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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第25話 偽王

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168/311

3

「儂は数年前まで乞食であったのだぞ!」


 カルヴェロ王の──いや、彼の言が正しいのであれば、偽物の王ということになろうから、()()とでも呼ぼうか──言うことには、彼はかつて乞食であったのだという。何でも、貧民街で物乞いをしているところにお忍びの王が訪れて、その身を買われて──しばらくの間、王の代理を務めることになったというのであるが、にわかには信じがたい話である。


「乞食が王になりすますなんて、できるわけないと思うんだけど──」

「王からこれをもらったのだ!」

 言って、偽王はこれ見よがしに自らの首飾りを掲げる。

「これは──魔法具ですね」


 フィーリ曰く、偽王の首飾りは姿形をくらます魔法具であるとのことで──試しに外してもらうと、そこには先までの偽王とは似ても似つかぬ男が立っており、なるほど、と納得せざるをえない。


「乞食から王になったのに、乞食に戻りたいの?」

 私は素直な疑問を口にする。

「それは──最初は楽しかったのだ」


 偽王は、王としての暮らしぶりを、とつとつと語る。飢えることも、凍えることもない──どころか、今まで口にしたこともないような美味を味わい、暖かな寝具に包まれて眠る幸せを初めて知ったのだという。さらに、王の権力といったら!──乞食の時分には誰からも見下され、相手にもされなかったというのに、今や誰もが自らにかしずき、頭を垂れるのである。王とは何とすばらしいものか、本物の王が戻ろうとも追い返してやろうぞ、と邪な考えを抱いていたというのに──。


「しかし──今はそれらすべてがまやかしに思えるのだ」

 偽王は悄然と肩を落とす。

「儂は貧民街での暮らしが懐かしい。できることなら乞食に戻りたい。王たる今は、母の墓に祈ることもできんのだぞ」

 そうつぶやく偽王の言葉に、嘘は感じられない。


「儂を助けてくれたならば、王の最後の仕事として、この先の国々まで、巡察使殿のための触れを出そうぞ」

 偽王の懇願に、私たちは顔を見あわせる。そんな触れなどなくとも、旅を続けることはできるのであるが──今にも泣き出しそうな偽王の顔を見るに、無視して旅立つというのも、何とも寝覚めがわるい。やむなく王探しを引き受けることにして、期待はするなよ、と釘を刺しつつ──私たちは城を辞する。



 私たちは都市の東側にあるという貧民街を目指す。そこには、偽王が乞食であった頃に住んでいた家──のようなものがあるのだという。入れ替わった王も、当初はそこに住んでいたはずである、という偽王の言に従って、私たちは彼の家を探す。


「──貧民街?」

 都市の東側にたどりつき、その街並みを見渡したところで、ロレッタが疑問の声をあげる。それもそのはず、偽王から貧民街と聞かされていたその街並みは、まさに再建の最中であり、想像していたような荒れ果てた家屋は見当たらないのである。


「これが乞食の家に見える?」

 偽王のかつての住まいとやらも、例にもれず再建されており、ロレッタは重ねて疑問の声をあげる。目の前の家屋は、さすがに都市の中心部のものとくらべると小さく、いくらか見劣りはするものの、立派と言って差し支えないほどのつくりに思えて──本当に乞食の住まいであったのだろうか、と私は半信半疑で家をのぞく。


 鎧戸を開け放った窓からは、作業場のような部屋が見える。作業場は広く、どうやら家のほとんどを占めているようで──ここはもはや乞食の家ではなく、職人の家であるのだと理解する。

 作業場では、男が一人、ひたむきに木工に向きあっている。職人としての経験は浅いのであろう、男は慣れぬ手つきで家具をつくっている。やがて、男は汗をぬぐうように身体を起こして──その顔があらわになる。


 それは魔法具によって変えられた偽王の顔ではない。


 これは当てが外れたかな、と思いながらも、私は男に声をかけるべく窓に近づいて、彼の耳にも届くよう、鎧戸を強く叩く。

「──あんたら、俺に何か用かい?」

 男はその音に気づいて、作業の手を止めて、私に向き直る。

「前にここに住んでいた男から、頼まれごとをしてね」

 そう告げると、男はそれだけですべてを察したようで、私を拒絶するように背を向ける。間違いない──目の前の男こそ、乞食の探す本当の王であると確信して、私は再び男に呼びかける。


「ねえ、王様なんでしょう?」

 私の声を無視して男は家具づくりを再開する。

「ねえったら!」

「──現王は、善き王なり」

 繰り返し呼びかける私に、男はぽつりとつぶやく。

「乞食として生きてきた現王は、貧民をないがしろにしない」


 なるほど──男の言葉からするに、貧民街の再建は偽王の発案によるものなのであろう。乞食に戻りたいという割に、なかなかによい仕事をするではないか、と私はその働きぶりに感心するのであるが──とはいえ、それとこれとは話が別である。


「いくら現王が善い王であっても、彼自身が辞めたいって言ってるの」

 仕方ないでしょ、と続けて、私は指を鳴らす。私の合図を受けて、黒鉄は窓越しに男の手をむんずとつかんで、軽々と作業場から引きずり出す。男は全力で抵抗しているのであるが、剛力のドワーフにかなうはずもなく──通りをずるずると引きずられるに至って、彼はたまらず声をあげる。


「俺だって本当の王じゃないんだよ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] もしかしたら本物の王様まではまだまだ遡れちゃう? 面白くなってまいりました♪
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