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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第36話 帰還

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3

 私は、先代への挨拶もそこそこに、団長に引っ立てられるようにして、王城に連れられる。その間、黒鉄とロレッタは、私の旅の仲間として先代にもてなされるのであろうから──もっとも割を食ったのは、先触れとして王城に走らされたリュカであろう、と思う。


 私は団長にうながされるようにして、王城の応接室に通される。そこには、いつぞやのように王太后と宰相が待ち構えており──部屋の隅では、先触れに駆けたリュカが肩で息をしている。


「お姉ちゃん!」

「お姉さま!」

 と、声をあげて、私のもとに駆けてくるのは、幼王と幼王妃である。二人は、私の足もとに抱きついて、目を輝かせながら、上目でみつめる。


「僕のお姉ちゃんだよ」

「私のお姉さまですわ」

 二人はそのまま、何ともかわいらしい言い争いを始めるのであるが──私が原因で国家を揺るがす夫婦喧嘩となっても困る。


「ちょっと、二人とも落ち着いて──ゆっくりお話してあげるから」

「子どもに好かれておるのう」

 二人をなだめる私の困り顔を眺めながら、団長はにやにやと笑って──私は団長に舌を出して応える。


「ただいま──遅くなって、ごめんね」

「お姉ちゃん、ずっとリムステッラに戻らずに、いったいどこまで行ってたの?」

 私はそう謝りながら、幼子らの頭をなでるのであるが──幼王は、私の足にすがりついたまま、頬をふくらませながら返す。ううむ、一度も国に戻らず旅を続けていたという負い目があるだけに、そこを突かれると弱い。


「手紙は──どこまで届いてるの?」

 私は、遅い帰還にむくれる幼子らをなだめながら、団長に尋ねる。

「北方の英雄──アルグス殿が届けた分まで」

「おお、ちゃんと届けてくれたんだ。さすがはアルグス、義理堅い」

 団長の答えに、私は胸のうちでアルグスに感謝を捧げる。


 砂都アスファダンで別れたアルグスとラディ──二人は今頃、アルグスの故郷で祝言をあげているのかもしれぬ、と想像して、私は一人にんまりする。


「英雄アルグス殿が、お前のことを友と言うておったが──」

「まあ、友だちと言えば友だちかなあ──戦友、みたいな?」

 半信半疑というように問う団長に、私はいくらか誇らしげに返す。


「いや──アルグスとラディの縁を結んだわけだから、恩人と言っても過言じゃないのかも?」

「それは過言でしょう」

 私の胸もとでフィーリが異を唱えるのであるが、聞こえない振りをする。


 アルグスの手紙が届いているのであれば、旅のあらましは伝わっていると思ってよかろう。私は頭の中で旅の道順を思い起こす。


「お姉ちゃんはねえ──」

 そして、大きく息を吸い込んで。

「リムステッラから、西方のドワーフの国を目指して、そこから北上して、北方をめぐって、すんごく高い山の、さらにその上に浮かぶ空中都市にたどりついて、その空中都市が南方の砂漠に墜ちちゃって、そこから東方をぐるりとまわって──ようやく帰ってきたの」

 と、一息で告げる。


「すごい! 世界を全部めぐったの!?」

 言って、幼王は先までむくれていたことをもう忘れたかのように、尊敬の眼差しで私を見あげる。

「いやあ、全部じゃない──世界はまだまだ広いと思うよ」

「おっしゃるとおり」

 私の言に、フィーリがなぜか誇らしげに同意を示す。


「そうそう──ウルスラを狙ってた悪い奴らも、私がやっつけといたからね」

「──やっつけた?」

 ウルスラの頭をなでながらそう告げる私に、彼女は聞き間違いでもしたかのように首を傾げてみせる。


「何とおっしゃいました?」

 と、そこに苦笑しながら割って入るのは、宰相である。

「東方の深き闇と謳われる──あの()()を? やっつけた?」

「うん、闇ごとやっつけた」

 よほど信じがたいようで、何度も尋ねる宰相に、私は大きく頷いて断言してみせる。フィーリのおかげとはいえ、闇のグンダバルドをぶっ飛ばしたのであるからして、嘘はついていないといえよう。


「あ、そうだ──オレントス王からの預かりものがあったんだった」

 話が教団に及ぶに至って、私はオレントス王から書状を預かっていたことを思い出す。リムステッラの王に渡してくれと頼まれていたものであるが、この場にいるものなら、誰が読んでもかまうまい──と、私はフィーリから書状を取り出して、団長に差し出す。


「オレントスというと、東方の強国の一つの──」

 団長は、書状を受け取ろうと手を伸ばしながら、いささか古い東方の情勢をつぶやきかけて。

「違う、違う──オレントスは強国の一つじゃなくて、()()()()()()()になったの」

 私はその認識を訂正する。


 そう──今やオレントス王は、覇王レクサールの遺志を継いで、東方を統一した初代の王となったのである。傾国の魔女に篭絡されていた姿からは想像もつかぬ偉業であるが──ま、実際のところ、覇王にもっとも近い男と呼ばれるだけのことはあるし、何せ東方を未曾有の危機から救ったのであるからして、その手腕に不安を抱くものもない。当然の結果といえよう。


「そういう重要なものは早く出さんか!」

 団長は、ひったくるように書状を奪い取り──ついでに私の頭に拳骨をくらわす。

「ちょっと!」

 団長といい、村長といい、私への扱いがひどいのではないか、と抗議の声をあげるのであるが、団長はどこ吹く風──書状を開いて、黙読を始める。


「それで、書状には何と?」

 宰相は、書状に目を走らせる団長に、急かすように尋ねる。

「──東方を統べる新たな覇王からの、我が国の巡察使に対する()()()()()()()()──そして、我が国と東方との()()()()()()の申し入れについて」

 団長は淡々と告げて──宰相はそれを聞いて、言葉を失う。


「いったい何をしたらこうなる?」

 団長は、書状をひらひらと躍らせながら、盛大な溜息をついてみせる。

「話すと長くなるんだけど──」

「それを話すのがお前の仕事ぞ」

 団長は、ずい、と迫って凄んでみせて──私は、うへえ、と情けない声をあげる。

「わかりました。ちゃんと話します」

 私は観念して両手をあげる。


「だったら──お姉ちゃん! 今晩はお城に泊まるよね!」

「お姉さま! もっと旅のお話を聞かせてくださいませ!」

「──仕方ないなあ」

 団長に滞在を乞われるのはうれしくなくとも、幼子らに滞在を乞われるのは、わるい気はしない。私は相好を崩しながら屈み込んで、二人をぎゅっと抱きしめる。


「それでは──お召し物を着替えさせていただきませんと」

 と、たおやかに微笑みながら、私に近づくのは──見覚えのある()()()()()()である。いつのまにそこにいたやら、私に気取られずにここまで接近するとは──この侍女、ただものではない。


「いや──着替えなんて、必要ないでしょ」

 私は、いつぞや胴を締めあげられた苦痛を思い起こして、かぶりを振ってみせるのであるが。

「王城では、それなりの格好をしていただきませんと」

 侍女に一切の容赦はなく──そうして、私は再び補正下着を締めあげられて、悲鳴をあげることとなる。

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和やかで朗らかに、帰って来た実感が沸きますね 締め上げのうめきと共に笑
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