第84.5話 『 女王様と買い物《デパート》へ 』
今日はもう更新できなーい⁉ と思ってました。なんとか更新できました。
【 side颯太 】
―― 19 ――
やたらと上機嫌な聖羅を連れて、颯太はデパートにやって来た。
「なんでそんなに嬉しそうな訳?」
怪訝に眉を寄せて問えば、にこにこと笑みを浮かべる聖羅が言った。
「いえ、思い返したら、私、誰かと買い物に行くのって初めてだなーと」
そう呟いた聖羅に、颯太は目を瞬かせた。
「意外だな。いくら一人が好きそうなお前でも、友達と遊びに行くなら社交辞令として行きそうなのに」
「ちょっとソウタくん、それ普通に失礼ですよ。概ね正しいですが」
「当たってんじゃねえか」
心外だとそっぽを向きながらも否定はしない聖羅に颯太は苦笑。
「まぁ、別に好きで一人で過ごしてる訳でもないのよ。ほら、私ってその気ないのに人の目を惹くでしょ」
「そういえばそうだったな」
彼女の共にいる時間が長い影響で感覚が薄れていたが、聖羅はかなりの――否、絶世の美女と謳われるほどの美貌の持ち主なのだ。指摘されて気付き、颯太は周囲に首を回せば、行き交う人は一度は聖羅を覗いていた。
――最近こいつと一緒にいる時間多くて、すっかり忘れてたわ。
颯太もそれなりに精悍な顔立ちではあるので、おそらくそれも手伝って周囲からは余計注目を浴びていた。もしかしたら、アリシアといる時よりも見られているかもしれない。と実感すると、颯太は微妙に居心地の悪さを覚えた。
なんとなく聖羅と数ミリ距離を取ると、それに気づかない聖羅は困った風に吐息した。
「私の近くにいる人たちは皆そう。落ち着かなかったり、私が気があるんじゃないかって邪な感情抱いたり――一緒にいて平気そうな顔するのは、ソウタくんだけよ」
「これ、俺は喜ぶべきなのか?」
「ソウタくんは気にしなくていいのよ。嬉しいのは私だから」
たまに見せる聖羅の邪気のない笑みは、不覚にもドキリとしてしまう。
彼女の悪戯な笑みには慣れたが、慣れてないことをされると妙なざわつきを覚えてしまう。
「あ、ドキドキした?」
「はいカウント1 あと4回で退場しまーす」
「え⁉ 今のは普通にソウタくんの内心を見透かしただけよ⁉」
「目が俺を弄ぼうとしてきた」
「採点厳し過ぎよー⁉」
揶揄いだそうとした聖羅に、颯太は対抗策を突き付けて涙目にさせる。颯太を揶揄おうとした分だけ先のカウントが溜まっていき、残り4回で颯太は即帰宅できる仕様だ。
「でも、ここに来る前は揶揄いだしたらすぐ帰るっていったのにね。やっぱり優しいわ、ソウタくんて」
「別にカウント数を減らしても問題ないんだぞ?」
「あ、冗談よ冗談。全然厳しいじゃないこれ」
少しでも邪険な雰囲気を感じ取ればカウントが進むので、聖羅も緊張にごくりと生唾を飲み込んだ。
せっかくの機会だ。聖羅の揶揄う癖も、ここで直すとまではいかないが減らせることが出来れば颯太にとっても都合がよかった。
「はぁ。いつまでもこんな所で油売ってないで。早く買いに行こうぜ」
颯太の提案に、聖羅は了解と頷く。
「そうね。でも、スパイク選ぶ前に、お昼食べましょうよ」
「……そうだな」
「ちょっと、なんで返事するのに時間がかかったのよ」
「いや、気のせいだとは思うんだけど、都合のいいように時間を伸ばされている気がして」
「私は普通にお腹が空いただけよ」
「それならいいんだが……うーん」
「なに、ならソウタくんはお腹空いてないの?」
「は? めちゃくちゃ空いてるに決まってるだろ」
「空いてるんじゃない⁉ なら、早く行きましょうよ。あ、ここのフードコートってどこにあるのかしら?」
「それも知らないのに腹減ってたのかよ……ほら、案内するから、行くぞ」
歩き出す颯太の背中を、聖羅はくすくすと微笑みを浮かべながらあとを追い始めた。
「ねぇ、ソウタくん。今日は何が食べたい気分なの?」
「んあ? そうだな……部活終わったあとだし、そうだ、久しぶりに牛丼が食べたかも」
「ギュウドン? って何かしら」
「嘘だろ? 牛丼だぞ。ご飯の上に肉が乗ってる丼もののことだよ。誰でも知ってるだろ」
「ごめんなさいね。私、そういうのに疎くて」
「お前、もしかしてお嬢様だったりする?」
「私は普通の中流家庭だけど……」
なら尚更衝撃だった。けどそんな衝撃は、どうしてかすぐに飲み込めて、
「ま、そういう家もあるのかもな。よし、なら今日は牛丼食べてみるか? 聖羅が良ければだけど」
「そうね。せっかくだし、ギュウドンとやらを食べてみようかしら」
「ならそれでお昼は決まりだな」
お昼ご飯も順調に決まり、二人はデパートへ入っていく。
中に入る間際。颯太はちらりと聖羅の顔を一瞥する。
やはり、彼女はいつもより上機嫌な笑みを浮かべていた。それはたぶん、友達と初めて買い物にきた高揚感なのだろう。アリシアも、自分と初めてデパートに来た時は大層な笑みを浮かべていた。
その瞬間だった。
今ある光景と、かつての思い出が、不意に重なった。
「――っ」
人知れず息を呑む颯太に、聖羅は小首をかしげて、
「どうかしましたか、ソウタくん」
――どうかしましたか、ソウタさん。
幻聴すら聞こえた気がして、颯太はハッと意識を返すと首を振った。
「なんでもない。悪い、急に立ち止まって」
「なんでもないならいいですけど、具合が悪いようなら言ってね。無理はさせられないから」
「気遣い助かるよ。ありがとう」
不安げに瞳を潤ませる聖羅に頭を下げて、颯太は再び歩き出す。
――気のせいだよな。
先程の、二人の笑顔が似重なった瞬間。あの一瞬がどうしても頭から離れなかった。
胸にそんなしこりを残しながら、颯太は歩き続けたのだった。
―― Fin ――
なんか意地かやけか分からないけど毎日投稿が続いて良かったです。
ただ作者の予定としてはここであれがあれになってあれになったんですけど、そこまで行きませんでした。悔しいです!!




