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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
異聞 第4話 勇気の半分は

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302/311

5

「どちらでもかまわんよ」

 鷹揚に言って、紅林は銃を構える。


「マリオンに何をする!」

 僕の足は──驚いたことに──即座に動いた。マリオンの前に飛び出て、銃口からかばうように彼女を抱きしめる。


「おやおや、まだ呪縛が解けていないとは──君もなかなかに罪な女だね」

 言いながら、紅林は引き金を引いたのであろう、背後で連続して、小さく袋の破れるような音がする。()()()()()()──そう思ったときには、僕は逆にマリオンに抱きしめられており、そのまま宙を舞って、中庭の隅に転がる。


「私を──信じてくれるの?」

 マリオンは、胸に抱いた僕に問う。

「ごめん──マリオンは、もう何度も僕を助けてくれてるのに」

 僕は、マリオンをわずかでも疑ってしまったことを詫びる。彼女が稀人であったとして──だからどうしたというのだ。


「私を信じてくれるなら──私の背中にまわって」

 マリオンの言に頷いて、僕は彼女の背後にまわる。男としては情けないかぎりであるが、足手まといであることに間違いはない。


 紅林は、再びこちらに銃口を向けて、嘲るように笑う。

「足手まといを守りながら、どこまで凌げる?」

「──守る?」

 マリオンは、ふん、と鼻を鳴らす。

()()()()()()。私はね」

 次の瞬間──瞬き一つで、彼女の手には鈍色の塊──銃が現れている。


 同時に銃声が鳴る。


 僕は思わず目を閉じるのであるが──しばしの後に開いてみても、銃弾が身を貫いているようなこともなければ、中庭のどこかに着弾したような形跡もない。


 紅林が、こちらに銃口を向けたまま、驚愕に目を見開いているところを見るに、きっとマリオンが何かしでかしたのであろう、と思う。


「──銃口の向いた先に弾が飛ぶ」

 マリオンは、種明かしでもするように、銃を構えたまま語り出す。

「だったら──弾同士をぶつけるのも、そんなに難しいことじゃない」


 その言に、僕は愕然とする。つまるところ、マリオンは、中空で銃弾同士をぶつけたと言っているのである。


「──化物め」

()()()()

 紅林は脅えるように言って、今度は三発の銃弾を放つ。マリオンも、ほぼ同時に引き金を引いている。今度こそ、僕は見た──いや、実際のところ、ほとんど見えなかったのであるが、銃弾と思しきものが三つ、中空で弾けたのがわかる。マリオンは先の言のとおり、銃弾と銃弾とをぶつけてふせいでいるのであると確信して──そのあまりの規格外に、僕は、ぶるり、と震える。


「さて──楽しかったけど、そろそろお暇させてもらうよ」

 言って、マリオンは銃を腰に差して、僕のところまで下がる。見れば、紅林は弾切れのようで──中庭のテラス席に飛び込んで、倒したテーブルを遮蔽物にして、おそらく弾倉を交換している。

「ちょっと、ごめんね」

 言って、マリオンは、ひょい、と僕を抱く。トールにでも見られたなら、一生笑いのネタにされてしまいそうな、見事なまでの()()()()()()である。


 その間に、紅林は弾倉の交換を終えたのであろう、テラス席からわずかに顔をのぞかせて、再びこちらに銃口を向ける。

「人一人抱えて──」

 どうしようというのか──紅林は、きっとそう言いたかったに違いない──が、最後まで言い終えることはできなかった。マリオンは紅林の声よりも速く、疾風のごとく駆けて──僕を抱いたまま、三つに分身して、紅林の銃口を幻惑したかと思うと、そのまま壁を蹴って、建物の屋根を飛び越える。屋根を下に眺めながら、いくら軽いとはいえ、僕を抱えたままでこんな動きができるなんて、マリオンはすごい力持ちなんだなあ、と今さらながらに妙なことに感心してしまう。


 外の駐車場に着地すると同時に──着地の衝撃は、マリオンのおかげか、ゼロである──紅林のものであろう声が響く。


「至急! 応援を頼む!」

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