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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第27話 仮面

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180/311

3

 私たちは、渋る鼠に先導されて、広場を目指す。もちろん、罪人が処刑される様を見世物として楽しみたいというわけではなく──そも処刑とは何事ぞ、とその理由の方をいぶかしんで、こうして広場に駆けつけているというわけである。


 広場には、すでに先の市は開かれておらず──代わりに、怖いもの見たさというやつであろうか、人だかりができている。


 私は黒鉄の肩を借りて飛びあがり。

「おい、やめんか」

 そのまま肩を足場にして、広場の中心を見やる。下で黒鉄が何やらわめいているのであるが、とりあえずは捨て置く。


 そこには、男が二人、鎖につながれている。彼ら罪人の傍らには、衛兵と──聖鋼と思しき鎧に身を包んだ騎士が立っている。その騎士の立ち姿といったら、まるで一本の剣のように揺るぎなく──さぞ名のある武人に違いなかろう、と私はその顔に目をやり、そして息をのむ。そこには、まるで髑髏のようにも思える、おどろおどろしい()()があったのである。


「──仮面」

「奴こそが覇王軍でも随一の騎士──()()()だよ」

 思わずつぶやいた私に、鼠はその姿を見ることもなく返す。


 仮面の騎士──仮面卿とやらが、先の鼠の話にあった覇王軍の騎士というのであれば、すでに老齢であろうに、その立ち姿からは微塵も衰えを感じず──私は信じられぬという思いで続ける。

「──代替わりしてるんだよね?」

「いや、そんな話は聞いたことがねえ」

 私の問いに、鼠はかぶりを振って答える。となると、仮面卿は人間ではありえない。エルフのような長命種なのであろうか、とその身体の特徴をつぶさに見ていると──奴はおもむろにその手を掲げる。


「見よ! これはこの汚らわしい異人が隠し持っていた禁制品である!」

 そう告げる仮面卿の手に、いっせいに群衆の視線が向いて──私は悪目立ちせぬように、と黒鉄の肩からおりる。


 仮面卿の手に握られているのは──剣である。


 なるほど──確かに、武器の類を持ち込まれれば、それを契機として反乱が起こるやもしれぬから、それらが禁制品となっていてもおかしくはない。入国に際して、私たちの武器をフィーリに預けておいて正解であった、と安堵の胸をなでおろす。


「このものらは、我が国の平穏を脅かした!」

 仮面卿は、鎖につながれた男二人の顎に剣をあてて、くいとあげる。見れば、その片割れは、入国の折、私たちの前に並んでいたあの行商である。

「よって、両名を死罪とする!」

 仮面卿の宣告に、群衆から悲鳴にも似た声があがる。


 理屈はわかる。一本の剣を許せば、気づかぬうちに幾本もの剣を持ち込まれるやもしれぬ。それゆえ、見せしめとして処刑するのであろうが──しかし、それにしたって、命まで奪うのはいささか度が過ぎているのではなかろうか、と思わないでもない。


 そんな思いが私の背を押していたのであろう。

「やめろ! 手を出すな!」

 知らず前に出ようとしていた私を、鼠が手で制する。機先を制されたことに、少なからず驚く。

「お前らがどうなろうと知ったこっちゃないが──お前らが手を出せば、それに関与したものは皆、ああなっちまうんだよ」

 言って、鼠は私を押しとどめる。その言が正しいとするなら、私たちが手を出せば、鼠や──もしかすると、彼の妹までもが罰せられて、処刑されてしまうということなのであろう。それは私も望むところではない。

「気分のよいものではないが、国のしきたりとあらば、仕方あるまいよ」

 黒鉄が私の肩を叩きながら、そうなぐさめる。


 仮面卿は罪人の横に立って、剣を振りあげる。その動作は、流れる水のごとく、一切の無駄がない。その段になって、群衆のうち、心弱きものが目を背けて──私たちの前に視界が開ける。


 息をのむ群衆の静寂を斬り裂くように、一閃──銀光が走る。


「──ほう」

 黒鉄が、思わずといった様子で、感嘆の声をもらす。それもそのはず、群衆の前に転がった首は、自らが斬られたことにも気づかぬ様子で必死に瞬きを続けており──仮面卿なるものの剣技は、いつぞやのアルグスを彷彿とさせるほどの、精妙なる業前だったのである。

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