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黒鉄をのぞいて──僕らはプライベートビーチを堪能する。
ロレッタさんは、海水にまみれた服を脱いで──今や髪色と同じ赤いビキニ姿になっている。これほどの美人で、かつ露出のある水着姿とくれば、普通のビーチでは目立って仕方がなかろう。人気のないビーチを求めるのも、無理からぬことである──とはいえ、同行した僕としては、単なる役得である。後でトールに話したら、さぞかしうらやましがられるであろうなあ、と思う。
僕らは、誰に気兼ねすることもなく、海を泳ぐ。途中、僕とマリオンは、素潜りのようなことを始めて、どちらが長く潜っていられるか、我慢くらべの競争をするのであるが──結局、マリオンには勝てずに終わる。一度など、マリオンがあまりにも長いこと潜っているので、我慢のあまり溺れてしまったのではないか、と慌てて様子を見に潜ったところ──彼女は笑顔で魚と戯れていたのであるからして、その肺活量たるや、海生哺乳類並なのではないかと思えるほどである。
一方で、ロレッタさんは、一通り海を楽しんだものと見えて、僕らよりも一足先に砂浜に戻り、何やら荷物から取り出している。
「今度は──これでもどう?」
彼女が手にするのは──ビーチボールである。
麗しい女性──しかも二人とビーチバレーとは、これまたトールに話したらうらやましがられそうな案件であるが──それにしたって、正直なところ、マリオンに勝てる気はしない。
「ロレッタが、ずるしないなら」
しかし──意外や、マリオンはロレッタさんをこそ警戒しているようで、条件つけるように告げる。なるほど──彼女の超能力であれば、マリオン相手でも互角に戦えるということなのであろう。
「ええ!? じゃあ、タケル少年はちょうだいよ!」
そうして、僕はロレッタさんチームに所属することになり──。
「よし! じゃあ──かかってきなさい!」
仁義なきビーチバレーが始まる。
僕とロレッタさんは、右に左に、マリオンを揺さぶるべく攻撃するのであるが──彼女は、どれほどの距離であっても、たやすく追いついて、レシーブ──どころか、ビーチボールが破裂するのではないかと思えるほどの、殺人的なスパイクで返してくるのである。
「あれ──地震?」
ロレッタさんは、またも自陣を打ち抜いたビーチボールを、溜息とともに拾いあげながら──砂浜の揺れに気づいたようで、声をあげる。僕も遅れて揺れに気づいて──まさかマリオンのスパイクは、地震すら引き起こしてしまうのであろうか、と驚愕しかけるのであるが。
「いや──私の勘違いでなければ、あの島が揺れた」
マリオンは、ロレッタさんに反論するように、沖にある島を指す。
「だから、地震なんじゃ──」
「いや、あの島だけが揺れたんだよ」
そう返す僕の言葉を遮って、マリオンは不可思議なことを言う。
地震であれば、島以外も広範囲に揺れたはずである。マリオンの言うとおり、島のみが揺れて、その振動が近場のプライベートビーチにのみ届いたのだとすれば、確かにそれは地震ではあるまいが──それでは、島が揺れるほどの出来事とは、いったい何だというのか。
「タケル、あの島は何?」
「何って──たぶん、無人島だと思うよ」
マリオンの問いに、僕は事前にトールから仕入れていた知識でもって答える。
「トールは、泳ぎに自信があるなら、遠泳して上陸しても楽しいって言ってたけど」
マリオンとロレッタさんは、顔を見あわせて──何やらこそこそと話し始める。
「マリオン──人目は、ある?」
ロレッタさんは、あたりを見まわしながら問いかける。プライベートビーチには、僕ら以外、誰もいないというのに。
「沖に出たら、東の漁港から丸見えじゃないかなあ」
マリオンは、手庇をして、ぐるりとあたりを見まわして──目を細めながら答える。
「じゃあ、いつもみたいに歩いていくわけにはいかないか」
ロレッタさんは思案顔で腕を組む。その言葉の意味するところは判然としないのであるが──いつものように歩くという行為は、見られてはまずいことなのであろう、と思う。
「このボートを拝借するっていうのは、どう?」
と──マリオンは、黒鉄がいびきをかいて寝ているボートを、顎で指す。
「黒鉄が目を覚ましたら怒るだろうけど──異議なし」
ロレッタさんが賛同するに至り──僕は思わず声をあげる。
「このボートで沖に出るってこと!?」
黒鉄が、今も高らかにいびきをかいて寝ているボートは、どう見ても廃品である。
「こんなところに打ち捨てられてるってことは、どこか壊れてるんじゃないかと思うんだけど──」
僕の勘違いでなければ、船体にひびさえ入っているように見えるのであるが。
「タケル少年──」
ロレッタさんは、これ見よがしに人差し指を揺らして、ちっちっちっと舌を鳴らす。
「あたしたちは、タケル少年の言うところの、超能力者の集団なんだぜ!」




