないから」

「儂ら以外にも、たいそうな酔っ払いがおるもんだのう」

 ゴルダは、真顔で大仰な台詞を言ってのけて──それを酔いからくるものと受け取ったようで、黒鉄は、幼い割に酒豪じゃのう、と感心の声をあげる。

「ゴルダは下戸です……」

 マリーは溜息まじりにつぶやく。

「こやつ、素面であのようなことを言っておるのか」

 黒鉄は、ふん、と顔をそむけるゴルダに、あきれるように苦笑する。

「ゴルダは、幼馴染なんです」

 マリーの言葉に、ふと故郷のロビンのことを思い出す。そういえば、王都まで、という約束を違えて旅を続けることを伝えていなかったな、と思い至り──ま、いいか、と片づける。

「昔から、ああなんです。私をからかって、楽しんでるんですよ」

 マリーは、すねるように言って、ゴルダの傷を、えい、と指で弾く。


「そうかなあ」

 意外に本気だと思うけど、とロレッタは、じゃれあう二人を肴に酒杯を傾ける。

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