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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
異聞 終話 少年は荒野をめざす

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306/311

3

「いったいどうやってここに──」

 黒鉄とロレッタさんは、僕が彼らの居場所を突きとめたことに、心底から驚いているようで、二人そろって呆けた声をあげる。異世界人の鼻を明かすなんて、なかなかできることではない。


「状況を読み切って、この場にたどりつくなんて、やるなあ」

 一方で、マリオンは、僕がこの場にたどりついたことに、素直に感心しているようで──僕は、いくらか誇らしくなって、胸を張る。


「僕だけの力じゃないよ。友だちが助けてくれたんだ」

 僕は、そう謙遜しながら、振り向いて──自らの出番は終わったとばかりに後ろ歩きで立ち去ろうとしているトールに手を振って──次いで、この場にはいない緒方にも、心の中で感謝する。

「それも含めて、タケルの力だよ──やっぱり、()()()()()、あると思う」

 マリオンは、いつぞやのように、独特の褒め方をする。


「居場所をつきとめられたんじゃあ、仕方がない。タケルはどうしたいの?」

 言って、マリオンは上目で僕に問う。

「役に立たないかもしれないけど──ここから先も、ついていきたい」

「──ついてくるからには、覚悟を決めてよ」

 マリオンは、いつぞやと同じ言葉を、しかしいつぞやよりも真顔で告げて──僕は、ごくり、と喉を鳴らしながら頷いてみせる。



 僕らはトールに別れを告げて、東警察署に入る。エントランスには、紅林が待ち構えていて──その姿を見て、マリオンたちの方から彼にコンタクトを取って、ここで会う約束をしていたのであろう、と悟る。


「その少年も連れてくるのか?」

 紅林は、稀人ならぬ僕を見て、顔をしかめるのであるが。

「今さらでしょ」

 と、マリオンは鷹揚に返す。


 確かに──僕は、マリオンたちが稀人であることも、その稀人を担当する公安警察が存在することも、すでに知ってしまっているのである。


 紅林は、わざとらしく肩をすくめてみせて──先導するように歩き出して、階段で二階にあがり、通路の突きあたりの部屋に僕らを通す。そこは、会議室と思しき小さな部屋で──僕らが全員入った後で、紅林はドアを施錠する。


 会議室には、向かいあうように机が並んでいる。

「さて、何から話そうか」

 言いながら、紅林は入口側の席に座り──皆にも座るよううながす。


「初めて会ったとき──私に、同行してほしいって、言ったよね」

 マリオンは椅子に座るなり、紅林に、それはなぜか、と問いかける。

「──()()()

 紅林は、スーツの内ポケットから煙草を取り出して、火をつけながら答える。

「あの場での出来事を調べるうちに、君たちなら、あるいは──と思ったものでね」


 肝試しのときの出来事──わざわざそう言うからには、マリオンが幽霊もどきを倒したことも、謎の老爺を撃退したことも、すでに調べあげているのであろう、と思う。


 紅林は煙草を一吸いして──それだけで、灰皿に押しつけて、火を消して──おもむろに机に両手をついて、頭を下げる。


「こちらから襲っておいて、虫のいい話だということはわかっている。でも、私たちを──()()()()()()()()()

 紅林の口から、まさか日本の危機なんて言葉が飛び出すとは思ってもおらず、僕は唖然とする。

「マリオンのことを、銃で撃ったくせに──」

 僕は思わず紅林をなじるのであるが。

「あれはね──致命傷にならないようなところを狙って撃ってたんだよ。私の実力を見きわめるために」

 そうでしょ、と続けるマリオンに、紅林は顔をあげて頷く。

「意図を汲んでくれて助かる──」


「助けが必要なのは──こちらの世界で何て呼んでるかはわからないけど──()()について、でしょ?」

 マリオンは、紅林側の事情について、おおよそ見当がついているようで、確認するように口にする。


「こちらの世界でも悪魔と呼称している」

 紅林は、話が早くて助かる、と続きを語り出す。


 紅林の語るところによると──近年、悪魔の出現と、その被害は、増加傾向にあるのだという。出現した悪魔は、害のある稀人として、公安外事四課を中心とした部隊により、駆除されるというのであるが──。


「──ただ、()()()()()となると話は違ってくる」

「何で上位の悪魔が相手だってわかるの?」

 マリオンの質問は、よいところを突いていたのであろう、紅林は顔をしかめて──新たな煙草に火をつけながら、続きを語る。


「──政府に協力している稀人の中に、()()()()()がいる」

 紅林は、できれば言いたくはなかったとでもいうように、渋々口にする。

「信頼に足る能力者ではあるが、口が軽いのが玉に瑕でな──ノストラダムスの大予言なんてものが流行ったのも、そいつの予知の内容が外部にもれたことによるところが大きい」


「──ノストラダムスの大予言って?」

 マリオンに問われて、僕は件の予言について、かいつまんで説明する。


 ノストラダムスの大予言──それは、フランスの占星術師であったノストラダムスの予言集のうち、ある一節を指す。曰く、一九九九年、七か月、空から恐怖の大王が来るだろう、アンゴルモアの大王をよみがえらせるために。

 世紀末──人々はこぞって、この大予言を解釈し、様々な説が飛び交った。中でも、もっとも有力であったのが──科学的な根拠はさておき──天体の衝突という説である。

 しかし、一九九九年七月──結局、空からは何も降ってくることはなかった。今や、誰からも忘れ去られようとしている大予言──その流行に、まさか稀人の存在がからんでいようとは。


「その能力者──エンティアは、天体の衝突と、上位の悪魔の出現を予知している」

 紅林は、僕の説明に補足するように、そう続ける。


 なるほど、天体が衝突して、上位の悪魔がよみがえるとなれば──確かに、ノストラダムスの大予言を想起させる予知である。


「エンティアの予知のよいところは、正しく対処すれば、予知を回避することができるというところにある」

 紅林は、だからこそ君たちを仲間に引き入れたい、と真摯に続ける。


「──こちらの戦力は?」

 これまで黙っていた黒鉄が問う。


「対稀人用の特殊な部隊──と言っても、この部隊では通常の悪魔を相手にするのがやっとだろう。あとは、協力的な稀人──政府お抱えの魔術師が数人程度。一騎当千ではあるが、上位の悪魔を相手に、どこまでやれるか──」

 紅林は、戦力不足を嘆くように、煙草の煙を吐き出す。


「──私たちも似たようなものだとは思わないの?」

 マリオンのその疑問も、もっともである。すでに協力的な稀人がいるのであれば、たとえマリオンたちが加わったとしても、劇的な戦力増強とはならないのではないかと考えそうなものである。


「君たちは、遊園地で、上位の悪魔と思しき存在を、一時的とはいえ撃退している──とはいえ、正直なところ、藁にもすがる思いだ」

 紅林はそう返して──フィルターぎりぎりまで吸った煙草を、灰皿に押しつける。


 紅林は、話すべきことはすべて話したというように、黙してマリオンたちの返事を待つ。マリオンは、黒鉄とロレッタさんと顔を見あわせて──二人が頷くのを見て、おもむろに口を開く。


「私たちも、この世界で()()()()()()があるの」

 マリオンは立ちあがって、身を乗り出して、紅林に手を伸ばす。


「交渉成立ね!」

 言って、マリオンと紅林は、握手を交わす。

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― 新着の感想 ―
戦力と言うと…アイツどこ行った まあもうちょい読み進めますか
公安の目的がマリオンたちに助力を願うことだったんなら、なぜ銃なんて出して撃ったりしたんだろう
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