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「マリオン!」
黒鉄の声が飛んで、私は振り向く。
そこには、よほど急いだのであろう、肩で息をする黒鉄とロレッタの姿があって──私は手を振って、その呼び声に応える。
私は──スヴェルの村の墓地にいる。墓地には、かつて背信の騎士リディルの裏切りによって殺されたものたちの墓がある。それらの墓は、どれもグラムの手によるもので──そのうちの一つ、トリスティアの墓には、枯れた花が供えられている。
「それは──」
黒鉄は、墓地に突き立った、折れた大剣を認めて、声をあげる。
「前に話したことあったよね。グラムの──墓標だよ」
私は大剣の腹を愛おしくなでながら、そう答える。
私は、滅びたグラムの灰をかき集めて、トリスティアの墓の隣に埋めて──そこに折れた大剣を突き立てて、グラムの墓となしたのである。
「──死んだのか」
黒鉄は、間に合わなかったことを悔いるように、つぶやいて。
「私が──殺した」
私の答えに、二人は息をのむ。
「グラムは高祖に噛まれて吸血鬼になってしまって──殺してくれと頼まれたから、私が殺した」
私は淡々と告げる──と、ロレッタが駆け寄ってきて、私を強く抱きしめる。
「ちょっと──ロレッタ、痛いよ」
突然のロレッタの抱擁は、彼女にしては強い力で──私は思わずそうこぼす。
「痛かったら泣いていい──泣いていいんだよ」
ロレッタは、私をぎゅっと抱きしめながら、しぼり出すようにつぶやく。
「ロレッタが泣いてどうするの」
私は、ロレッタの頬をつたう涙を感じて、あきれるように返すのであるが──きっと、彼女のその涙が、私の心の殻にも滴ったのであろう、抑え込んでいた感情が、波のようにあふれ出す。
「──!」
私は、声にならない叫びをあげて──ロレッタの胸に顔を埋めて、嗚咽する。瞳からは、大粒の涙がぼろぼろとこぼれて、ロレッタのお気に入りの革鎧を濡らす。
グラム──初対面では、まったくもって鼻持ちならない男だと思っていたはずなのに、目に浮かぶのは彼の屈託のない笑顔ばかり。
グラム──彼を殺すことこそが彼自身の望みであったと頭では理解しているというのに──本当にそうするしかなかったのであろうか、と悔恨の情が私の胸を締めつける。
グラムの前で、私は精一杯、よい狩人であろうとした。彼に認められることがうれしかったから、懸命にそうあろうとした。彼を失うまで、気づくことさえなかったその気持ちは、もしかしたら──私の淡い恋心だったのかもしれない。
「夜行」完/次話「魔都」
ドラキュラⅡ「Bloody Tears」を聴きながら。




