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「儂はいかんからな! 絶対いかんからな!」
「ついてきてなんて言ってないでしょ」
ウェルダラムで手に入れた古の金貨のうち数枚をリュカの伝手で売って──リュカの知り合いの商人からは、どこで手に入れたのかとしつこく聞かれたが、落ちていたのを拾った、で押し通した──懐が暖かくなった私たちは、あぶく銭は惜しみなく散財すべし、という黒鉄の言に従って、その足で酒場に向かった。
めずらしく酔いがまわったものか、気の大きくなった黒鉄が「今宵は儂の奢りじゃ!」と叫んだあたりから、酒場は収拾のつかないお祭り騒ぎとなっていた。
酔っ払いどもに請われて、誰かの忘れ物だという壊れかけのリュートを稚拙につまびき、故郷の狩人の歌を披露したあたりで、私もフィーリの解毒が追いつかないくらいに酔っていたのかもしれない。
「おいおい、呪われた城に行くのか!」
次の行く先を告げると、黒鉄は酔いがさめた様子で驚きの声をあげる。
酒場は死屍累々。あちらこちらに酔いつぶれた客が突っ伏している。底なしの黒鉄でさえ、先ほどまで陽気に歌なんぞ口ずさんでいたのだ。フィーリの解毒がなければ私も彼らに仲間入りしていたことだろう。
「その古城も『訪れるべき場所』なんだってさ」
ようやく酒量に解毒の効果が追いついたようで、陶然と花の酒を舐めながら返す。
「呪われた城とは面妖な。そのような場所ではなかったはずですが」
胸もとで、フィーリがつぶやく。
「私の知るかぎり、芸術の粋を集めた城であったはずです。時代ごとの建築様式、美術を取り入れて設計されており、城内を散策するだけで、まるで時代を越えて旅をしているような心持ちになる、すばらしい城なのです」
熱っぽく語る。しかし、フィーリの力説も、黒鉄を説きふせることはできない。
「儂は騙されんぞ! その城は呪われておるんじゃ! かの城には亡者が巣食い、夜になれば生者を脅かさんと跋扈しておるんじゃぞ!」
あれやこれやと文句を並べたてて。
「絶対いかんからな!」
宣言して、子どものように、そっぽを向く。その手の魔物が、よほど苦手なものとみえて、怖気を震うのを隠そうともしない。
「今回は一人旅か」
いつもなら逃げても追いかけてくるというのに、いざついてこないとなると、いくらか寂しさを覚える。
「私がおりますよ」
なぐさめるような言葉を、旅具が素っ気なく告げる。フィーリが素っ気ないのはいつものことなのに、黒鉄がいないからと寂しがるな、自分がいるではないか、と嫉妬しているようにも聞こえて──そんなことはないとはわかっていても──思わずにやけてしまう。
「ありがと」




