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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第27話 仮面

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1

「あれが灰色山脈かのう」

 言って、黒鉄は手庇をして、先に連なる峰々を見やる。


 フィーリによると、その灰色に霧けぶる山脈のどこかにこそ、古代人の住まう山岳都市が存在するというのであるが、道中わずかなりともそのような噂を耳にすることはなく──これは外れやもしれぬなあ、と思いつつも、それでもわずかな可能性に賭けて、私たちは山脈を目指しているというわけである。


 灰色山脈にたどりつくには、小国クラウディレを通過するのがもっとも早いということで、私たちは街道を北上しているのであるが。

「本当にこの道であっておるのか?」

 と、黒鉄が疑問の声をあげる。それもそのはず、昨日からすれ違う旅人はほとんどおらず、私たちだけが街道を北上しているのであるからして、道が間違っているのではないか、と疑いたくなるのも無理からぬことであろう、と思う。


「他に道なんてなかったでしょ」

 ロレッタは、暗に自らの案内が間違っているのではないかと問われたことに気をわるくしたようで、いくらかふくれながら返す。確かに、彼女の言うとおり、わかれ道は数日前にあったのみで、それも西に向かう道だったのであるからして、誤ることなどありえない。はずである。


「クラウディレは閉鎖的だから、訪れる人が少ないんだよ」

 ロレッタは、往来の少なさを、そう結論づける。


 東方の有識者たるロレッタの言うところによると、クラウディレは国外者の入国に厳しいのだという。表向きは、よそものは問題を起こすから、ということのようであるが──実際のところは、城門の衛兵があれこれと理由をつけて賄賂を要求するというから、結果として入国に金がかかることになり、旅人の往来は少なくなる傾向にある、ということらしい。


「親父のせいで金には縁がなかったからさ、あたしも訪れたことはないんだけどね」

 ロレッタはそう言って──そして、彼女の意に反して再び姿を消した父親の顔でも思い起こしたものか、ふん、と鼻息も荒く、道端の石ころを蹴飛ばす。

 石ころは、まるで狙いすましたかのように、前を行く黒鉄の兜に当たる。それをきっかけに、黒鉄とロレッタは、いつものように聞くに堪えない言い争いを始めて──私とルジェンは、顔を見あわせて苦笑する。



 クラウディレは、先に訪れたカルヴェロと同じく、城郭に守られた都市国家である。交通の要衝をふさぐようなその立地からすると、本来であれば旅人の往来も多いはずなのであろうが、国外者を受け入れぬという国策の影響で、その城門にはほとんど旅人の姿は見えない。

 私たちの前に並んでいるのは、行商と思しき商人と、その荷馬車である。金勘定にうるさい商人が並ぶからには、賄賂込みの法外な入国料を支払ってまでクラウディレを目指す旨味があるのであろうが──今のところ私には想像もつかない。


「──次!」

 やがて、順番がきて、私たちは衛兵の前に出る。厳めしい衛兵に、あれやこれやと素性や来歴を問われて──ようやく答え終えると、いよいよ件の入国料を要求される。私はロレッタに教わったとおり、その入国料に、心づけとして銀貨を加える。自ら心づけを要求するとは、あさましいものであるなあ、と私などは思うのであるが──衛兵は当然のことのようにそれを受け取り、銀貨を懐にしまって頷く。


「クラウディレは清廉なる国──」

 そして、衛兵は重々しく告げる。そのあまりにも厚顔無恥な発言に、私は思わず吹き出しそうになるのであるが──それを察した黒鉄が、慌てて私の口を手でふさぎ、何とか事なきを得る。まったく、心づけなんぞを要求しておいて、よくも真顔でそのようなことを言えたものであるなあ、と感心さえする。


「貴様らのような汚らわしい異人が罪を犯したならば、それすなわち重罪となる。運がよければ国外退去で済むこともあろうが──犯した罪によっては、その場で死罪となることもあろう」

 ゆめゆめ忘れるな、と衛兵は脅すように告げる。汚らわしいとは、ずいぶんな物言いであるなあ、と私はいくらかむっとするのであるが──自らの体臭を気にするそぶりのロレッタに、そういう意味じゃないと思う、と思わず苦笑して、それだけで私の苛立ちは霧散する。



 衛兵にさんざん脅されて、私たちはようやくクラウディレに入国する。門の先には、目抜き通りと思しき通りが続いている──が、通りを行くのはクラウディレの民ばかりで、往来はそれほど多くはない。


 私たちは通りを進み、都市の中心であろう広場に出る。

「まったく旅人がいない──ってわけでもないみたいだね」

 言って、私は足を止める。


 広場では、行商と思しきものたちが荷馬車を停めて、市をなしている。荷台に載せた農作物は、どうやら近隣の特産品のようで、クラウディレの民は行商に群がるようにして、それらを買い求めている。国外者の入国に厳しいからこそ、外つ国のものはめずらしいのであろう。行商にとっては、入国さえできれば、よい商売になるようである、と納得する。


 私は彼らの熱につられて、目を輝かせて、その雑踏をのぞこうとして。

「おぬしにとっては、そうめずらしいものではあるまいに」

「まあまあ」

 あきれる黒鉄の声に、おざなりに返して、雑踏に飛び込む。


 むっとする人いきれの中は、行商の威勢のよい呼び込みの声が引きも切らず──特に何を買うつもりのない私までもが、何か買っていこうかしら、と思い立ってしまうほどに、熱気に満ちている。

「お──っと」

 私は雑踏の中で少年とぶつかりそうになり、ごめんね、と謝ろうとして──そのまま彼の腕をつかむ。


「おい、何だよ、異人──異人が狼藉を働いていいと思ってんのか?」

 少年は腕をつかまれて、威嚇するように私をにらみつけるのであるが──私は怯むことなくその腕をきつく握る。


「──どうかしたのか?」

 私の様子がおかしいのを見て取ったのであろう、黒鉄が近寄ってきて、私と少年を交互に見やる。


「信じられない──この子、()()()()()()()()

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