7 (イラスト:ロレッタ)
「さようなら!」
ロリスは鈴を転がすような声で言って、塔の窓から私たちを見送る。私は森に続く小道の手前で振り返り、彼女に応えるように大きく手を振り返して──ロリスとルヴィアであれば、切磋琢磨して立派な魔女となるであろうと確信するとともに、爆炎の魔法だけは乱用してくれるなよ、と切に願う。
「それでは、我らもここで」
クウェスは名残を惜しむようにロリスに手を振って、私たちに別れの言葉を告げて、小道を東に行く。そのまま森を東に抜ければ、すぐにウェネフィクスに出るのだという。
私たちは東に向かう小道ではなく、北を目指して、道なき道を行く。先と同じく、私が前に立ち、行く手を阻むように茂る草木を竜鱗の短剣で払う。先と異なるのは、魔女にもらった魔法書を読みながら続くロレッタの歩みが遅いせいで、殿をつとめる黒鉄ともども、私との距離が離れているという点である。
「ねえ、フィーリ」
後ろに続く黒鉄とロレッタには聞こえぬよう、私はそっと声をかける。自らの声に緊張が含まれてはいなかったであろうか、と柄にもなく気にして、私は声の調子を整えるように何度か喉を鳴らして──そして、本題に入る。
「フィーリって──旅具なんだよね?」
「ははあ、魔女殿に何か言われましたね」
私の不安そうな問いに、しかしフィーリはあっけらかんと返す。
「魔女殿は悲観的な方でして、あれこれ苦言を呈したがるのが玉に瑕なんですよねえ」
困ったものです、とフィーリはつぶやく。しかし、魔女の発言は、はたして単なる悲観によるものであったであろうか。
「フィーリは単なる旅具ではないって言ってたけど──」
「私は旅具ですよ──ただし、特別に優秀な旅具です」
言い切って、フィーリは誇らしげに笑う。
「そういう意味では、単なる旅具ではないというのも、あながち間違っていないかもしれませんね」
そうフィーリはうそぶくのであるが、それでもなお私の不安が払拭されないのを見て取って、言葉を重ねる。
「私はマリオンに嘘はつきません」
約束します、とフィーリはいつになく真面目に告げる。
それだけで、私の心は、ふわり、と軽くなる。
私はフィーリのことを──この一風変わった友のことを、いつのまにやらずいぶんと好いているのであると悟って、少なからず驚く。
「変なことを尋ねて、ごめんね」
「いえいえ、何でもお尋ねください」
いつもの調子で返すフィーリを優しくなでて──もう悩むまい、と前を向く。
友を信じると決めただけで、足取りの何と軽くなることか。私は颯爽と闇の森を行き──後ろで黒鉄とロレッタが、もう少し速度を落とせ、と声をあげているが知ったことではない──新たな冒険の地を目指すのであった。
奇術で花を咲かせるロレッタ(DALL·E 3生成画像)
「魔女」完/次話「秘剣」




