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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第24話 砂漠

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164/311

6

「──王よ」

 玉座の間の真ん中に立って、アルグスが朗々と告げる。


 玉座の間には、これから始まる座興を一目見んと、多くのものが集っている。玉座には王が、その隣には宰相が、また周囲を取り囲むように貴族と思しきものたちが──皆一様に、アルグスの語りに耳を傾けている。


「これなるマリオンは、リムステッラの巡察使であるだけでなく、類稀なる武術の使い手でもある」

 私はアルグスの後ろに立ち、皆の視線を一身に受けている。普段の出で立ちではない──砂漠の踊り子の衣装を身に着けており、肌の露出こそ多くはないものの、ひらひらとした布地は頼りなく、身体の起伏を強調するような意匠は気恥ずかしい。見られていると思うと、肌が火照るほどである。


「武と舞──似て非なるものと人は言うが、武を極めしものの一人として断言する。達人の武は、舞と見紛うほどのものである、と」

 アルグスは観衆を煽るように言って──彼らは期待に目を輝かせる。

「それでは──中原の武をご覧あれ!」

 アルグスにうながされて、私は部屋の中央に歩み出る。


 私は──まず、()()()()()()()()()()()()()()()()、構える。


 架空の盗賊は距離をとり、私をぐるりと囲んでいる。奴らは私を警戒して、おいそれと近づいてくることはない。それならば、と私は拳を突き出すと同時に風を呼び──といっても、演武であるから、そよ風程度である──風撃で正面の盗賊を打つ。盗賊は風撃で顔を打たれて倒れて──ちょうどその位置に立っていた貴族は、自らの顔まで届いた風に、驚きの声をあげる。


 次いで、私は振り返り、背後の盗賊に向き直る。奴は私が手練れと見るや、両隣の盗賊に目配せを送り、三人で同時に襲いくる。ふん、三人程度でどうにかできると思われるとは、舐められたものである。私は奴らを薙ぎ払うように右手を振るう──と、風撃が奴らを薙いで、その出足を封じる。その隙を見逃す私ではない。一呼吸で間合いを詰めて、宙を舞うように三連の蹴りを放つ。蹴りにあわせて、着衣の裾がひらりと踊るのであるが──安心してほしい、肌着は見えていない。はずである。


 残る盗賊は六人。奴らは顔を見あわせて、いっせいに襲いくる。私は手近な二人を迎え撃ち、それぞれの顎を掌で打つ。二人はその場にすとんと崩れ落ち──私はその勢いのまま、疾風のごとく駆ける。演武のために許された、広間のかぎられた空間を、私は踊るように駆けて──巧みな足さばきで四つ身に分身して、そのそれぞれから風撃を放つ。風撃は、あやまたず残りの盗賊を打ち抜いて──右端の賊を貫いた風撃が、そのままその後ろの宰相にまで届く。


 宰相に届いた風撃は、それほど強いものではなかったはずであるが、それでも彼の懐を打って──私の耳には、わずかに()()()()()()。やはり、と確信して──私は限界を超える動きでもって五つ目の分身をつくり出して、宰相の背後にまわり込む。そして、その懐に手を入れて、そこから布に包まれた何かを奪い取る。


「貴様! 何をする!」

 狼藉に気づいた宰相が、私を振り払わんと腕を振るう──が、時すでに遅く、私は王の御前に跪いている。私はうやうやしく布を開いて、その中身を王に御覧に入れる。現れ出でたのは、手のひらくらいの大きさの鈍色の鐘──そう、アスファダンの至宝たる真実の鐘である。


「宰相を──いや、そのものを捕らえよ!」

 王の一声で、玉座の間に詰めていた衛兵が宰相を捕らえて、そのまま王の御前に引ったてる。しかし、王も、そして広間を囲んでいる貴族も、何が起きたやらわからぬ様子で、説明を求めるように私をみつめる。


「巡察使マリオンよ。説明せよ」

 王に命じられて、私は跪いたまま、顔を伏せて語り出す。


「私たちが墜ちた都市にたどりついたとき、盗賊団は──間抜けを一人残して──すでに撤退しておりました」

 最初の違和感は、盗賊団の手際のよさであった。

「偶然ではないと思いました。奴らは私たちが墜ちた都市に訪れることを知っていたのだと思いました」

 そうでなければ、盗賊団の多くが盗掘を続けていたはずであり、そのうちの一人だけが残っていたという状況の説明がつかぬのである。

「私たちが墜ちた都市に出向くと決めたのは、この玉座の間でのこと──そう考えたとき、天啓のようにひらめいたのです」

 私は一呼吸の間をおいて、次の言葉が皆に浸透するよう演出する。


「私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と」


「それは真か!」

 私の告白に、王は驚きの声をあげる。

「王が私たちを極刑に処すとおっしゃった折、私は鈍く濁った音を聞いております」

「そのような音、余は聞いておらぬが──」

 私の説明に、王は疑問の声をあげる──が、それは仕方のないことであろう、と思う。

「私の耳は特別製なのです」

 何せ、その鐘の音は、私の耳でさえわずかに聞き取れただけなのであるからして、常人の耳になど届こうはずもない。


「あのとき、真実の鐘は玉座の間にあった──そう考えると、すべての辻褄があいます」

 言って、私は王の許しを得て立ちあがる。

「宰相、あなたは、あのときも玉座の間にいた。そして、懐に忍ばせた鐘の振動で、この玉座の間で交わされる言葉の真贋を見きわめて、悪用していたのでしょう」

 そして、捕らえられた宰相の前に立ち、憤怒の形相で私をねめつける彼を見下ろす。


「あなたこそが──砂都を騒がす盗賊団の頭目なのでありましょう」

 そう告げると、宰相は観念するようにうつむいて、無念の声をあげる。

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