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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第8話 廃坑

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2

「おお! マリオン! ようやく追いついたか!」

 私の顔を認めて、懐かしささえ感じるがなり声をあげながら、黒鉄が立ちあがる。


 自由都市イベルトスに着いて、道行く人に、もっとも活気のある酒場はどこか、と尋ねただけであるというのに──黒鉄はすぐにみつかった。

 酒場──「放埓(ほうらつ)旅人(りょじん)亭」は、その名のとおりの無法地帯だった。まったく、その客層のひどさといったら。黒鉄の席にたどりつくまでの間に、男たちは例外なくロレッタに向けて口笛を吹き、卑猥な誘いを持ちかけ、しまいには身体に触れようと手を伸ばして──ロレッタの尻に触れようとした男たちは、彼女の糸にとらえられて、苦悶しながら床に転がる。


「黒鉄、久しぶり!」

「おう、変わりないようじゃな」

 言って、黒鉄は髭面の奥に満面の笑みを浮かべる。私との再会を心から喜んでいることが伝わって、うれしいやら、恥ずかしいやら。

「ほら、ロレッタも、こっちにおいでよ」

 黒鉄の笑顔に正面から向きあうのが気恥ずかしくて、照れ隠しのように後ろのロレッタに声をかける。

「なんじゃ、この長耳は、ぬしの連れか?」

「ねえ、この長髭が、マリオンの相棒なの?」

 二人は互いに顔を見あわせて──次いで、同時に尋ねる。

「長耳はロレッタ。フィーリの弟子の魔法使い。長髭は黒鉄。腐れ縁の──保護者みたいなものかな」

 それぞれの出会いからを説明するのも面倒で、簡潔に済ませる。


 黒鉄は、値踏みするようにロレッタを見すえて──やがて、口を開く。

「ロレッタ、おぬし──」

 と、黒鉄は酒杯を飲みほす仕草を見せて。

「──いける口か?」

「もちろん!」

 言って、ロレッタも酒杯を飲みほす仕草を返す。

「おい! エールを二つ持ってきてくれい!」

「適当に料理も持ってきて!」

 給仕をつかまえて、二人してまくしたてる。こいつら、初対面とは思えぬほどに、息ぴったりである。

「私、エールは飲まないよ」

 黒鉄に言いながら、向かいの椅子の腰をおろす。

「知っとる。一つは儂が飲む」

 言って、黒鉄は手もとのエールを一息に飲みほして空にする。


「乾杯!」

 声をそろえて、酒杯を打ちつける。私は花の酒を舐めるように飲み、二人はエールをあおるように飲みほして。

「おかわり!」

 声をそろえて、給仕に向けて酒杯を掲げる。


「それにしても、少し会わぬうちに巡察使とはのう」

 出世したではないか、と黒鉄は笑う。

「もうその話はいいよ」

 王都でのあれこれを話し終えて、次は黒鉄のことを聞きたいというのに、彼はからかうように「巡察使殿」と繰り返し呼びかけて──酔っ払いの戯言に、いくらか辟易する。

「黒鉄は、何でイベルトスの鉱山を目指してたの?」

 私の話はいいから、と遮って、黒鉄に問いかける。

「ふむ──竜の話は知っておるか?」

 質問に返ってきたのは、さらなる質問だった。

「戦争と竜の話?」

 ロレッタから聞いたばかりの話を思い起こして答える。

「知っておるなら、話は早いの」


 空となった酒杯や皿を片づけさせて、黒鉄は自らの盾をテーブルに載せる。

「盾の素材を、儂らドワーフは『魔鋼(まこう)』と呼んでおる」

 盾──魔鋼の盾は、酒場の灯りを受けて、鈍く光る。私は知っている。盾は、オーガの一撃をも受け止め、悪魔の炎さえ防いでみせたことを。

「魔鋼の原料となる魔鉱石(まこうせき)は、その産出する場所、条件ともに、長いこと不明とされておってな。それを解き明かしたのが──と、儂は信じておる──儂の祖先というわけじゃ」

 黒鉄は誇らしげに語って──次いで、テーブルに身を乗り出して、私たちにも顔を寄せるようにうながす。

「──魔鉱石は、竜の住処から産出される」

 黒鉄は、声をひそめて、ささやくように告げる。

「正直なところ、その理由はよくはわかっておらん──が、既存の魔鉱石の来歴を鑑みるに、竜の住処から産出されるというのは、誤りではないようでな。儂の祖先は、竜とともに長い時を過ごした鉄が、その性質を変じて魔鉱となるのであろう、と考えたようじゃ」

 乗り出していた身を戻して、黒鉄は椅子に腰をおろす。

「儂は、魔鉱石を得て、魔鋼となし、それを故郷の一族に持ち帰る──そのために旅を続けておるというわけじゃ」

 言い終えて、黒鉄は手もとの酒杯を飲みほす。


「なるほど。それで、イベルトスの竜の住処を探してるってこと」

 ふうん、と頷いて、ロレッタは酒杯を傾ける。

「イベルトス近郊の山々のどこかに住処があるんじゃろうと思うて、それらしい洞窟を探して方々をうろついてみたんじゃが、どこもかしこも廃坑だらけでな。念のため、と廃坑も探索しておるんじゃが、住処の手がかりすらみつからんわい」

 そもそも廃坑の数が多すぎる、と黒鉄はぼやく。

「ロレッタの魔法なら、何とかなるんじゃない?」

「まったく手がかりなしでは、ちょっと厳しいかな。範囲をしぼってもらえれば、力になれるとは思うけど」

 話を振ってみるものの、失せもの探しのロレッタは、自信なさげに返す。

「しかし、当てがあるわけでもないからのう」

 途方に暮れる黒鉄に──。

「──あ!」

 ロレッタは何かを思いついたようで、不意に声をあげる。

「もしかしたら、力になれるかも!」

 言って、テーブルに身を乗り出して。

「昔、親父に聞いたことあるんだよ。過去の出来事を知りたいのなら、まず本にあたる。本が無理なら、次に──」

 と、もったいぶるように間をおいて。


「──歌にあたる、って」

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