表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第7話 暗殺

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/311

6

 青天のもとで見る白銀は、陽光に照らされて、水面のようにきらめく。

 見渡すかぎりの純白の雪には、人の足跡はおろか、獣の足跡さえなく──今から私だけがこの純白を汚すのだと思うと、えも言われぬ高揚さえ感じる。叫び声をあげながら、突貫したいところではあるが──まずは別れを惜しむべきであろう。


「もう行ってしまわれるなんて、名残惜しいです」

 ウルスラは、うっすらと涙を浮かべながら、別れを惜しむ。大げさな。

「きっと、また会えるよ」

 返す言葉は嘘ではない。ウルスラが幼王に嫁ぐのであれば、巡察使という仕事柄、また顔をあわせることもあるであろう。


 ウルスラの命を狙う邪な企みは潰えた。と思う。

 百貌は、その骨格を自在に操り、誰にでもなりすましてしまうという、おそろしい暗殺術の使い手であった。しかし、それはあくまでも外形のみの擬態であり、表皮の特長など、細部に至るまでを完全に再現できていたわけではない。故に、その細部の差異によって、黒髪の侍女になりすましていたことを執事に気づかれてしまい、口封じのために殺すに至ったのであろう──というのがフィーリの推測であり、その説明により、皆の一応の理解は得られたように思う。


「新手が送られてくることはないと思うけど、気をつけるんだよ」

 教団とやらも、百貌ほどの手練れがしくじるとは思っていないはずであり、奴の倒れたことが露見するまでの間は、ウルスラに新手の暗殺者が放たれることもないであろう。

「王都に戻ったら、騎士団長に事の顛末を話して。私の名前を出して──『宝冠』の件と言えば、伝わるはずだから」

 言って、ウルスラの頭をなでる。団長が頼りなかったら宰相に相談するといいよ、と助言するのも忘れない。

「王城に滞在していれば、またお姉さまにお会いできますか?」

「たまにはね」

 それほど頻繁に戻るわけではないとしても、巡察使としての働きを王に報告するのは義務である。その折には、ウルスラにも顔を見せることを約束する──固く約束させられる。

「王様、とってもいい子だから、友だちになってくれるとうれしいな」

「──はい!」

 言って、ウルスラは年相応に、はにかんだように笑う。

 幼王とウルスラ。並ぶ姿を思い描いてみると、意外と絵になるように思う。案外よい夫婦となって、リムステッラを平和に治めてくれるのではないか、と楽観して、明るい未来に期待する。


「オルティも、元気で」

「マリオン殿こそ」

 拳を打ちあわせて、どちらからともなく破顔する。

「蹴ったところ、大丈夫だった?」

「頑丈だけが取り柄でして」

 問題ないと返すオルティに、もう一度拳を打ちあわせる。

「私も!」

 言って、ウルスラが割って入る。彼女はオルティに嫉妬するような視線を向けながら──主の悋気に彼は苦笑を返す──私に拳を突き出す。

「ウルスラも、元気で」

 彼女の拳に口づけするように──口づけの経験はないのだが──私の拳を優しく打ちあわせて。

「お姉さまも、賢者様も、お元気で!」

 言って、ウルスラは私の胸もとの首飾り──旅具にも拳をあてる。

「賢者!」

 あふれる知性は押し隠せないものなのですね、と戯言を抜かす旅具は放っておいて。


「じゃあね」

 言って、私は純白の雪に一歩を踏み出す。まるで春のように爛漫と咲くウルスラの笑顔に見送られて、足取りは軽い。


 途中で振り返って、私を見送り続けるウルスラに向けて、大きく手を振る。応えるように、手を振り返す彼女──あの笑顔を守り抜いたのは自分なのだ、と誇りに思って──そして、もう振り返らない。此度のことで、王太后の負う重荷を、少しでも減らすことができていたならいいな、と願いながら──私は颯爽と北に向かう。

「暗殺」完/次話「廃坑」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

以下の外部ランキングに参加しています。
リンクをクリックしてもらえるとやる気が出ます。


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ