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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
異聞 第1話 スーパーソニックガール

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6

「タケルは、このあたりで帰ろっか」

 言って、マリオンはいつぞやのように僕の手を取る。


 見れば、僕以外の皆が、マリオンの言葉に頷いていて──こんな状況で、僕だけが逃げ帰ってよいものであろうか、と思わなくもないのであるが──確かに、足手まといではあろう、と思い直す。


「安心して! 後はあたしに任せて!」

 マリオンに手を引かれて倉庫の出口に向かう僕に、ロレッタさんは、どん、と胸を叩いてみせる。

「ぬしは何もせんじゃろうに」

 ロレッタさんの大口に、黒鉄が、ふん、と鼻を鳴らす。それは、きっと長いことこうしてやりあってきたのであろうなあ、と思わせるやりとりで、僕は思わず吹き出してしまう。



 僕は、マリオンに連れられて倉庫を出て、そこから程近い国道を南下する。ひとまず駅に向かおうという算段であろう、と思う。


 と──後ろから不良どもの叫び声が聞こえたような気がして、びくりと振り返る。

「──大丈夫」

 マリオンは、僕の恐怖心をやわらげるように、強く手を握って。

「奴らがタケルに危害を加えることは、もう二度とないから」

 そして、僕をみつめて、不敵に笑う。


「マリオン──たちは、いったい何ものなの?」

 僕は、もっと早くに聞くべきであった問いを、ようやく発する。

「私たちは──()()()()()()()()()()()()()


 マリオンの語るところによると、彼女たちは、僕の知らないほどに遠い国から、故あって日本を訪れたのだという。連れに旅慣れたものがいて、その人に日本語を習い、日本の案内も頼るはずだったというのであるが。


「ところが──その友だちとはぐれちゃって」

 マリオンは、本当に困ったというように、眉根を寄せる。

「今はその友だちを探してるところなんだ」

「僕も探すの手伝うよ!」

 僕は、考えるよりも先に、そう口にしている。


 マリオンは、突然そんな申し出をされるとは思ってもみなかったようで、ぽかんと口を開けて──やがて、やわらかく笑って。

「ありがと」

 と、短く口にする。


「どんな人なの?」

 尋ねる僕に、マリオンは少し困り顔で、天を仰ぐ。

「そうだなあ、タケルの身のまわりで、もしも不思議なことが起きたら──そのときは私を呼んでよ」

「その友だち──そんなに変な人なの?」

 不思議なことが起こるというからには、その友だちとやらはよほど──例えばトールのように──突拍子もないやつなのであろう、と思っての発言だったのであるが。

「──そう!」

 マリオンは、まさにそのとおり、と言わんばかりに、語気を強める。

「そう! 本当にそのとおりなの!」

 まったくあいつときたら、とマリオンは愚痴り始めるのであるが、そこには隠しきれない親愛の情が滲んでいて──僕は、まだ見ぬその友だちに、ほんの少し嫉妬してしまう。


 やがて、景色は見慣れた街並みに変わり──僕らは駅前に戻る。

「このあたりまでくれば、もう大丈夫かな」

 マリオンは周囲を見渡して、不良がいないことを確認してから、僕の手を離す。手のひらに残っていたぬくもりが消えて──大げさだと笑われるかもしれないが、これが今生の別れになるのではないかという気さえしてしまって、僕の手は宙をさまよう。


 そんな僕の心を見透かしたものか。

「じゃ、()()()!」

 言って、マリオンは小さく手を振る。

「うん──また!」

 その別れの言葉に、またマリオンに会える──少なくとも彼女にはその気があると期待して──単純な僕は、ぶんぶん、と手を振って、彼女の後ろ姿が小さくなるまで見送る。



 それから後のことは、詳しくは知らない。これは、後日トールに聞いた話である。


 一夜にして、街から一つのヤクザが消えたという。独立系の小さなその組は、突然警察に解散届を出したのである。当初、半信半疑であった警察も、彼らが事務所から逃げるように去っていくのを目にするに至り、解散は本当であると信じたようであるが──いったい何が彼らにそうさせたのかは、結局わからずじまいだったという。


 残された事務所には──今は別の誰かが住んでいる。

「スーパーソニックガール」完/次話「夜歩く」

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― 新着の感想 ―
続編…スピンオフ…後日談でいいのかな? 新作ありがとうございます。 トールが出て来た辺りで「オードリー」と混同仕掛けました笑 そ◯子と混ざってマリオンの頭髪イメージがピンクになったり、非常に楽しみな…
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