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旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第24話 砂漠

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3

「あいもかわらず、貧相な身体だなあ」


 アルグスは心から残念であるというように溜息をつきながらつぶやくのであるが──まったくもって余計なお世話である。


 アルグスの登場に、私は緊張を解く。いざとなれば、ルジェンを守りながら宮殿を脱出せねばならぬ、と構えていたのであるが、この謁見自体がアルグスの仕組んだものであるとするならば、その必要もなくなる。


「空から島が墜ちてきて、それからさほど間をおかずに、異国人が現れた」

 アルグスは、奇術の種でも明かすように、誇らしげに語り出す。

「しかも、そいつらは、狩人、ドワーフ、ハーフエルフの一行だっていうんだから、ぴんと来ない方がどうかしてるわな」

 確かに──と頷いて、私は両隣に控える黒鉄とロレッタを順に見やる。そもそも、ドワーフとエルフがともに旅をしている姿など、この長い旅路においても他に見たことがないのであるからして、相当にめずらしい組み合わせなのであろう、と思う。

「島墜としのマリオン──あながち間違いじゃないと思ってるんだが、どうだい?」

 アルグスはからかうように問いかけて──私は、なるほど、と歯噛みする。つまるところ、私はアルグスに鎌をかけられたのであろう。アルグスも、そして王も、私が島墜としに関わっているという確信があったわけではなく、私の反応を見るためだけに、わざと確信のあるような言いぶりで騙したというわけである。アルグスは楽しそうに私の答えを待っているのであるが──先に無駄な冷や汗をかかされた身からすると、素直に答えてやるのも腹立たしい。


「それで──条件って?」

 アルグスの問いを無視して逆に尋ねる──と、アルグスは王に答えをうながす。

「英雄アルグスとともに、盗賊団に奪われた余の至宝『真実の鐘』を取り戻してほしいのだ」

 王は、先までのおどけた調子とは打って変わって、神妙に告げる。


 王によると、アスファダンの至宝──真実の鐘とは、嘘を見抜く古代の魔法具なのだという。その言が真であれば美しく澄んだ音が鳴り、嘘であれば鈍く濁った音が鳴る。真実の鐘は、アスファダンの(まつりごと)において、欠くことのできぬ魔法具であり──嘘を見抜くというのが本当であれば、交渉事には欠かせまい──砂都の繁栄を支える礎であると言っても過言ではない、正真正銘の至宝なのである。


 その真実の鐘が宝物庫から消えたのは、先の新月の晩であるという。どのようにして盗まれたものやらさだかではなく、つまるところ盗賊団によるものかどうかもさだかではないのであるが──その日以来、盗賊団による被害が日ごとに増していること、またどれほどの兵士を動員しようとも奴らの行方がようとして知れぬことから、盗賊団こそが真実の鐘を盗んだのであり、奴らはそれを悪用して悪事を重ねているのではないか、という結論に至ったのだという。


「そこで、俺の出番ってわけだ」

 言って、アルグスが話に割って入る。なるほど、困り果てた王は、英雄アルグスの噂を聞きつけて、盗賊の討伐を依頼したのであろう。

「俺も方々を探しまわったんだが、この盗賊団ってのが、どうにもずる賢い連中でなあ。俺の前には姿を現さんのだ」

 アルグスは、ほとほと弱ったというように、わざとらしくうなだれてみせる。

「俺は、そういう連中をぶった斬るのは得意なんだが、探し出すとなると、ちと骨でなあ」

 アルグスは、そういうの得意だろ、と言わんばかりに、私たちを見やる。確かに、私とロレッタさえいれば、件の盗賊団とやらがどれほど巧妙に隠れようとも、逃れることはできまい。協力すること自体は、やぶさかではない──ないのであるが、私たちにだってやるべきことはある。


「私たちは、墜ちた都市の方に用があるんだけど──」

「そう、それもあって、お前らを呼んだんだよ」

 アルグスは、我が意を得たりとばかりに、私の言葉を遮る。

「お前らの用があるっていう墜ちた都市──あれが古代の都市ってんなら、俺らにとっちゃあ、丸ごとお宝みたいなもんだろ」

 アルグスの言に、私はナタンシュラの街並みを思い起こす。あの落下の衝撃を思えば、ほとんどのものは壊れているであろうが、もしもわずかなりとも原形をとどめているものが残っているとすれば、それは確かに私たちにとっては財宝のようなものであろう。

「──となれば、盗賊団も、必ずそこに現れるはず」

 アルグスの指摘に、なるほど、と頷く。ようするに、私たちが墜ちた都市について詳しいと踏んで、その案内を頼みたいということなのであろう。確かに、ブルムの消息を知りたいと思っている私たちにとっても、ともに墜ちた都市の探索に出向くというのは、願ってもない申し出なのであるが──何もかもアルグスの読みどおりというのも、何となく癪にさわる。その得意げな顔を見ていると特に。


「──報酬は?」

 極刑というのも向こうの吹っかけであろうから、こちらもいくらか吹っかけてやろうと思い立って、そう尋ねる。

「恩赦だけでは不満とは!」

 私の要求に、アルグスは心から愉快であるというように、くつくつと笑う。しかし、実のところ、アルグスはその答えさえも事前に用意していたようで、王に確認することなく続ける。

「王の頼みは『真実の鐘』を奪還すること──盗賊団が貯め込んでる財宝については、その一部を俺たちの報酬にあててよいということになってる」

 どうだ、とアルグスは問い──私は、黒鉄とロレッタと顔を見あわせて、互いに頷きあう。


「交渉成立だな」

 アルグスは祝うように手を叩いて。

「明日、墜ちた都市に発つ。今日は宮殿で休んでいきな」

 いいだろ、とアルグスはまるで友にでも語るように王に呼びかけて──王はからからと笑いながら頷く。



 私たちは、アルグスの相棒──剣の乙女ラディに案内されて、宮殿を行く。誰かさんとは異なる、純然たるエルフともなると、前を行くその後ろ姿さえも美しい、と溜息をつくほどなのであるが──。


「あの──私、何か気に障ることやっちゃいました?」

 彼女の背から滲み出る嫌気(いやき)とでも言おうか、その雰囲気を感じとって、知らぬ間に何か怒らせるようなことでもしでかしてしまったであろうか──いかにも私のやりそうなことではある──と、私はあけすけに尋ねる。

「──違う」

 ラディは、自らの嫌気がもれていたことを悟ったのであろう、慌ててかぶりを振って。

「その、アルグスが、あなたに構うから──」

 勢い余ったというように口走って──そして、それに気づいて口をつぐみ、もじもじとうつむく。

「ああ! 嫉妬!」

 ずばり指摘すると、ラディは真っ赤になりながら、慌てて私の口を手でふさぐ。これほどに美しいエルフであっても、嫉妬をすることがあるのだなあ、と私はラディの手から逃れながら──その手からさえ、何とも言えぬ心地よい香りがするのであるから、エルフとは不思議なものである──彼女に親しみを覚える。


「私に嫉妬なんてしなくてもいいのに」

 自慢ではないが──本当に自慢ではないが──異性に好意を寄せられたことなど、ロビンと湾人からしかない私である。


「アルグスは──北方の男は強い女が好きなの」

 あなた強いじゃない、とラディは不安もあらわに続ける。なるほど。確かに、湾人は私が強いという理由だけで求婚したのであるからして、同じ北方人たるアルグスがそうでないとは言い切れない。かもしれない──が。


「心配しすぎでしょ」

「──あなたにはわからないわ」

 私はラディの悋気を笑い飛ばすのであるが、彼女は唇を尖らせて、頬をふくらませる。私などよりよほど年を経ているであろうに、何ともかわいらしいエルフであるなあ、と苦笑して──私は彼女の気に障らぬよう、ぎゅっと口をつぐむ。

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リムステッラの巡察使とわかって喧嘩ふっかけてきてるんだから言うことなんか聞かなくてもいいと思う
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