第82話 『 お疲れ様とご褒美を 』
今週お仕事頑張った皆さんも、そして毎日を生きる読者様に、アリシアと颯太の鼻血が出てしまうほどのイチャイチャをご堪能ください。作者は先に天国に逝ってます。チーン
【 side颯太 】
―― 15 ――
――四日間の中間考査と残りの授業、そして部活が終われば、待ち望んでいた休日がやってくる。
「ただいまー」
ガララ、とレトロな音を立てて戸を引けば、それと連動するように足音が遠くから聞こえてきて苦笑が漏れた。
時刻は既に十九時になろうとしている。お腹を空かせた恋人の為に、今日は何の夕飯にしようか悩みながら、颯太は靴を脱いだ。
――とりあえずは、アリシアの食べたい物を聞いてから献立作るか。
基本、夕食は颯太の担当なので、まずはアリシアが食べたい品を一つ入れるのが今の颯太の献立の組み立て方だった。あとはサラダやみそ汁、白米におかずを数品添えるだけなので、これといって手の込んだ料理かと言われればそうではない。こうして毎日のように作ってみると、家庭を持つ主婦が如何に日頃から苦悩と工夫をしているのか理解できる。だから、たまに料理をサボりたくなる気持ちも納得できてしまう。
「ソウタさん!」
と日頃の主婦の労力を脳内で感嘆していると、渡り廊下からとことこと白銀の髪を揺らして少女がやって来た。
少女が咲かしている笑みに、今日の溜まった疲労が吹き飛んでいく気がした。
「ただいま。アリシア」
「お帰りなさい、ソウタさん!」
いつもの挨拶も、颯太にとっては大切なアリシアとの時間だ。
「今日もお疲れ様です」
「アリシアもね。いつも家事ありがと」
「いえいえ。それが私のお仕事ですので」
アリシアはふん、と鼻息を強く吐いて胸を張って答えた。段々と逞しくなりつつアリシアに黒瞳を細めて、颯太は込み上がる愛情を手の平に乗せた。
「くぅ」
頭を撫でると、アリシアは子犬のような鳴き声でその温もりを受け入れる。
今週はテストのおかげでアリシアと居られる時間は多かったが、それでも、まだまだアリシア成分は不足気味だ。というか、年中欠乏しているので可能であれば四六時中くっついていたいのだが。
「あー。体にアリシア成分が補充されていく~」
「なんですかその成分⁉ ソウタさん、私から何を補充してるんですか⁉」
口から零れた言葉に瞠目するアリシアに、颯太は頭を撫で続けながら続けた。
「愛情だよ。これはアリシアと一緒に居られる時に補充されるから、できればずっと補充してたいやつ」
「それじゃあ、私もソウタさん成分が欠乏していることになるのですが……」
どうやらアリシアも、颯太と同じ気持ちだったようだ。それを包み隠さず言われてしまったから、颯太も嬉しいやら恥ずかしいやらでバツが悪くなる。ただやっぱり、嬉しい気持ちの方が強くて。
互いに一緒に居られる時間が減って、離れている時は焦燥感が積もる。
けれど、その時間を過ごした分だけ、温もりというものは大切に感じられて、
「じゃあ、もっとアリシアに触っていい?」
「ふふ。勿論ですよ」
子どものような颯太の問いかけに、アリシアはくすくすと笑いながら受け入れる。
「私も、もっとソウタさんの温もりが欲しいです」
「ん。俺も、アリシアの温もりを堪能したい」
金色の瞳に慈愛が灯れば、颯太はリュックを肩から乱暴に落とす。それをアリシアに咎められなかったのは、きっと彼女も焦燥感に浸っていたからだろう。
撫でる手を離し、両手を華奢な背中に回せば、彼女も細い両手で背中を包み込んでくれた。
二人の間に隙間が無くなれば、そこに生まれたのは高まる心音と、全身を巡る〝幸せ〟で。
「ソウタさんの心臓の音、大きくなってますね」
クスッ、と笑うアリシアに、颯太はむっ、と頬を膨らませた。
「アリシアだって、息荒くなってるよ」
「仕方がないじゃないですか。ソウタさんの匂い、なんだかよく分からないですけど気持ちが高まるんですもん」
「ちょっとまってアリシアさん。それ臭いってことですか」
そういえば部活で汗を搔いていたことを忘れて、颯太は慌てて離れようとするも、背中に回された両手がそれを阻んだ。
「離れちゃ、やです」
「でも、汗臭いのでは。一応、終わる時に制汗剤で体拭いたけどさ。やっぱお風呂入ってからもう一回抱きしめていい?」
「お風呂入った後もぎゅっとしてくれて構いませんし、それに汗の匂いなんて気にしませんよ。すんすん」
匂いを嗅ぐアリシアの鼻の息が擽ったくて、つい吐息が零れた。
「うん。やっぱり、嫌いじゃありませんよ。むしろ、好きかもしれません」
「アリシアがまさかの体臭フェチだった」
「なんだか変な誤解が生まれた気がして不服ですけど、普通に臭いのは嫌いですよ。ただ、ソウタさんのこの匂いは、ソウタさんが今日一日頑張ったという証のものなので、嗅いでいて嬉しいというか、今日も一日お疲れ様でしたとか、そういう気持ちになるんですよね」
端的にいえば、颯太が頑張った良い匂いがするそうだ。だから、アリシアは好きな匂いらしい。
「天使って匂いで人が頑張ったかどうか分かるんだ」
「さぁ? 私はソウタさんの匂いしかわかりませんよ」
「ぐはっ。可愛さに寿命が縮まる」
「沢山一緒に居たいので、ちゃんと長生きしてくださいね」
「縮まった寿命がまた延びた。アリシア、そろそろ俺の男心弄ぶのストップして」
「私は思ったことを言葉にしてるだけですよ?」
「それが破壊力抜群なの。俺の心臓が保たないんだよ」
アリシアの一挙手一投足が颯太の心臓を高まらせる。バクバクと騒がしく鳴る心臓が、思うように落ち着きを取り戻してくれない。
そんな颯太の心情を知ってか知らぬか、アリシアはさらに体を密着させてきた。さらに跳ね上がる心臓に、アリシアが耳をくっつけると。
「ふふ。本当だ。ソウタさんの心臓。凄くバクバクしてる。嬉しい」
「アリシア……」
白銀の髪が、彼女の表情を隠す。今、アリシアがどんな表情をしているか分からない。けれど声音は、慈愛の熱を帯びていて。
「ソウタさん。もっと、私でどきどきしてください。私がいつも、ソウタさんにどきどきしてるくらい」
彼女のお願いに、颯太は唇を緩めた。
「そんなの、いつもアリシアにどきどきしてるに決まってるじゃんか。たぶん、アリシアが思ってる何倍も、俺はキミにドキドキしてるよ」
「いいえ。私のほうがどきどきしてます」
「いいや、俺の方がドキドキしてるね」
「むぅ」
「むっ」
いつもは譲歩し合うのに、こういう時は譲らない二人。
「それじゃあ、私がどれだけソウタさんにどきどきしてるのか、教える必要がありますね!」
「俺の方こそ、アリシアが可愛すぎて悶えてることを分かってもらう必要があるね!」
穏やかな日常。笑顔の続く毎日。楽しさと愛しいさが籠る時間にも、時には口喧嘩する日があっても悪くない。これが口喧嘩かはさて置き、だ。
それから夕食までの時間は、互いが互いを褒め合い、耐え切れなくなって顔が真っ赤になって爆発するという繰り返しが続いたのだった。
「アリシアの全部が可愛いせいだ!」
「ソウタさんの全部がカッコいいせいです!」
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恋人との賑やかな時間を楽しんでいると、不意に香ばしい匂いが鼻に届いた。
「あれ、台所から良い匂いがする」
「あそうだ。ソウタさんと言い合いっこしていて、すっかり忘れてました」
「何を?」
はっ、とするアリシアに、颯太は首を傾げる。
眉尻を下げる颯太に、アリシアはにこにこと笑みを浮かべて、
「ソウタさん。今日の夕飯はもうできてますよ!」
「え?」
そう告げられて、颯太は目を瞬かせる。
ご機嫌に笑みを浮かべ続けるアリシアの顔を凝視して、颯太はもしかして、と気付くと小走りに渡り廊下からリビングへと足を運んだ。
「これって……」
言葉を失う颯太に、後から追い付いたアリシアが少し照れながら言う。
「お夕飯を作るのは初めてだったんですが、私なりに気合を入れて作ってみました」
もじもじと体を揺らすアリシアと、テーブルに並べられた〝それ〟を交互に見る。
颯太が驚愕する理由。それは、これから料理が並べられていくであろうテーブルに、既に料理が並べられていたことだ。
「どうでしょうか。ソウタさん」
「どうもこうも……これ、アリシアが一人で作ったんだよね」
「はい。上出来とはいえませんが、でも、頑張って作りました」
テーブルには、二人が座る席には色とりどりの料理が置かれていた。アジの塩焼き、きんぴらごぼうに卵焼き。中央には肉じゃがが並べられていた。さらに、台所の方にはご飯はただ白米ではなく、白身魚の炊き込みご飯が。そして、つみれの味噌汁が用意されているらしい。
「…………」
「あの、やっぱり駄目だったでしょうか……」
黙る颯太に、アリシアは自分が余計な事をしたと不安になる。
アリシアの顔が曇って俯きそうになる瞬間だった。
「――うわっぷ」
何も言わず彼女との距離を詰めれば、そのまま颯太はアリシアを抱きしめた。
唐突に抱きしめられて、アリシアは驚きのあまり口を金魚のようにパクパクさせるも、颯太は取り繕う暇などなかった。
ただ、胸に喜びの感情が沸き上がって、本能が望むままにアリシアの体を強く抱きしめる。
「凄い嬉しい。作ってくれて、ありがとう」
「そんな。これくらいのことで喜ばれては、私が困っちゃいます」
そんなことではない。颯太にとっては、彼女が一生懸命、自分の為に料理を作ってくれただけでも男心がこの上なく満たされることだ。
暫く抱きしめらたままのアリシアも、颯太の想いが伝わったのか安堵の息を溢した。
「一生懸命作って、ソウタさんにこんなに喜んでもらって良かったです」
「喜ぶのは当たり前だよ。だって、アリシアの手料理なんだから」
アリシアの料理の腕は少しずつ、確実に上手くなっている。彼女の日頃の努力と研鑽は、朝の憂鬱な時間を晴らす活力になっていた。自分が作る料理より、アリシアの作るご飯の方が美味しいと感じるくらいには、アリシアの料理は立派なものになっている。
「でも、どうして今日は夕飯作ろうと思ったのさ?」
ふと脳裏に降って涌いた疑問に、アリシアは胸に押し付けていた顔を上げると、
「だって、今週はソウタさん、テストがあったでしょう。ですから、それを乗り切ったご褒美をあげたくて。私はこれくらいの事しかまだできませんから」
「テストなんて、全国の学生が必ず通る道だよ」
なんなら恒例行事の一つだし、テストなんてものは中高に上がれば模試など学力検査などで頻繁に行われる。颯太は勉強ができる方なので、これを苦行と感じたことはないが。
「それでも、ですよ。頑張った人にはご褒美をあげる、これ、ソウタさんから教わった事ですよ」
「それを言われると、返す言葉もないな」
頬を小さく膨らませるアリシアに、颯太は苦笑。
「テスト、どうでしたか。頑張れましたか?」
まるで母親のような言い方に、颯太はぎこちなく答えた。
「普通だよ。赤点は取らないと思うし、順位も前と変わらずにいられると思う」
むしろ、アリシアの隣に立とうという意思が働いたからか、前よりも授業や自習に集中できたかもしれない。勉強時間は変わってないはずだが、今回のテストはそれなりに自信があった。
「そうですか普通ですか。……でも、ソウタさんの普通って、普通じゃないんですよねー」
「なにそれ」
「うふふ。ソウタさんの普通は凄いということですよ」
アリシアの言葉に疑問符を浮かべると、彼女は気にしないでくださいと微笑みを浮かべる。
「じゃあ、勉強の方は頑張った、ということで。なら、今日の部活は頑張りましたか?」
「めっちゃ頑張った。今日もヘトヘトになるくらいには頑張った」
「食い気味に……ま、まぁ。頑張ったならいいです。はい。ソウタさんはやっぱり頑張り屋さんですね」
「ねぇ、アリシア。さっきから思ってるんだけど、これ何プレイ?」
誰も見ていないから羞恥心もある程度は堪えられるものの、今の時間はただひたすらにアリシアにべた褒めされてそろそろ颯太の理性が保たない。このままではアリシアに褒め殺される。
体が密着しているということもあり、温かいというより全身が熱い。
堪らず密着状態を解くと、アリシアは両手を背中に回し、そして金色の瞳に慈愛を宿しながら上目遣いで告げた。
「頑張り屋さんが、自分の認めるための――恋人からのサプライズですよ」
「――っ!」
屈託なく笑いながら告げる恋人――アリシアに、颯太は感無量の喜びを味わう。
颯太にとっては、テストと部活なんて日常の一環だった。
けれど、そんな代り映えしない日々も、アリシアがいるだけでいつもの日常が鮮やかに彩られていく。
テストも、部活も、頑張って良かったと思えてしまう。キミがこんな風に、自分の為に成果をくれるなら、
「一週間、頑張って良かったなぁ」
「はい。ソウタさんは頑張ったことを、ちゃんと褒めていいと思います」
「あいつらに勉強教えるのも、苦労した甲斐があったなぁ」
「そ、それはまぁ……ご苦労様でした」
笑顔を引き攣らせるアリシアに、颯太は穏やかな笑みを見せた。
「ありがとう、アリシア。俺にとって、これは最高のサプライズプレゼントだよ」
「――はいっ‼」
家に帰れば待ってくれる大切な人がいて、労ってくれる人がいる。それが、人にとってはどれだけ幸せなことなのか、颯太は少しだけ理解できた気がした。
颯太の万感の想いを、アリシアは破顔して受け入れた。
それから、アリシアは颯太の背後に回って、背中を押していく。
「それじゃあ、早くご飯食べましょう、ソウタさん。もう私、お腹ぺこぺこですよ」
「分かったから。あんまり押さないでください、アリシアさん」
「いやでーす。ふふ」
「はは。――本当に、アリシアといると調子狂うなぁ」
何気ない日常も、キミとならいつでも鮮やかな日常だ。
―― Fin ――
天国からふっかーつ!!
作者はこの物語完結させるまで何度でも蘇るぞ!!
今話は2話に分けようと思ったもの合体させました。出し惜しみはなしだッ。
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