表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅神のご加護がありますように!  作者: マリオン
第23話 浮島

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

158/311

10

 魔神王は霧散して消える。


 しかし──と、私は下唇を噛む。ナタンシュラの民は、草むらで眠るルジェンのみを残して、死に絶えてしまった。ナタンシュラは滅びたのである。

 私たちは死力を尽くした。だから、やむをえない結果であるということは理解している──つもりなのであるが、それでも、虫を噛み潰したような、後味のわるい苦味が口内に残る。


「気を落とすな」

 言って、黒鉄が私の背を優しく叩く。まったく、心優しいドワーフこそが、もっとも気を落としているであろうに──そんなことをされたら、元気を出さないわけにはいかないではないか。

「うん」

 努めて朗らかに返して、私は上を向く。


「おっと──」

 と──足もとがぐらりと揺れて、私は違和感を覚える。身体に感じる──わずかながらの、浮遊感。

「──墜ちてる?」

 誰にともなくつぶやいて。

「そりゃあ、墜ちるさ。風の大魔石は、もうないんだからな」

 ブルムはあたりまえのように返して、ふん、と鼻を鳴らす。


「何でそんなに平然としてるの! 墜ちたら死んじゃうんだよ!」

「心配するな。死ぬほど痛いとは思うが、お前はたぶん死なない」

 ブルムは、恐怖に震えるロレッタを励ますように告げる。なるほど、ロレッタは半神である。神は死なぬというから、もしかするとロレッタも死なぬのであろう。


「マリオンは!? 黒鉄は!?」

 ロレッタはブルムを問い詰めるのであるが。

「さすがになあ、死ぬと思うよ」

 ブルムは淡々と答える。


 ふん。いくら神であろうとも、私の運命を勝手に決めないでいただきたい。


「いいや──私はこんなところで死んでなんかあげない」

 言って、私はブルムに向けて舌を出す。そして、黒鉄とロレッタを見やって──目で合図をして、互いに頷きあう。


「二人とも──飛ぶよ!」

 言って、私は意識のないルジェンを背負って、崖に向けて駆け出す。

「おう!」

 と、黒鉄が私に続いて。

「え、嫌だ」

 と、ロレッタがかぶりを振る。


「──何だって?」

 思わぬロレッタの言葉に、私は足を止めて、振り返る。

「嫌だよう、飛び降りるの怖いもん」

「私たちに死んでほしくないんでしょ?」

 にっこりと笑って、私はロレッタの手を取る。

「嫌だあああああ!!」

 叫んで、駄々をこねるロレッタの腹を、おもむろに黒鉄が打つ。黒鉄は、気を失った彼女の身体を、そのまま肩にかついで──私と黒鉄は、顔を見あわせて、うむ、と頷きあう。まったく、お前は死なぬのであろうに、手間をとらせおって。


「幸運を祈る」

 自らは死なぬからであろう、ブルムはその場から動くつもりもないようで、私たちに向けて、別れの手を振る。小憎らしいその顔に、再び舌を出して──私たちは浮島から飛びおりた。

「浮島」完/次話「砂漠」


 Nujabes「Sea of Cloud」を聴きながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

以下の外部ランキングに参加しています。
リンクをクリックしてもらえるとやる気が出ます。


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ