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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第二部 【 紫惑の懺悔編 】
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第85話 『 田舎デパートの知人との遭遇率 』

休日に知人に会うとつい「おっ」と声が漏れて相手も「おっ」と声を漏らすのあるある。

【 side颯太 】


 ―― 20 ――


「なぁ、俺たちってスパイク買いに来たんだよな……」


 腹も満たし、いくつかの店を回って、ついでにそこで聖羅が必需備品を買えば、腕時計の針は二時間が経過しようとしていた。

 スパイク選びで時間が立っているなら問題はない。が、颯太が何故、聖羅にそんな疑問を問いかけたのかといえば、目的が逸れ始めていたからだ。


「お前、スパイクを選ぶのはいいが、結局何も決めてねえじゃねえか」


 回った店舗で彼女は気に入ったものに目星は付けてはいたし、颯太がアドバイスを送ったものも購入リストに入っている。ならば、そろそろどれを買うか決めていい頃合いなのだが、


「ソウタくん。何か一つ勘違いしてない?」

「あぁ?」


 と聖羅が己の腕を組みながら言ってきて、颯太は怪訝に眉根を寄せた。

 一体、自分は何を勘違いしているのか、そう思案していると、向き直った聖羅がカッと目を見開いて叫んだ。


「私は、スパイクを〝買う〟とは一言も言ってないわ!」

「何してやったり、みたいな顔で言ってんだ! いや思い返してみればそうだったけども!」


 確かに、学校では聖羅は『スパイクを選びたい』と相談しただけで、『スパイクを買う』とは一言もいってなかった。つまり、颯太が勝手に決めつけていただけ。が、どうにも府に落ちなかった。


「お前、あんなに買いますって雰囲気出してたじぇねえか」

「凄く気に入ったのがあったら買うつもりではあったのよ? でも、やっぱりもう少し慎重に判断して買いたいな、って。今年はもうタータンで走らないみたいだし」


 それは素晴らしく聡明な判断なのだが、ならば今までの時間はなんだったのか。これでは、本当に友達と買い物に来ただけではないかと、颯太は肩を落とさずにはいられなかった。

 そんな颯太の気も知らず、聖羅は鼻歌をうたうように呟いていた。


「まぁ、ソウタくんがおススメしてくれたあのスパイクは良かったわね。タータンと土、どっちも使えるやつ。試合用には向いてないけど、練習はもっぱらグランドだし、あれは買ってもいいかなー」

「あーそうですか。お役に立ててなによりですよお嬢様」

「あらら、どうしてそんなにむくれてるのよ。そんなんじゃ、カッコいい顔が台無しよ、執事さん」

「誰が執事だっ」


 聖羅がスパイクの購入を前向きに検討してくれたのを喜ぶべきか、散々振り回され疲労したことを嘆くべきか。ため息を吐く颯太の頬を、聖羅が悪戯な笑みを浮かべながら指で押してきた。


「あはは。これはソウタくんの早とちりだから、カウントは追加されないわよね」

「本当にお前は女王様じゃなくて悪魔だな⁉ 分かったよ。今回は俺のミスだから、カウントはしない。……たくっ。今度はもっと慎重に行動しないとダメだなこれは」

「あらあらぁ」

「? なに笑ってんの?」

「ううん。なんでもないわ」


 含みがある笑みを浮かべる聖羅を怪訝に思いつつも、眉を寄せるだけで颯太は追及はしなかった。どうせ禄でもない事だ、と勝手に思い込んで、しかし聖羅にとっては大事な小言だったとは気づかずに。


「んで、これからどうするんだ。もうこのデパートのスパイク売ってる店はあらかた見たし――よし帰るか」

「帰れるとなったら意気揚々となるの酷くない? もうちょっと、女の子との買い物を楽しめないものなの?」

「お生憎。女性との買い物なんて疲れるだけと知ってるからな」

「へえ。その言い方だと、カノジョさんは随分お買い物が好きなようね」

「いや、カノジョじゃなくて幼馴染だよ」


 端的に告げれば、聖羅はその鋭い瞳を驚きに丸くした。


「ソウタくんが一匹狼なわりにやたら女子の扱いが上手だと思ったら、なるほど。女性の幼馴染がいたのね」

「ボッチをカッコよく表現してくれてありがとう。そして失礼極まりないなお前」


 聖羅の言い方だと颯太が女誑しと揶揄しているようだ。その発言のおかげで、周囲の鋭い視線が一瞬だけ颯太に集まった。

 その視線から逃れるように歩き出せば、聖羅はこの話題を続けながらついて来る。


「それで、ソウタくんの幼馴染さんはどういう人なの?」

「なに、興味あんの?」

「そりゃね。ソウタくんのことは知って置いて損はないから。いざっていう時の弱点になるだろうし」

「俺をレアモンスターみたいな扱いすんな……はぁ。つっても、みつ姉がどんな人か、かぁ」


 脳内に雲が浮かび上がり、そこに笑顔で手を振るみつ姉が描かれる。


「みつ姉さん?」


 と聖羅が興味あり気に聞いてきたので、颯太は顔を上げたまま、視線だけを彼女に向けて言った。


「三津奈だからみつ姉。もう十年近く一緒にいるから、そう呼んでる」


 今更、三津奈、と名前で呼んでも歯に浮くだけなので、親しみと馴染みを込めてみつ姉と呼び続けている。みつ姉の方もソウちゃん呼びは変わらないので、今後もこの呼び方は継続だろう。ただ、随分と久しぶりに名前で呼ばれたことがあったのは、颯太は覚えていなかった。


「姉と慕うくらいのだから、仲は良いのね」

「まぁな。むしろ、血が繋がってないからこそこんなに仲良いってこともあるかも」


 一人っ子だから感覚がイマイチ掴めないが、姉弟がいる者たちは頻繁に喧嘩するらしい。全姉弟がそうではないだろうが、颯太とみつ姉の関係はそういう意味では本当の姉弟でなくて良かったのかもしれない。まぁ、仮に、本当の姉弟であっても仲の良さは変わらないだろう、と断言できてしまう自分がいる事に一抹の恐怖を覚えたが。

 背中の密かに寒気を走らせながら、颯太は聖羅の質問に耳を傾ける。


「ねぇ、そのみつ姉さんて、美人?」

「なんでそう思う?」


 眉根を寄せる颯太に、聖羅は「だって」と継ぐと、


「ソウタくんが最初私を見た時に、あんまり驚いてなかったから」

「どんだけ自分の顔に自信があるんだよ」


 忌々し気に呟くも、聖羅は気にした様子はない。

 そんな聖羅に吐息しながらも、颯太は彼女に聞かれた問いかけに答える。


「まぁ、美人だよ。自称町一番の美人って自分で言ってるけど、町の人たちもみつ姉が美人なのは認めてる」


 愛想もよく、いざという時は男張りの気概を魅せるみつ姉は、潮風町では人気者だ。アリシアも、彼女に習うことは多く、目指すならみつ姉のような人になりたいと羨望を向けるほどだ。 


 ――このままアリシアがみつ姉化しても、俺としては困るんだよなぁ


颯太としては、みつ姉はアリシアに良くない事を仕込む元凶でもあるので、素直にアリシアの目標を喜べないのが悩みの種だ。

 まぁ、みつ姉の悪い所などそれくらいで、むしろ美徳な所しかないのだ。十数年見てきても、それしか見つけられないのが不思議なくらいだ。本人はそんなことないと過小評価していたが。


「そんなに美人な人なら、私も一度お会いしてみたいわね」

「うちの高校に通ってんならいつか会えるだろ。というか、今年の内に会えると思うぞ」

「あら、どうして?」


 小首を傾げる聖羅に、颯太は少し先の予定を思い返して苦笑を浮かべた。


「来月は文化祭があるからな。たぶん、そこにみつ姉が顔出しにくる」

「ぶ、ぶんかさい……」

「どうした?」


 なぜか思い詰めるような顔をする聖羅。

怪訝に眉根を寄せる颯太に、聖羅はなんでもない、と首を振ると、


「私たちの学校では、この時期にブンカサイがあるのね……」

「そうか。神払は転校してきたばかりだから知らないっけ。この地域じゃ、大体の高校はこの時期に文化祭が開かれるんだよ。だから、十月と十一月は、ここら辺の高校生は全員浮かれまくって年末の期末テストで泣く」

「そ、そうなのね……」


 それで去年泣いていたのが、いわずもがな陸人と朋絵だ。

 顔を引きずらせている聖羅を尻目に、颯太はまぁ、と吐息すると、


「俺たちの文化祭でみつ姉には会えるだろうから、もし見つけられたらその時は紹介するよ。まぁ、会っても神払にはあんま意味はないと思うけど」


 町一番の美女を拝見したいと聖羅は所望するが、そもそも、聖羅の方が美人だ。贔屓目で観れば、颯太はみつ姉に票を入れるが、客観的にみればやはり聖羅の方が全体的な容姿が整っている上に肌も若い分潤いがある。どちらかと言えば、聖羅と張り合えるのはみつ姉ではなく――


「……アリシアだよなぁ。やっぱ」

「え?」


 胸中で思案していたことがつい口から零れて、それを聖羅が目を瞬かせながら拾った。


「あぁ。悪い。つい、頭の中でお前となら誰が張り合えるか考えてた」

「いえ。その妄想は勝手にしてくれて構わないんですけど、でも、今なんて言いました、ソウタくん」


 なぜか、切羽詰まったような、食い気味に顔を近づけてくる聖羅。

 そんな彼女に戸惑いを隠せないまま、颯太は先程呟いた名前を、声を上げて呼んだ。


「だから、アリシアだよな、って言ったんだ」

「――呼びましたか? みつ姉さん」


 颯太の呼びかけに、誰かが反応した。


「え?」


 その声音に聞き覚えがあって、さらにその声音が呼んだ人物にも聞き馴染みがあった。

 そこに居るはずがないと決めつけていた。今日の買い物はどこかもっと遠くの場所だろうと。

 颯太はこの時、田舎の知人との遭遇率を甘くみていたのだ。

 このデパートはそれなりに施設が充実で、学生ならず大人も頻繁にショッピングを楽しめる場所だ。休日とあれば、此処に来る選択肢は上位に食い込むほどに。

 だからこの邂逅は偶然であって、極めて必然と言えた。田舎特有の限定的選択肢が引き越したミラクル。

 颯太が銀鈴の声音がした方を振り返れば、同じように前で白銀の髪が揺れた。

 ――見覚えがあるどころか、朝は一緒にご飯を食べた相手がそこに居て。


「アリシア?」

「ソウタさん?」「ソウちゃん」


 颯太と聖羅。

 アリシアとみつ姉。

 田舎のデパートが、この四人を望まぬ形で集結させたのだった――。


 ―― Fin ――


ついに、ついにアリシアと聖羅が出会ってしまった―――――ッ!?

ここから物語が動くのと同時に、しばらくアリシアと颯太のいちゃいちゃが見られなくなります。二人の惚気をお楽しみにしていた読者の方には申し訳ない。でも、天メソって青春群像劇だから⁉ 

ということで予定より大幅に押している天罰のメソッド 第2部【紫惑の懺悔経編】を引き続きお楽しみください!

それでは、また次話で~!

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