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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
異聞 第3話 海に出るつもりじゃなかった

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1

「やっほう!」

 車の窓を開けて、吹き込む風に髪をたなびかせながら、助手席のマリオンは歓声をあげる。


「己で走る方が速いのではないのか?」

 後部座席──僕の隣で、黒鉄が冗談とも本気ともつかないことを問うて。

「船なんかと一緒かなあ。気持ちいいものは気持ちいいの!」

 マリオンはその問いに、破顔で返す。


 僕らは、ロレッタさんの運転で、海を目指している。あまり目立たずに楽しめる海岸はないだろうかというロレッタさんの注文に対して、そういうことに詳しいであろうトールに尋ねてみたところ、気前よくその存在を教えてくれて──僕らは通称「()()()()()()()()()」を目指しているというわけである。


「それにしても、飛ばしすぎではないのか?」

 黒鉄は、ロレッタさんの運転を、それほど信用してはいないのであろう、危なっかしいものでも見るように、運転席に視線を送る。


「この道──島と本土とをつないでる()()みたいなところで、まっすぐ伸びてるからさあ、みんな飛ばしてるんだよねえ」

 ロレッタさんは、案に自分のせいではないと返して──黒鉄への嫌がらせであろう、アクセルをさらに踏み込む。


「ま、気持ちいいもんね」

 マリオンは、冒頭と同じく、風に目を細めながら、ロレッタさんの運転を肯定するのであるが──聞くところによると、ロレッタさんは免許を取り立てであるという。車窓を飛ぶように流れる木々を見るに、おそらく制限速度など、とうに超えているのであろうからして、黒鉄でなくとも、おそろしくなろうというもの。


「あ、その先の、ちょっと開けたところで停めてください」

 僕は早めに声をあげて、ロレッタさんに減速をうながす。

「そこが目的地?」

「いや、プライベートビーチに行く前に、ここで()()()()()をしていくべしって──」

 僕の答えに、ロレッタさんは了解と返して──車は緩やかに減速して、僕の指定した空地に停まる。


 空地には、掘っ立て小屋のような屋台があって、今も客が何やら注文している。見れば、先客の車が何台か停まっているから、少し待たされることになるであろう。待たされる価値はある、とはトールの言である。


「じゃあ、私、買ってくる」

「あ、僕も一緒に行くよ」

 助手席のドアを開けるマリオンに続いて、僕も後部座席のドアを開けて。

「いってらっしゃあい」

 ロレッタさんの気の抜けるような声に見送られて──僕らは車を降りる。


 車から出ると、真夏の陽光が肌を刺す。僕は思わず手庇で陽射しを遮るのであるが──マリオンは、気にするそぶりも見せずに、一直線に屋台に駆けていく。

「タケル! どれにすればいいの?」

 マリオンは振り向いて問うて──僕は、慌てて彼女に追いついて、この先の島で発見された遺物から名を取ったという、名物のホットドッグを四つ注文する。


「あ、五つで」

 マリオンは、すぐに注文を訂正して。

「どうせ黒鉄がもう一つ食べるよ」

 そう続けて──僕は、さもありなん、と頷く。


 僕らはホットドッグを買って、車に戻る。僕らの車は、何とかという名の外車である。小さいけれども、色は黄色で、どこに停めていても、目立つこと、この上ない。


「遅かったのう!」

 待ちわびたぞ、と黒鉄は自分からドアを開けて、僕らを出迎える。

「お待たせ!」

 言って、マリオンは皆に熱々のホットドッグを配る。もちろん、黒鉄には忘れずに二つ。


「いただきまあす!」

 と、ホットドッグに一番にかぶりついたのは──意外なことにロレッタさんである。僕らも遅れじと包装を破り、がぶりとかぶりつく。


 ホットドッグは、オーブンで焼いてあるようで、表面はパリッと香ばしく、中はふわっとやわらかい。具は、てっきりソーセージか何かであろうと思っていたのであるが──意外や、サイコロステーキと──これは何であろう。


「イカのフリッターが入ってる。面白い組み合わせだねえ」

 首を傾げる僕に、ロレッタさんが答えをくれる。


 サイコロステーキとイカのフリッター、それぞれの触感が楽しく──食べ進めると、ソースの染みたキャベツがジューシーで──なるほど、これはここでしか食べられない名物であるなあ、と教えてくれたトールに感謝する。


「結局──マリオンたちは、霊能力者の仲間──みたいなものなの?」

 僕は、ホットドッグを食べながら、それとなく尋ねる。


 不良に囲まれたときの、マリオンの目にも留まらぬ早業については、百歩譲って目の錯覚と言い聞かせるとしても──肝試しのときの、数々の不可思議な力については、さすがに見間違いでは済まされず──あれからずっと気になっていたのである。


「まあ、霊能力者っていうよりは、()()()()の方がしっくりくると思うけど──しいて言うなら、そんなもんかなあ」

 マリオンは、ホットドッグにかぶりつきながら、何でもないことのように返す。

「儂は皆のように小器用なことはできん。力自慢なだけじゃぞ」

 と、すでにホットドッグを二つ、ぺろりとたいらげている黒鉄が、一緒にしてくれるな、とぼやく。

「一番の規格外が、よく言うよ」

 ロレッタさん曰く、特別な力があるわけでもないのに、黒鉄の剛力と耐久は並外れており──ある意味では、もっとも不可思議な存在であるという。


 マリオンたちは、食事を続けながら、それぞれの力について、あれこれ談議しているのであるが──僕は一人、超能力が、そして超常現象が、実際に存在するという事実に、世界がひっくり返るような衝撃を受けている。


「坊主──食べんのなら、食べるぞ」

 黒鉄の言に、はっと我に返って──僕は慌ててホットドッグをたいらげる。



 僕らは軽食を終えて、再びプライベートビーチを目指す。

「それで──島の方に進めばいいのかな?」

 ロレッタさんはハンドルを握って、僕に問いかける。

「いや、少し戻るみたいです。ここで食事をして、ぐるりとまわれってことみたいで」

「了解!」

 ロレッタさんは勢いよく答えて──車は空地でぐるりとまわって、今度は本土向かって、走り始める。

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